第三章 4

「本当にもう大丈夫なのか?」


「え?うん、大丈夫よ。先生も言ってたように前を向かなきゃ。あ、そうだ、透夜君。今度沙優と出かけるってほんと?」


「あ、うん。誘われて」


 急な話の展開に動揺する。


沙優とは村井の下の名前だ。昨日その村井から一緒に映画に見に行かないか、と誘われた。せっかく誘ってくれたから行こうかな、と思った。


「…そっか。私やることあるから先帰るね」


 僕の返信も待たずに神谷は去ってしまった。何か大事な用があるのかすぐに神谷の後ろ姿は見えなくなった。


 家に帰りテレビをつける。


『昨夜10時ごろ、○○市の河川敷で女の子が川に落ちた、との通報がありました。警察が駆けつけたところ近くの中学に通う13歳の少女が川に浮かんでおり、その場で死亡が確認されました』


 今月の自殺人数は合計71人となった。




「ねえ、あんた愛とどういう関係?」


 風島が亡くなってから一週間が経った今日、僕は今河野愛莉に校舎裏に呼ばれたと思いきや、追い詰められている。


「ねえ、早く答えてよ」


 近い近い。河野は顔を近づけてくる。河野の顔は整っていて、道端でスカウトされるくらい綺麗だ。そんな子に顔を近づけられて頭が回らない。


「ちょ、ちょっと…近い」


「あ、ごめん。…そんなのいいから私の質問に答えてよ」


「え、えっと。神谷とは小学校が一緒だったくらいだよ」


「中学は?愛の中学校時代は知ってる?有網中学校だった?」


「し、知らないよ。神谷は小学四年生の時に転校しちゃったから」


「…そう」


「急にどうして?」


「…あっちから声しなかったか?」


 人の声が聞こえる。こちらに向かっているようだ。河野は舌打ちをして僕に向かって勢いよく言った。


「あの子には気をつけて。風島を殺したのはあの子かも知れないから」


「え?どういう…」


 河野は僕の話も聞かず走っていってしまった。


『あの子には気をつけて。風島を殺したのはあの子かも知れないから』


「一体どういうことだよ…」


 家に帰ってからも河野の言った言葉が忘れられない。神谷が風島を?そんなわけがない。だって神谷は風島のことが好きだったから。それに風島を殺した犯人は捕まっている。


 神谷に風島を殺す動機がわからない。


 有網中学。


 ふと思い出す。河野が言っていた中学は聞いたことがない。ネットで検索してみると同じ市内にあるようだ。神谷はここの中学に通っていたのかな。早速メールで聞いてみた。


『神谷、少しいいか?』


『うん、いいよ』


『神谷ってどこの中学通ってた?』


『有網中学だったよ』


「有網…」


河野が言っていた中学と同じだ。しかしなぜ河野は神谷の中学を知りたかったんだろう。


明日聞いてみよう。

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君との約束を、僕は後悔する 怜來 @KAI_18

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