第23話


「なに?仲良しごっこでもしてるの?」


興味なさ気にそう言い放ったのは、THE ZOONきっての女王様バンビだった。そして餌食になったのはトラとウリ。


鹿「朝も一緒に来るし、お弁当も似たようなおかず入れて。なんなの一体」


虎「えっ...、いや...。俺たちいつも仲良しだもんな〜?」


猪「......。」


兎「バンビちゃん、そんなとこで仁王立ちしてないでこっちおいで〜」


リーダーは自分の隣をトントンと叩いた。バンビはフンッと鼻を鳴らし、リーダーの元へと去っていった。


兎「仲良いに越したことないだろ?」


鹿「まぁ別に、どうでもいいけど」


移籍後も揺るぎないバンビ節に、リーダーは思わず笑ってしまった。続けてトラとウリに目で「大丈夫?」と尋ねたが、2人からは苦笑いが返ってきた。


リーダーは、2人にも何かしら事情があるのだろうと思い、いざという時相談しやすいよう声掛けはしていたが、基本的にはあまり踏み込みすぎないようにしていた。



兎「それにしても、事務所が変わるだけで仕事のやり方がこんな変わるもんなんだな」


鷹「やりやすくなったか?」


兎「かなりな!スケジュールに無駄がないし、仕事のバリエーションも増えた。今は動画投稿サイトにあげる動画を撮るのが楽しい!」


鷹「そうか」


虎「前の事務所とはノウハウが違う感じするよね〜!」


猪「意見 聞いてくれる」


兎「ほんとだよな!移籍してもついてきてくれたファンのために何かしたいって言ったら、すぐファンミーティングの提案してくれたし」


鹿「内容も僕たちの希望をかなり通してくれたしね」


兎「これを当たり前だと思わないようにしような〜」


と、最近ではもっぱらこんな話をしている。



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今日の仕事は15時までだった。メンバーと別れたリーダーは、一度家に帰ってから再び駅へ向かった。 



「タカ。お待たせ」


キャップを被っていてもオーラが溢れ出てしまっているタカのすぐ近くまで行き声をかけた。

今から2人で買い物に行く。早速タカの案内のもと目的の場所へと向かった。


「付き合ってくれてありがとな」


「約束してただろ」


「もうかなり前になるけど。 ウリのお返し遅くなっちゃったな〜」


ウリにピアスのお返しを渡したいと言った矢先に移籍やらがあって、その後もみんなで仕事に打ち込んで、プレゼントを渡す雰囲気ではなかったため、結局この時期になってしまった。



「こんなとこに店があるんだな」


人通りの多い通りから何本か奥まった道に、お洒落な古着屋や知る人ぞ知るブランドの店が点々とあった。

勝手知ったる様子のタカと、興味津々とばかりにキョロキョロ辺りを見渡すリーダー。案内されるがままアクセサリーショップに入った。


そこには革小物やシルバーアクセサリーなどが置かれており、ペアのものも豊富に取り揃えられていた。ショーケースに並ぶ商品を真剣に見ていたリーダーだったが、ふと小さく息をついた。


「出るか?」


「え!あぁ、そうだな!」


2人は店を出てまた次の目的地へと足を向けた。



「いいやつなかったか?」


「いや、まぁ...」と言い淀むリーダー。明るく振る舞ってはいるが、先程とは明らかにテンションが低い。


「なんか。タカもこうやって彼女とプレゼント選びに来たりするんだろうな〜と思って!」


そう言って笑ってはいるが、どこか寂し気な表情をしている。タカは怪訝な面持ちでリーダーを見た。


「タカもいつかは彼女ができて、結婚とかするんだよな...?」


言い終わるにつれ眉尻が下がっていき、自分から聞いておきながらタカの返答を恐れているようだった。



「どうだろうな。兎本はしないのか?」


「まだ分からないけど、したいとは思うよ」


「そうか。 なら俺は兎本としたい」


タカは進行方向を向いたままそう言った。あまりに普通に言うものだから、リーダーは言われたことの重大さに気づくのに時間がかかった。



「......いや何言ってんだよ! 結婚って好きな人とするもんだぞ!?」


「知ってる。だから兎本としたい」


立ち止まるリーダーと、それに気づき数歩先で振り返るタカ。

リーダーは目をパチリと開き、頭の処理が追いつかず固まってしまった。そんな姿を見てタカは、「今言うことじゃないのにな」と自分自身に呆れたようにそう言って苦笑いした。


幸いここは人通りが少なく今は誰もいない。リーダーに近寄れば、警戒したウサギのようにタカの動向をジッと追いかけた。


「悪いな、困らせて」


リーダーは少しの間を空けて首を横に振った。


「困ってない...! 困ってない、けど...」


続く言葉をなかなか見つけられない。

大切なメンバーであり良き理解者でもあるタカに突然告白されて、自分の気持ちの整理がつかなかった。

タカはそれを察していたし、今言うべきではないとも思っていたのだが、いもしない架空の彼女に嫉妬心を抱いているようなリーダーの態度に、たまらず口から出てしまった。普段は感情のコントロールが上手いタカでも、リーダーのことになると冷静ではいられなくなる。


「わかってる、返事はまだいい。俺は兎本のことが好きだ。それだけ知っておいてほしい」


「ただ、」とタカは言葉を続けた。


「気持ちの整理がついたら返事をくれ」


急かすようなことは一切なく、表情は穏やかでとても優しかった。


リーダーが頷けばタカは再び歩き始めた。その背中を追って隣に並ぶ。リーダーの心臓はバクバクと凄まじい速度で脈打っていた。この気持ちは何なのか、リーダーにはまだわからない。


ただ、夕日に照らされたタカの横顔は息を呑むほど綺麗で、まるで別人のもののようで、不思議な感覚を覚えた。同僚でもない、友人でもない、特別な存在にだけ見せる姿に、リーダーの心は激しく揺さぶられた。


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THE ZOON 桜まえあし @denpamark

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