始末

「――ッツ、フリッツ!」


 肩を揺さぶられ、我に返る。

 ぼんやりと仲間の顔を見つめていると、本当に大丈夫か、と案じられた。


「あ……ああ、大丈夫だよ」

「それじゃ、さっさと帰るぞ」


 ――帰る?

 列車へと促す仲間の言葉を疑問に感じて、己の手を見下ろせば、いつの間にか銃ではなくスコップが握られていた。

 辺りを見回せば、雪原の中に剥き出しの土の色。

 処刑した者たちを埋めたのだ。だが、その間のことは全く記憶にない。女を撃ち殺したあとは、雪のようにぽっかりと白い記憶があるだけだった。

 茫然自失の中、自分は律儀にも埋葬の作業をしていたというのか。


 奇妙な感覚にふらふらとした足取りで、フリッツは列車に向かう。冷気が全身を包んでいた。早く風のないところで温まりたかった。

 ブーツが雪を踏みしめる隣で、土塊つちくれの上に雪花が落ちる。

 先程よりも舞い落ちる雪の数が増えていた。本格的に降りそうだ。きっと反逆者たちの墓場も、すぐに雪下に埋もれてしまうことだろう。

 そして春には野花に埋もれ、彼らの墓の位置など分からなくなるに違いない。

 そうであって欲しい、とフリッツは願った。


 ――ひとつ。またひとつ。


 女は恨み言を零さなかった。ただ、フリッツに問いかけ、仲間の死を数えていただけ。

 だが、耳の奥に残っているその声は、まるで呪詛だった。今もこうしてフリッツを蝕みつつあり、また、国を蝕むのではないかと錯覚させられた。

 革命の先導者たる女の居ない国は、これからどうなっていくことだろう。またしても女の問いかけが脳裏に浮かび上がったのを、フリッツは頭を振って振り払おうとした。


「……どうか、成仏してくれよ」


 呟きを風に乗せて、フリッツは逃げるように列車に乗り込んだ。

 その願いが地中に届いたかは、列車が発車した現在、定かではない。

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呪詛は雪下に埋めて 森陰五十鈴 @morisuzu

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