277.リスク軽減策

 訓練生はこの後部屋に帰って寝るだけなので、ハンバーガーを片手にビールを飲んでいる。未成年組はコーラだけど。アメリカンだな。


「自衛隊じゃこんなこと、まずあり得ないですね……」」


 真尋がしみじみと言っているが、駐屯地にいる自衛隊はよほどのことがない限り、基本は規則正しい早寝早起きだろうから当然だな。


「私たちも食べていいのでしょうか?」


「気にせず食え。これも福利厚生の一環だ。俺たちの狩りは夜に行うからな、夕食はクレシェンテ持ちだ」


 まあ、川中さんと坂井さんの二人は今日明日のバイトみたいなものだけど、まあいいだろう。


「それで、二人の感想は?」


「前に戦いに参加した時はただ離れた所で見ているだけでした。今回は身近に化生モンスターを感じて怖かったです」


 川中さんは七等呪位で狩りを経験している。だが今回は六等呪位だった。その威圧感は半端ない。


「私は……もっと戦いかったです。スポーツ以外で本気を出せるようなことはありませんでした。自分のすべてを出し切るといった高揚感をもっと味わいたかったです」


 坂井さんは……バトルジャンキーだな。メンタル的に頼もしい反面、猪突猛進のようなのでしっかりと手綱を握り制御しないと大怪我をするタイプだ。


「まずは基礎体力向上と基礎スキル習得をしない限りは、化生モンスターとは戦わせない」


「柊くんたちもそうだったんですか?」


「僕たちも最初はスキル習得からやらせられたよ。基礎体力向上は今も続いているね。毎日、フィットネスクラブに通って体力作りをしている。もちろん、フィットネスクラブ代も会社持ちね」


 なぜ、俺ではなく柊に聞く? 


「至れり尽くせりなんですね」


 ほかの組織がどうかは知らないがクレシェンテはそうだ。命を懸けて戦っているのだ、バックアップは完全にしなければならない。


 この後も食事をとりつつクレシェンテの福利厚生について説明し、この日は解散とした。


 俺はステ値の確認とかの登録をしてからだけどな。星野さんが最後まで残っていたが、仕事ではなくかりんと戯れていたかったからみたいだ。家族はいいのか?


 大学は学祭の準備がそこかしこで始まっている。今月末の金、土、日の三日間開催される。毎年芸能人などを呼んだ大掛かりなイベントだ。俺は興味がないので参加していない。今年も参加する気はない。せいぜい、友人の参加している出し物を見に行くくらいだな。


 講義を終えクレシェンテに移動。訓練生に疲れの色が見えるが、今日の狩りが終われば二連休。だから頑張れ、疲れたくらいで甘やかすつもりはないけどな。


 エルフォルク二軍我威呵三軍には今日の狩りが終わったら会議を行うから帰らず残れと言うとブーイングが起こる。


「じゃあ、日曜日にやるか? 俺の体が空いているのは日曜しかないぞ?」


「「「……」」」


 全員、黙ったな。じゃあ、今夜で決定だ。


 狩り場の選定をしていると川中さんと坂井さんもやってきた。川中さんは大きめの紙袋を抱えてやってきた。何もって来たんだ? 


「えへへへぇ~。あとで見せます!」


 まあ、いいか。


 そういえば、瑞葵、麗華、一佳がまだ来ていない。まだ、時間には余裕があるからいいか。なんて思っていたら、三人はギリギリに到着した。


「すまない。打ち合わせが長引いてしまった」


「無理する必要はない。駄目そうなら早めに連絡をくれ」


「じゃあ、私は二週間ほど休むよ」


「お前は駄目だ。一佳」


「なんで!?」


 決まっている。どうせ、訓練したくないだけだろう? それは許されない。


 着替えて目的地に移動。駐車場で装備の分配と合成を行う。俺や瑞葵、麗華の装備も強化したいところだが、俺たちの装備はある程度完成されているので訓練生の装備が優先。


 悠斗や川中さんと坂井さんの分もあるので余らない。というより、足りないくらい。エルフォルク二軍我威呵三軍も装備を強化していかないといけないからな。


 さて、今日の相手はなんじゃらほい?


 ラクシャーサ インド神話で悪魔とされ木石水界の精霊ともいわれる。鬼神ラクシャスの一族で、墓場に出没し供え物を乱したり人肉をくらう。


 仏教でいうところの羅刹。毘沙門天の眷属で十二天の一人でもある。所変わればってやつだな。元は悪魔だったのか。


 バトルフィールドを展開して、赤星あかほしさんと悠斗とカメラをセッティング。今回は悲鳴が聞こえなかったな。


 全員を集めてミーティング。今回は間違いなく近接戦闘タイプ。戦いやすい反面、小手先の技は通用しない可能性がある。


 要するに力と力のぶつけ合い、殴り合いだな。搦手がない分、あの体型を見る限りただのパワータイプではなく技巧派かもな。その分、地力が試される


 楽しい狩りになりそうだ。


 全員にラクシャーサについて説明する。といっても、こいつを相手にするには俺と瑞葵、麗華だけどな。だが、間違いなく援軍を呼ぶ。その援軍の一部は訓練生と悠斗たちに戦わせる。


 基礎スキルは川中さんと坂井さん以外は全員覚えた。投げた石が化生モンスターまで届かない一佳でさえ投擲スキルを覚えた。気配察知も真尋が覚えた。プチ回復スキルも数人覚えている。


 そろそろ、本気の実戦訓練を積ませる時期にきた。今日の相手はちょうどいい相手になると思う。おそらく援軍も近接戦闘タイプとみている。


「最初は各自自主練。援軍が出てきたら真尋、悠斗が各リーダーになって各一体を相手にさせる。真尋の次は岳人をリーダーにする。ローテーションで全員にリーダーをやらせるから、自分がリーダーならどうするかということも考えながらみなに指示して行動しろ」


 一条さんは納得のいっていない顔をしているが、何も言ってこない。それでいい。黙って見ていろ。


「悠斗チームには中位精霊ミドルスピリット黒鬼くろおにを付ける。上手く使え」


「私が指示を出さなくていいのかい? 恢斗」


「出さなくていい。危ないと感じたら指示と手を貸してやってくれ」


「了解した」


 麗華の指示に従っていれば楽だ。だが、それでは成長しない。自分たちで試行錯誤して戦うことを学び、一人だけのリーダーを作らず全員リーダーとなることが重要。


 リーダーの負担を減らすことが、一番のリスク軽減だと思っている。






猫(ΦωΦ) Ψ(ΦωΦ) Ψ(ΦωΦ) Ψ(ΦωΦ) Ψ(ΦωΦ) Ψ猫


ブラックマーケット・∞(インフィニティ)~世界の理から外れた男の二拠点生活~

https://kakuyomu.jp/works/16817330667341551839


同作者が描く神猫ミーちゃんのスピンオフ作品。

現代と異世界マヤリス、そしてBMブラックマーケットを行き来できるようになった主人公が織りなすサクセスストーリー。

ミーちゃんとネロに会うかは未定ですにゃ。


ちなみに、神猫ミーちゃん八巻が十月五日発売!!

にゃんたろうの作家人生はみにゃ様のご厚意にかかってますにゃ!

買ってください!

お願いしますにゃ m(_ω_) m

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2024年9月20日 00:00

ホルダー戦線~日常と非日常の狭間でホルダー界のランキングを駆け上がる~ にゃんたろう @nyantarou

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