266.歓迎会

 月山さんがホルダー管理対策室に苦情メールを投げた後、歓迎会で予約したお店に全員で移動。総勢三十四人になる。大所帯だ。


 今日は京風の居酒屋を予約したらしい。料理が美味いしいということなので期待だ。


 店に着き全員席について飲み物を注文。届いたところで、月山さんの挨拶。結構長い……。ビールの泡が消えている。


「……二か月と短い期間ではありますが、悔いのないように学んでいってください。それでは、乾杯」


「「「「「乾杯」」」」」」


「「「「「うぇーい!」」」」」


 俺の横には麗華と春塚さんが座っている。瑞葵は麗華の隣だ。少し不機嫌そうな顔に見える。


「恢斗さん、どうぞ」


 春塚さんが大皿の料理を取り分け皿に盛って俺の前に置く。


「春塚さん、気にせず自由に飲み食いしてくれ。春塚さんたちの歓迎会だ」


「お嫌ですか? それと、華澄かすみと呼んでください。麗華や瑞葵は名前で呼んでいるのですよね?」


 悲しそうに上目遣いで言われると断りずらい。それと、呼び捨ては瑞葵と麗華はホルダーのパートナーだからな。月山さんたちは一応同僚として区別している。ほかの連中は俺の部下って感じで上下関係をしっかりするために、あえて名前呼びして区別をつけているのだ。


 ちゃんとTPOに応じて言葉遣いは変えている。


「了解。そう望むなら華澄かすみと呼ぶ」


 そう言うと、眩しいくらいの笑顔をみせてくれた。三つ年上だから麗華と同い年になるが、麗華とはまた違った大人の魅力を感じるな。


 訓練生はおとなしく飲むのかと思っていたが、二軍、三軍と一緒にはっちゃけている。これが素なのかもしれない。年齢が近いから話もしやすいんだろう。ちなみに、赤星さんと今宮さんもな。


 リーダーの真面目な真尋が少し浮いている気がするが性格だろう。気にするレベルではないな。


 それと、この場で前に話していたチームの名前が発表された。


「私たちのチーム名はスフィーダ。挑戦という意味ですわ」


 イタリア語らしい。正直、どうでもいい。瑞葵と麗華が決めたのでそうなっただけ。


「俺たちのチーム名はエルフォルク。ドイツ語で賢者って意味っす」


 なぜドイツ語? それと、なんで賢者なんだ? わけわからん。


「俺たちはチーム我威呵ガイア。夜露死苦!」


 うん。この中で一番しっくりくるチーム名だ。柊が恥ずかしそうに俯いているのは見なかったことにしてやろう。


 訓練生組もチーム名を付けようなどと騒いでいる。


 そんななか、隣から爆弾発言が投下される。


「土曜日のパーティーは父と妹と出席します。楽しみです」


華澄かすみも参加するんですの? 聞いていませんわ」


「私も聞いていないぞ? 華澄かすみ


 俺も聞いていない。


「おじさまとお父様が話しをしているの聞きまして、お願いしました」


「お父様は……」


「叔父様は……」


 まあ、三人増えるくらいならさほど問題はないだろう。月山さんは知っているんだよな? 後で確認しておこう。


「アニキの部屋でパーティーするんすか?」


「俺たちも行きてぇ~!」


「「「「「うぇーい!」」」」」


「けっ、潰れちまえ、ハーレム野郎!」


 一佳、聞こえてるぞ。


「また今度な。今回は業務命令だから無理だ」


 こいつら呼ぶと、面倒になりそうだから正直呼びたくない。


 ざる豆腐とだし巻き玉子旨いな。ここは日本酒かな。


 日本酒と生麩田楽と揚げ出し豆富を頼む。日本酒が届いたところで、正面に座る悠斗に一献勧める。


「どうだった?」


「悔しい思いと、それ以上の高揚感と充実感を得ています」


 こいつ、正義感よりバトルジャンキーのほうが上なんじゃね?


「言っとくが、良い武器防具を着けていたから戦えた。その辺のホルダーでは手に入らない武器防具だ」


「そうなんですね……」


 六等呪位からドロップしたステ値補正も入っている武器防具だ。レベル的に十くらいは上の力になっている。まあ、それを差し引いても悠斗の実力は高い。あえて言わないが。


「あの化生モンスターに一人で戦えるようにはなれますか?」


「今のままでは無理だな。悠斗の適合率ならレベルを上げれば一人でも八等呪位を狩れるだろう。レベルが上がって尚且つ使ようになれば、あの七等呪位までは狩れるようになれるとは思う」


「では、恢斗が戦っている六等呪位などは到底無理ということですか?」


「基本、六等呪位は二チームで狩る化生モンスターだ。途中で、敵に援軍が現れたろう? 今まで戦って援軍を呼ばなかった六等呪位は一体だけだった」


 なんで呼ばなかったのかはわからない。俺一人で戦ったからだろうか? なにか法則でもありそうなんだけどな。思い当たるのは、最初に話をしたことだろうか? あの悲し気な目、手加減してくれたとのではと今なら思う。


「六等呪位だけでなく、七等呪位クラスが二十体出てきて勝てると思うか?」


「無理でしょうね。ですが、訓練生チームはほとんど役に立っていませんでしたが、それでも戦いには余裕がありました。実質、一チームで戦っていたようなものです」


「俺のチームは少数精鋭のうえ、使役化生モンスターを育てている。俺たちの使役化生モンスターはそれぞれが七等呪位クラスのレベルだ。実質三チームで戦っていたのと同じだ」


 使役化生モンスターを使う戦いをするなら、ホルダー四人編成が一番理想的。一番、ホルダーの数と使役化生モンスターの数が多くなるからだ。


 使役化生モンスターの数が多くなると統率し難くなる。ある程度は自立思考を持っているが、やはり細かい指示を出さないと駄目だからな。使役化生モンスターの数が少ないほうがホルダーにかかる負担が少なくなる。戦いながら使役化生モンスターの動きを見て指示するのは結構大変。


 俺は並列思考があるから結構楽にできているが、並列思考を持たない瑞葵や麗華がそれを行っているのは優秀と言わざるを得ない


 最近知ったことだが。同じチームなら使役化生モンスターの指示を一人に任せることができる。大変だけどな。


「恢斗は六等呪位を一人で倒せますか?」


「倒せる。実際に倒している。だが、援軍二十体は出てきていない。出てきた場合に関しては、やってみないとわからないができそうではある」


 おそらく、あの援軍をすべて倒さずとも、六等呪位だけを狩ってしまえば終了になるのではないかと思っている。


 個人的には六等呪位と援軍二十体と一人で戦ってみたい。さぞや、楽しめることだろう。


 訓練ルームでできればいいのにな。









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ホルダー戦線~日常と非日常の狭間でホルダー界のランキングを駆け上がる~ にゃんたろう @nyantarou

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