その6.5 ごめんなさい

 ――そして、翌日。

「え~!?もう朝なんですか~?さっきまで楽しくお話ししてたのに~」

「お前があんまりNGワードくさいものを連呼するから創造主が怒ったんだな」

「僕も聞いててヒヤヒヤでしたよ」

「これでわかっただろ。とにかく創造主に逆らうな」

「は~い」

「と言っても、悪いことばかりではない」

「と、言いますと?」

「つまりだ。この神のごとき存在を味方につければ俺たちは鬼にも勝てるしもはや無敵ってわけだ」

「そうなんですか~?」

「ああ。例えば、なんかすげー鬼が現れたとしても、『なんかもうめんどいからここで鬼にやられてもらうか』って創造主が思えばそこで鬼がやられる」

「すごいですぅ~!」


 そうこうしているうちに、一月が過ぎました。

「え~!?もうですかぁ?」

「我らが創造主はどうやら相当めんどいらしいな」

 桃太郎一行はもはや常人では敵わないほど、それどころかもはや鬼など敵ではないほどに強くなっていました。

「ほら、勝手にパワーアップされてるし」

「でも、急過ぎじゃありませんか?」

「気にするな。創造主が決めたことだ」

「桃太郎さ~ん。顔が緩んでますよ」

「おう、悪い悪い。それじゃあ、いざ鬼退治へ!」

「お~!」

「はい。参りましょう」

 こうして、桃太郎一行は鬼退治へと向かったのでした。果たして、この三人で鬼を倒すことができるのでしょうか。乞うご期待!














「ってちょっと待て!」

「なんですか、桃太郎さん」

「そんな大きな声出さないでくださいよぉ~」

「いいから。はい番号~、一!」

「二」

「さ~ん」

「……」

 ……おや?

「もう一度。一!」

「二」

「さ~ん」

「……」

 微妙な空気が流れます。

「さて、リンに問題だ」

「はい」

「俺たち、なんか忘れてないかな?」

「はい。何か忘れてると思います」

「僕も同感です」

 しばしの沈黙。

 ………………………………ポーン!

「源八朗がいねえ!」

 さあ、どうしたことでしょうか。

 マジでここには三人しかいません。どこに消えたのでしょうか、あの変態オヤジ。

「どう思いますか、桃太郎さん?」

「可能性は二つ。源八朗はこの山のどこかにいて、なんらかのギャグの準備をしている」

「どうしてギャグなんですか~?」

「細かいことは気にするな。で、もう一つの可能性として考えられるのが……」

 桃太郎はごくりと唾を飲み込み、言いました。

「過去に取り残されてしまった、ということだ」

「そうですか」

「そうなんですか~」

「ずいぶん淡白な反応だな」

「慣れましたからね」

「それに、なんだかもうひとやま来そうな感じがしてたんですよ~」

「そうか。まあいい。とりあえず対策を練ろう」

 ここで、三人はシンキングタイムに入ります。

…………………………………………

……………………………………………

………………………………………………!!

「いい考えが浮かびませんね」

「全然です~」

「ほんと、いいネタってなかなか思いつかないもんだな」

「ていうか桃太郎さんはネタ考えてたんですか!?」

「おう。そりゃあ、おもしろおかしく生きていきたいからな」

「ところで、さっきから気になってたんですが、さっきの思考中「……!!」ってなってた人がいたみたいなんですが、あれは誰が何を思いついたんですか?」

「あ、あれ俺」

「だめですよ、思いついたらまずみんなに話さないと」

「やっぱり寂しいものがあるな」

「急に何言い出してるんですかぁ?」

「いやな。いつもだったらここで『だったらさっさと言えぇぇ!』って源八朗がつっこむところだな、と思ったんだ」

「でも、あの人つっこんだりボケたりしてますけど、結局どっち向きなキャラなんでしょうか」

「その辺は気にするな。なにしろ俺たちは時にツッコミ時にボケをかますというオールラウンダーなんだからな」

「つまりはキャラが固定されてないってことなんですよね…」

「それはさておき、話が脱線したから戻すぞ」

「桃太郎さんが脱線させたんじゃないですかぁ~」

「それはさておき、桃太郎さん。思いついたことを話してください」

「ああ」

 桃太郎は神妙な面持ちで話し始めました。

「いいか。この世界には神がいる」

「あの、この期に及んで神が出てくるんですか?」

「まあ、聞け。いいか、この世は我らが神が支配している」

「ここだけ聞いてると怪しい宗教の演説みたいですね」

「そこ、いちいち口をはさまない。ここは簡潔に伝えよう。おれたちの世界如何はその神によって握られている。つまり、その神を利用する」

「具体的にはどうするんですか?」

「なにもしない」

「ええっ!?」

「いいから、黙ってろ」

「で、でもぉ…」

「俺を信じろ。とにかくずっと何もせずにいろ。いいな」














































それから何もせずに五日が経ちました。




































さらに十日経ちました。




































『あーもうめんどくせぇ。はい、源八朗復活』


 いつの間にか、減八朗が桃太郎たちの前に現れました。

「おおっ!モモ、リンちゃん、宗佑!お前ら、一体どこに――」

 一人歓喜に沸く源八朗ですが、その名前を呼ばれた三人はちょっと離れてひそひそ話をしています。

「どういうことなんですか?」

 宗佑の問いに、桃太郎は自慢げに答えます。

「放置プレイだ。我らが神が痺れを切らしたわけだよ」

「放置プレイってなんですかぁ?」

 リンが訊きますが、桃太郎は少し考えてから説明してあげます。

「つまり、俺たちがやったのはストライキだ。俺たちにどうしろってんだ!っていう怒りを神にぶつけたわけだよ」

「そんなことして神様はおこらないんですか~?」

「問題ない。なにしろ登場人物あっての物語だからな。いわば、俺たちは神にとって必要不可欠な存在なんだ。俺たちがいなければ話がまったく進まないからな」

「しかし桃太郎さん」

 ここで、宗佑が訝しげに訊きました。

「なんだ」

「いえ、僕たちが必要不可欠というのはわかりました。しかしですよ、僕たちが不要になったら、また新しい人たちを持ってきてしまうんじゃないいんでしょうか?」

「……というと?」

「いえ、ですから、僕たちがあんまり不甲斐ないと、新しいキャラクターと入れ替えられてしまうのではないかと……」

 桃太郎はしばらく考えました。そして……

「神様、勝手なことしてごめんなさい」

「(一同)おいっ!!」

 桃太郎は誠心誠意謝って、なんとか神のご機嫌をとることができました。

 

 めでたしめでたし

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ももたろう 神在月ユウ @Atlas36

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ