その6.4 作者《神》とおはなし

 ってなわけで、細かい経緯ははしょりつつ、イノシシ鍋になるわけですが。

「おれはびっくりだ」

 桃太郎は感心してしまいました。

「すごいんですねぇ~、宗佑さんって」

「うん。見事な手つきだ」

 リンと源八朗も思わず感嘆の声を漏らします。

 なぜなら、宗佑は見事な手際でイノシシをさばき、調理を進めています。

 別に面白くもなく料理の描写しててもつまらないし、っていうかどうすればイノシシ鍋なんてできるのかわからないので、過程は割愛させていただきます。

 そしてついに出来上がり、みなさんで鍋を囲みます。小屋の中の囲炉裏の各辺に一人ずつ座り、鍋から上がる湯気と香りを楽しんでいます。

「それでは、いただきます」

「いただきます」

「いただきま~す」

「いただきます」

 みな鍋に手をつけます。

 そして、幾ばくかの時間を経て、

「は~食った食った」

 夕飯終了。

「っておい!これで終わりかよ!一切描写なしか!?」

「源八朗さん。行儀がわるいですよ」

「そうですよ~」

 茶をすする笑顔君と少女に言われても、納得いかない源八朗。

「お前もだ、宗佑。せめて『おいしい』とか『ダシがいいかんじだな』とか言われたいだろ?」

「いえ。僕は満足ですよ。みなさんの声は、僕の胸に届いていますから」

「お前もとうとうイカレたか?」

 瞬間、宗佑の手によって源八朗の首筋に桃太郎の刀が当てられました。なにしろまだ宗佑は刀を作ってもらってませんからね。

「何か言いましたか?変態で救いようのないダメ人間と分別されるべき小さい女の子しか愛せないもはや人類の敵と認識しても問題ないと思われる源八朗さん」

「うっ…」

 源八朗は何か言おうとしますが、なにぶん刃が当てられてるのが喉の部分であるがゆえにあまり喋って首を動かしたくないという心理がはたらき、あまりうまく喋れません。

「やめろ、宗佑」

 かなり真剣な声で、桃太郎が宗佑を制止させました。

「お前、今自分が何しようとしているのかわかっているのか?」

「桃太郎さん…」

「モモ…」

 顔を上げて宗佑を睨む桃太郎。なんかすごい剣幕です。

「お前は何を使って何をしようとしてるのか、それを理解しているのか?それはそんなことをするために使われるものではない」

 そのとおりです。この桃太郎の刀は、理由はどうあれ鬼を退治するために使われるもの。それを人間に、しかも仲間に向けるなど……

「俺の大事な刀で、この変態でロリコンで救いようのないオヤジを、“俺の”、この“俺の”刀で斬るつもりか?」

 ……あれ?

「俺の刀をそいつの汚れた血で濡らすんじゃねえよ」

 ……いいんですかね、これで。

「すいません。桃太郎さん。軽率な行動でした」

 宗佑は深く反省しました。

「せめて自分の刀を作らせてから始末するべきでした」

 ……反省しましたよ?

「それじゃあ、宗佑さんの刀ができたら源八朗さんは抹殺ですかぁ?」

「場合によっては、それもやむなしってとこだな」

「悲しいことですが」

「おい!ほんとにそうなのか!?んなこと言ったら刀作りたくなくなるじゃねえか!」

「安心しろ、源八朗。もしそうなったらさっさとお前を始末して新しい鍛冶屋をあたるから」

「どっちにしろ死ぬのかよ!?」

 いやー、なんとも楽しげでいい光景ですね。

「おい作者ぁ!お前までなんだぁ!」

「源八朗さ~ん、誰と話してるんですかぁ~?」

「しっ。ダメですよリンさん。彼は今この世界の創造主と話しているんですから」

「創造主、ですかぁ?」

「そうです。この世の理はすべて創造主によって握られているんです。だから、めったなことを言ってはいけませんよ」

「あ!宗佑さん見てください。ねずみのカップルですよ。黒くて大きな丸い耳の、確か夢の国に住んでいるっていう――」

 桃太郎が神速のごときスピードでリンの口を塞ぎます。

「滅多なこと言うもんじゃない。神に消されるぞ」

 すると、今度は鼻歌が聞こえてきました。

「トゥットゥトゥートゥットゥトゥートゥットゥトゥットゥトゥー」

「やめろ、恐いじゃないか!」

「なんですか?ただの鼻歌ですよ?」

「リズムがやべえよ!頭を夢の国から離せ!」

「え~、なんでですか~?」

「このまま下手にいろいろ言うと、我々の神がさらに大きな存在に抹殺されかねん」

「そんなすごいのがいるんですか~」

 まじでやめてください。

 大きな企業の前に個人は無力なのです。

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