その6.3 ごはんは現地調達です
「クルック」
―――?
ハトがいます。
「おい宗佑。リンはいつからハトに変身できるようになったんだ?」
「いえ。多分初めから今までずっとできないと思いますよ」
「クルック?」
―――…………
「宗佑、どう思う」
「これは大変かつ複雑な問題ですね。つまりリンさんは山道を駆けてる間に僕たちからはぐれ、未だ山中を移動している。そう見るべきなのではないでしょうか」
「つまり、リンは…」
「ええ、恐らく…」
「晩ご飯を捕まえに?」
「違うだろお前らぁ!」
たまらず源八朗がつっこみました。
「普通に考えてリンちゃんは今遭難していると考えるべきだろ!?」
桃太郎はしばらく考えました。そして、結論。
「リンは自らサバイバル生活に取り組もうとしているに違いない」
「だから違うと言ってるだろぉ!」
「みなさ~んっ!」
「ほら、お前がアホ言ってるから痺れを切らしてリンちゃんが……って、ええぇぇぇ!?」
山の傾斜に沿って、リンが何か大きなものを引きずりながら走ってきました。左手を大きく振りながら、満面の笑みを浮べています。
「帰ってきましたね、リンさん」
「ほら、元気にやってたみたいじゃん」
「んなアホな…」
とりあえず、男三人はリンを出迎えました。
「で、どこで何してたんだ?」
「実はですね。前々から構想に入っていた武器に実用化の糸口を見たので、忘れないうちに作業に入ろうとしたんですよ」
「なるほど」
「それで、急いで小屋に戻ろうとしたんですけど、途中でイノシシが飛び出してきて……」
「で、それが」
「はい。そのときのイノシシです」
リンは引きずってきた何かを皆さんの目前に置きました。
「意外とおおきいですね」
確かに、体長はリンより一回り小さいくらい。一メートルはあるようです。
「よく持ってこれたな。こんなでかいの」
「はい。ちょっと、っていうかかなり苦労しましたけど」
「それにしても、俺はリンちゃんに是非とも訊きたいことがある」
「なんですか、源八朗さん?」
「なんでこのイノシシはこんな見るも無残な姿になってるんだ?」
具体的に見てみましょう。
まず、このイノシシですが、片目がありません。隻眼にはちがいありませんが、なんかまだ傷が生々しいです。全身には深いのやら浅いのやら傷が無数に点在し、腹なんか痛々しくもなんかはみ出しちゃってます。なんだかとってもかわいそうに見えます。
「これはですね。あんまりこのイノシシさんが暴れるのでぇ」
リンの笑顔はまさに屈託のない、という形容詞がつくものです。
「ちょっと黙ってもらうためにやむをえず刺しちゃいましたぁ」
「そ、そうか」
「これでぇ」
リンが見せたのは、平たく言うとサバイバルナイフです。
「すごく切りやすかったんですよ~」
ホント、天使の笑顔とはこのことを言うんですね。ナイフが嫌な光放ってますけど。
「桃太郎さん。今夜はイノシシ鍋が食べられますね」
「そうだな。でかしたぞ、リン」
「えへへ~」
桃太郎に頭を撫でられ、リンは嬉しそうに笑いました。
ちょうどそのとき、イノシシがピクリと動きました。
「あっ…!」
源八朗は「危ない」と言いたかったのですが、それを言う間もありませんでした。
なぜなら、神速のごとき速さで何かがイノシシの頭に突き刺さったからです。刺さっているのはさっきまでリンが持っていたごついナイフです。
「いい手つきだな」
「僕もリンさんの認識を改めなければならないようです」
桃太郎と宗佑は感心して頷いています。しかし、源八朗はそう素直に納得できません。
「なんでこんなに強いんだよ」
この質問に、リンではなく桃太郎が答えました。
「まあ、話の流れっていうか、勢いっていうか。ようは、そんな細かいこと気にしてんじゃねえよこの変態ロリコンオヤジみたいなかんじかな」
「なんの説明にもなってねえし。ていうか俺のこと馬鹿にしてるだけじゃねえか」
「まあまあ二人とも。もうすぐ日も暮れることですし、イノシシ鍋の準備にかかりましょう」
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