最終章
【奇跡の力】
大地に
さっき、切り倒したばかりの切り
花々が咲き
柔らかい緑色の若葉は、陽の光を浴びて、きらめいている。
思わず深呼吸したくなる、
花の蜜を求めて、どこかから飛んできた
木の上では、鳥達がさえずっている。
フェリックスが唄っていた歌、そのままだ。
たった半日で、森が蘇るなんてことは、あり得ない。
そうか……やっと気付いた。
フェリックスは、「
フェリックスの「歌」こそが、「奇跡の力」なんだ。
「
フェリックスの歌を聞いていると、自然と涙が
天使の歌声のように美しく
清らかな歌声に
歌の力は人間や魔の者だけじゃなく、草木や大地にも
これほどに素晴らしい「奇跡の力」を持っているのに、何故、フェリックスは「無能力の子」と呼ばれたのだろうか。
ここで、考えられることはふたつ。
・フェリックスの奇跡の力が
・フェリックスは、力の
以前、
人間は三歳になると、奇跡の力が
鑑定の水晶に触ると、水晶が属性の色に光り輝いて判定される。
火なら赤、水なら青、風なら黄、土なら緑、光なら白……といった具合に。
たぶん、フェリックスが触った時は、水晶が光らなかったんだ。
フェリックスの力が特異すぎて、判定出来なかったのだとしたら、その水晶は無能。
今すぐ、粉々に叩き割ってやりたい。
一番考えられそうなのは、ふたつ目の「力の発現が遅かった説」
フェリックスは三歳の時、力が発現していなかったから、鑑定出来なかった。
そのせいで、人間達が勝手に「無能力の子」だと思い込んだ。
今、再鑑定したら、正しく判定されるかもしれない。
かといって、
フェリックスは、人間でありながら、人間から
人間なのに、人間の街を歩くことは許されない。
それどころか、「元から存在しなかった」ことになっているそうだ。
実の両親からも「なかったこと」にされた、可哀想な子。
フェリックスが、それを知ったら悲しむ。
フェリックスが悲しむ顔は、見たくない。
今はまだ、知らなくて良い。
時が
【辞職】
フェリックスと出会ってから、
人間であるはずのフェリックスを、何故かとても愛おしいと感じたんだ。
でも、「人間を滅ぼしたい」って、気持ちは変わらなかった。
なんでか、フェリックスだけが、俺の中で特別なんだよね。
そのせいで、決意がゆらいだ。
「人間を滅ぼす」ってことは、フェリックスの両親も殺すってことだから。
俺は、フェリックスの両親を知らない。
両親は、フェリックスを愛していたのだろうか。
母親はなんで、自分が産んだ子を
人間の考えることだから、きっとスンゲェつまんない理由に違いない。
おおかた、「
街中の人間が「無能力の子」と
人間の祖先である「ヒト」を、人間が「なかったことにした」のと同じように。
フェリックスの存在も、「なかったことにした」
フェリックスを捨てた
でも、親が死んだら、フェリックスが悲しむ。
幼い子供ほど、親への
子供が親への
どんな毒親であろうとも、子供は親を裏切れない。
親は無条件で自分を愛してくれると、信じている。
冷たくされても、捨てられても、親の愛を求め続ける。
毒親に育てられた子は
だから、フェリックスは甘えたさんなんだ。
甘えたさんが、フェリックスの可愛いところでもあるんだけどね。
だから俺はずっと、迷い続けていた。
悩んだ末に、行き着いた答えは「何もしない」
俺は人間の行く末を、ただ
どうせ、愚かな人間は、何度も何度も同じ
まれに、
人間の歴史を見れば、明らかだ。
引き返せない滅びの道を、自ら選んで進んでいく。
俺ひとりじゃ止められないし、止める気もない。
これまでもこれからも、お前らの好きにしたら良いじゃん。
それで人間が滅んだとしても、
お前らのバカさ加減を、笑いながら見届けてやるよ。
これ以上、人間の政治に関わらない為、「
「国王特別顧問」てのは、国王の相談役で、
今までは
でももう、傍観するって決めたから。
充分やることやったし、ほったらかしといても、勝手に
今まで
辞める日には「お疲れ様でした」って、みんなで
「人間も悪くないな」なんて、らしくないことを思っちゃったよ。
【「なかったこと」にされた男の子】
「魔女狩り」から、約一年後。
森と人間の街の
慰霊碑の
この慰霊碑には「二度と同じ過ちを、繰り返してはならない」という、
「
これ以降、人間が「魔女狩り」をすることはなくなりました。
「無能力の子」と呼ばれた男の子は、想像しながら唄うだけで、なんでも願いを叶えることが出来る「奇跡の力」を持っていました。
世界を新しく作り替えることすら出来る、
ですが、男の子は自分が「奇跡の力」を持っていることを、知りませんでした。
「奇跡の力」がなくても、自分を愛してくれる者達がいれば、男の子は幸せだったのです。
人間の歴史において「なかったこと」にされた男の子は、誰にも知られることなく、魔女と魔の者と魔獣と仲良く楽しく暮らしました。
めでたしめでたし。
<おしまい>
――――――――――――――――――――――――――――――――
もしよろしければ、こちらもどうぞ↓
「魔女と無能力の子」の蛇足小話集→https://kakuyomu.jp/works/16817330653206087752
魔女と無能力の子 橋元 宏平 @Kouhei-K
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます