受賞のエールを送って

 先日、カクヨムWeb短編小説賞2022の中間選考の結果発表がありました。数ある作品の中に、原作「なんやかんやで!」の名前を見つけたとき、ラブコールを上げ続けた自分の目に狂いはなかったと拳を握り締めたものです。この場を借りて、祝福の言葉を述べさせてください。


 宇部さま、中間選考通過おめでとうございます。尊い二人とハッピーエンド請負人の三人なら、最終に残ると信じておりました。ルビー大賞に応募されている長編も、朗報が聞けることを心待ちにしております。五月に大賞の報告が届くことを祈願し、小話を書かせていただきました。どうぞお納めください。







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 道徳の授業で、友達の好きな人に恋をした男の子の話を読んだ。

 友達が告白する前に付き合うか、恋心を隠して友達を応援するか。班で意見を出し合いなさいと先生に言われたけど、小学四年生にとって恋バナは劇薬だ。互いに警戒して、席をくっつけたがらない。

 恋バナをしたくない訳ではないのだ。誰がどの子を好きなのか、手つなぎはしたのか、キスはまだかと興味は尽きない。その一方、他人に土足で踏み込まれたくない領域が存在するのだ。

 おしゃべりな人に、ヒミツを暴かれたくはない。矢萩ちゃんのことを好きだって知られたら、頼んでもいないのに「神田がお前のこと好きだって言ってたぞ。男同士でありえないよな」なんて本人に直撃されそうだ。誰かが死ぬ話を授業で勉強するのは嫌だけど、話し合いをしにくいテーマも困る。あまりにも机を動かさないから、しびれを切らした先生が両手を大きく叩き出した。


 言いたくないから友達を応援する説、じゃ駄目なのかな。のろのろと机を動かしていると、教室の後ろで大声が上がった。


「そんなとこ見てたんだ~!」

「南城くん、そういう子がタイプなの?」


 そういう子って、どういう子? 矢萩ちゃんの好みのタイプ、めちゃくちゃ気になるよ。


 耳を澄ませてみたけど、雑談を注意する先生の声しか聞けなかった。休み時間になっても、本人に直撃する勇気はない。そんな勇気があったら、とっくに告白していた。


 トイレに行こうと廊下へ出ると、真ん中で女子が話し込んでいた。


「南城くん、唇ケアをしてる子が好きらしいよ」

「そうなの? リップクリーム欠かさず塗らなきゃ」


 矢萩ちゃん、そんなことを言ってたんだ。男子が唇をツヤツヤにするのは抵抗があるけど、僕も少しは自分磨きをしておこうかな。矢萩ちゃんの好きな子に選ばれる可能性が低いってことは、分かってるつもり。それでも最低限の身だしなみは、人として必要だよね。


 その日、母さんの買い物についていった僕は、震える手でカゴにリップクリームを入れた。「どうせ買うなら、血色のよくなるリップにしたらどうかしら。UVカットも捨て難いわね」と違う商品に変えられてしまい、母さんには隠し事ができないのだと悟ったのだった。


 家で買ってもらったリップをつけ、一枚の写真をまじまじと見た。


「緊張しない、練習」


 唇を前に突き出しては、写真を裏面にすることを繰り返していった。

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嫌いなんて言わないで! 羽間慧 @hazamakei

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