愛の日を祝して
ついに始まりましたよ。「なんやかんやで!」の長編である「なんやかんやで!~両片想いの南城矢萩と神田夜宵をどうにかくっつけたいハッピーエンド請負人・遠藤初陽の奔走~」の連載が! 未読の方はぜひリンクへ飛んでくださいませ。決して怪しいページではありませんよ。楽園への扉です。胸きゅんを求め、沼へダイブするのです!
https://kakuyomu.jp/works/16817330651605896697
作品紹介のところで本作の情報を書いていただけるとは思わず、大変感激したのはここだけの話です。
なお、宇部さまの「書きたいところだけ」集に、バレンタイン短編が二月十一日よりアップされるんですって!
https://kakuyomu.jp/works/16816452218341978917
宇部さまのお仕事の速さには毎回驚かされます。という訳で、私もバレンタイン短編をこっそり載せておきます。宇部さまが本作をフォローされているので、全然こっそり感はないのですけど。燃料を投下しておきます。時系列はサプライズお泊まりの後ですので、ネタバレ厳禁の方は原作へ移動してくださいね!
🍫🍫🍫🍫
夢は潜在意識の塊だって聞いたことがある。だから、俺の幼馴染が、俺好みの格好をしてくれているのも自然の流れなんだ。だって、夜宵が俺の上に乗っかっているなんて都合が良すぎだろ! ちゃっかりベッドインしているしよぉぉ。ここが本当に夜宵の部屋なら「ケーキ買ってきたからお茶にしない?」とか「電球が切れたから取り替えるの手伝って」とか邪魔が入ってくるだろうに! いや、俺の家でも、ノックなしに邪魔は入るけどさ。なぜだか分からないけど。
夢から覚めるには頬を叩かないといけない。だけど、俺は自分の頬を叩けなかった。
夢なら現実でできないスキンシップもできるんだよな。せっかくだから、邪魔者もいない今だけしかできないことをしよう。俺は夜宵をじっと見つめた。彼シャツも似合っていたけど、メイド服も着こなしているよなぁ。袖がふわっと膨らんだ王道の黒。白いフリルのついたチョーカーや猫耳ならぬうさ耳も、夜宵の可憐さを引き立てている。
夜宵が後ろ手で隠していたチョコレートを見せた。片手に収まるほどの大きさのホワイトチョコレートはドライフルーツで彩られ、ハートの形をしていた。
「萩ちゃん。今日はバレンタインだから、僕からもチョコレートをあげるね。受け取ってくれる?」
「あったりめぇだろうが! お前からもらえるなら、たとえ百均のやつでも喜んで食べるぞ!」
クッソ、どうして俺は言わなくていいことまで口走っているんだよ。百均にも悪いが、夜宵の選んだチョコに失礼だろうが! 一箱四五千円のお高いやつだったら、申し訳ねぇ。いやいや、手作りチョコも大歓迎だからな! 夜宵の手作りで腹を壊してトイレとズッ友になっても、俺は後悔しない自信がある。あっ、また余計なことを言いそうになっちまった。危ねぇな。目の前にいるのが偽物の夜宵だとしても、傷つけさせたくはないってのに。
夜宵はにっこりと微笑んだ。
「じゃあ、萩ちゃん。口を開けてくれる? あーん」
「あーん……んなあぁー-ーーっ?」
俺の上に乗っていた夜宵がぺたん座りをした瞬間、開いた口が塞がらなくなった。唾液が過剰に分泌される。
メイド服だと認識していた服は、鎖骨から下の布地が極端に少なかった。胸元から腰回りにかけては、生まれたままの状態だ。黒いTバックも最大限の布地しか残されていない。同系色のニーハイソックスの布を移植することはできなかったのだろうか。
隠すべき部分が露出したデザインには見覚えがある。バニーだ。それも逆バニーだ。好きなグラビアアイドルの写真を見せ合っていたクラスメイトが、とんでもない衣装だと鼻血を出していた。
今なら、俺もあいつの気持ちに共感できる気がする。絶対に破廉恥な衣装を着ない夜宵が、エロいうさぎさんになっているんだぞ。鼻血くらい、ナイアガラの滝並みに出るに決まっているだろ! 彼シャツのときに見えなかった桃色の乳首が、俺の両目を離してくれないんだ。しかも上向き。なお、顔を引っ込めていても可愛いから許していた。俺はこの瞬間、服の偉大さにひれ伏しそうだった。そうでもしないと狼になるのを止めることはできなかったはずだ。
「どうしたの? 萩ちゃん」
「どーしたもこーしたもないよ。早く服を着ろよ。風邪引くだろうが」
俺は羽織っていたカーディガンを脱ぎ、夜宵の肩にかけた。腰の後ろに当たった手が、ファーを撫でたような感触を覚える。
「ひゃん」
カーディガンが上下に揺れ、夜宵は苦しそうに息を吐いた。
「大丈夫か?」
「ごめん。驚かせるつもりはなかったんだ。萩ちゃんがしっぽを触ったから、びっくりしちゃって」
しっぽの先は、一体どこと繋がっているんだよ。
そう疑問に思ったものの、俺は考えることを放棄した。夜宵の口からあんな言葉を言わせるのは、罪悪感が湧いてくる。
「ねぇ萩ちゃん、もっかいあーんして?」
夜宵は口にチョコレートを咥え、俺の大きく開けた口の中に端を入れ込もうとする。パキっとした音は、大切にしてきた関係を壊すような響きを予感させた。
「俺には無理だ。大人の階段を上るには早すぎるよ」
「どうして離れちゃうの? あと少し口を近付けてくれたら、ずっと待ち望んでいたキスができたはずなのに」
「俺からキスしないと駄目なんだ。だから、俺の心の準備ができるまで、お前に好きな人ができるまでは、俺が襲いたくなるように仕向けないでくれ!」
必死の懇願に、夜宵は唇を尖らせる。
「それじゃあ、僕はいつまで待てばいいの? 下手したら、おじいちゃんになっちゃう」
「そうならないように頑張るから。な?」
親友以上恋人未満の関係がちょうどいい訳ではない。断じてありえない。うまく説明できないが、今は現状維持のままがいい気がした。
「萩ちゃーん。学校に遅刻しちゃうよ?」
「あぁ。今起きる!」
遠くで聞こえる声は、間違いようがない。背中に突き刺さる視線を壁から感じたが、俺は最愛の人に満面の笑みを見せた。
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