長編化を記念して

 奇跡が起こったと思いました。本作の原作である「なんやかんやで!」が長編で帰ってくるんですって! 二〇二三年二月八日(予定)に!


 好きな原作のアニメ化を知ったときと、同じかそれ以上の喜びようでした。宇部さまのお仕事が早くて、本当にありがたいです! また彼らに会えるのが嬉しすぎます!

 すでに十万字を超えているそうで、公開日が待ち遠しいです。

 この度、長編を記念して、一足早くお祝いのメッセージもとい二次創作をお届けいたします。



 ■□■□



 今日は二月十四日。バレンタインデーだ。大事なことだからもう一度言う。意中の人に、チョコを不自然なく渡せるイベントだ。友チョコ、感謝チョコ、言い方は何でもいい。大切なのは、きっかけをものにできるかどうかだ。


 俺、遠藤初陽はつひには気になる奴がいる。ついつい目で追ってしまうし、頼まれていなくてもお節介を焼きたくなる。初めて会ったときから脈アリだと思っていたが、予想以上に手こずる相手だった。俺としては、親友の壁を早くとっぱらってしまいたいのだが。学校全体が邪魔してくるのは、いい加減やめてもらいたい。


 俺の悩みなんて露知らず、南城は自販機の前で固まっていた。


「ホットココアと、豆乳ホットチョコレート。どっちを選ぶか迷うな。究極の二択だ」


 はっきり言ってどうでもいい。顔をしかめたくなる甘ったさか、体を気にして健康志向にするか。それだけの違いだ。どちらも、まあまあ甘い。お茶を買っていないと、喉が渇いてやまなかった。マラソン終わりに飲むのは避けたい飲み物だ。


「南城の気分次第じゃねーの? 直感で決めろよ。そろそろ神田が来るんじゃないか?」


 南城は流していないはずの冷や汗を拭った。

 神田への差し入れなんて、バレバレだっつーの。早く帰りのホームルームが終わったからって、冬風の吹きすさぶ昇降口に行くのはどうかしている。付き添う俺の立場に立ってもらいたい。


「夜宵が来る前に決めておきたいんだよ。今日は寒いから、あったかい飲み物をもらったら嬉しいだろ」


 南城はフードに顔を埋めながら呟いた。その気遣いができるのなら、鞄のチョコレートを素直に渡せよな! 朝も休憩時間も昼休みも、ことごとく渡すタイミングを逃しやがって! 鞄に入れた手の行方が気になりすぎた『ハッピーエンド請負人』は、昼食を食べ損ねてしまった。


 そう、俺が気になる奴は南城と神田の二人だ。早くくっつけばいいのにと、じれったい関係を面白がっているのではない。生半可な気持ちで見守るには、いささか刺激が強いのだ。ロマンスの神様は薄情で、あと一押しがいつも足りなかった。ベロチューができるには、弥勒菩薩が下界に降りるよりも時間がかかりそうだ。五十六億七千万年後、俺は石の上で苔と同化しているかもしれない。


 我ながら、厄介な沼に足を踏み入れてしまったと思う。


「あっ! 夜宵が来ちゃった! まずいよ、まだ飲み物どっちにしようか決めてないのに!」

「悩んでないで、直感で行けって! 泣きそうな顔で俺を見るんじゃない!」


 恋するDKの顔は、神田だけに見せてやれよな。発破をかけた俺に、南城は頷いた。


「分かった。直感を信じてみるよ」


 南城は財布ではなく、空色の手提げ袋を取り出した。手作りなのか、チョコレート売り場を右往左往して選んだものなのか、俺は唾を飲み込んだ。


 カンカンカン! 朝だよ! 起きて! カンカンカン!!


「夢オチとか、ふざけんなクソがーーーー!」


 俺は舌打ちをしながらアラームを止めた。

 今日はバレンタインデー。『ハッピーエンド請負人』の腕の見せどころだ。

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