嫌いなんて言わないで!
羽間慧
なんやかんやで薄い本ができそう
この作品は、宇部松清さまの「なんやかんやで!」
https://kakuyomu.jp/works/16817330650012373279
二次創作になります。ネタバレには配慮しておりますが、未読の方は本編を先に読まれることをおすすめいたします。
■□■□
「ヤハギのこと嫌いだな。人の揚げ足ばっか取るし、そもそも顔が気に食わない」
机を運んでいると、ホウキが溜息をついていた。
ヤハギとは
染めているように見える茶色い髪は、生徒指導の教師や先輩から何度も目をつけられてきた。生まれつき色素が薄いだけなのに、どうしてチャラ男だと決めつけるのか。
幼馴染みをけなされた僕は、思わず言い返していた。
「矢萩ちゃんは嫌な奴じゃないよ。話せば分かるけど、すっごくいい奴なんだ。逆上がりができなかった僕に、つきっきりでコーチしてくれたし。補助輪を外す勇気をくれたのは、矢萩ちゃんのおかげなんだ。『けがしても、おれがついてる。しっかり走ってこい!』なんて言われたら、頑張るしかないよね」
「……おぉ。確かに、いい奴だな。矢萩は」
評価を改めたホウキに、僕は大きく頷いた。矢萩ちゃんのすごさを分かってくれる人に、悪い人はいないよね。
「あの、さ、
もじもじするホウキくんに、僕はハッとした。もしかして、矢萩ちゃんのことが恋愛対象として好きになったのかな。
それはまずい。こちとら小学校から温めてきた恋心なんだ。中学三年生にして、ポッと出の輩に奪われたくはない。
男同士で結婚できないから、矢萩ちゃんに告白することはあきらめている。告白をするなら、結婚を前提としたお付き合いが理想だ。トイレから墓場まで、矢萩ちゃんとずっと一緒がいい。
本当はゆりかごから墓場までと言いたいところだけど、同じ産婦人科で生まれた訳じゃないから。
でも、トイレって何だか響きが悪いな。僕の頭の中に個室が浮かんだ。ドアを閉められた瞬間、矢萩ちゃんが僕と唇を重ね合わせる。自然と荒くなる吐息に構わず、矢萩ちゃんはシャツのボタンに手をかけて――。
だめだめ、これ以上は一般誌から外れちゃうよ。
トイレの花子さんや清掃員さんには、本当に申し訳なく思う。よこしまな気持ちを持ってしまって、ごめんなさい。
僕が黙ったままでいると、存在を忘れ去られていたホウキが必死そうな顔をした。
「誤解させてごめんな。俺が言ってたヤハギは、南城じゃなくてVTuberのヤハギケンスケのことなんだ。南城は神田の熱弁してた通り、マジでいい奴だよな!」
「……そうだったんだ」
うわああああああ!
恥ずかしすぎる! 勘違いしちゃったよ! 勝手に掴みかかって、ほんっとうにごめん!
確かに、矢萩ちゃんは名字と間違われそうな名前だって話してたっけ。
これを期に、萩ちゃん呼びにしよう。僕は心に固く誓ったのだった。
教室の外で待っていた萩ちゃんの顔が真っ赤だということを知るまで、五分もかからなかった。
「気にすんな。俺もヤヨイ嫌いって言われたら、相手に殴りかかってた」
自分のことを熱く語っている友達に、萩ちゃんは気持ち悪いという思いを抱いていないようだ。
良かった。だって、萩ちゃんに
愛してると言えない代わりに、僕は萩ちゃんの自習に付き合った。
■□■□
二次創作として書きたくなるというコメントに「全然二次創作していただいても構わないのよ……?」と返信してくださった宇部さま、あまりの優しさに感激しました。おかげさまで、読了して一日もかからずに完成させてしまいました。
長編化の原動力の一部に、ちょぴっとでもなれれば幸いです!
(追記)
この時点の私は、まさか長編化されたときの本編に二次創作の設定が採用されるとは、夢にも思わなかったです。ありがたや。
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