決意の話し合い
私たちはずっと間違えられていた……それだけ似ている顔を持ち、それだけお互いにお互いから離れることがなかった。
そのことを苦に感じたことはないし、大好きな姉貴と一緒ならどこか誇らしさもあったんだ……けれど、それは段々と綻びを生んでいった。
『輪廻ちゃんは凄いね!』
『勉強とか凄く出来るもんね!』
『輪廻ちゃん流石!!』
姉貴は私と違って何でも出来た……本当に優秀な人だった。
私はそんな姉貴が誇らしいという気持ちは変わらなかったけど、段々と姉貴との間に差が出来ていくことに私は焦り……そして、徐々に嫌になっていった。
『輪廻ちゃんって凄いんだね!!』
その言葉を私も言われたことがある。
顔が同じならそういう間違いも不思議ではない……でも、その度にじゃあ私はどうなのって言いたくなるんだ。
私は姉貴のように何でも出来るわけじゃない……でも、私だって頑張っているんだと声を大にして言いたかった。
『私を姉貴と間違えるなよ……間違えないでよ……っ』
泣くまでは行かない……でも、それくらいに悔しかった。
私だって頑張ってる……たくさん頑張って、少しでも姉貴に近付きたいと思い続けても差は開くばかり……そんな日々だった。
でも、そんな日々に変化が起きた――彼と……明人君と再会したからだ。
『輪廻と黄泉……分かるんだ俺には』
私たちの違いに明確に気付ける彼の存在……それは全てを思い出していなかった私にとって、彼は正に救いのような存在だった。
結局、過去を思い出してもどうしてそれで見分けが付くのかは不明なまま……それはちょっと面白かったけれど、明人君だからなぁで済む些細な問題だ。
『……私は……私は……っ』
明人君と過ごすほどに昔を思い出す。
無邪気に笑っていたあの頃を……でも、昔の記憶だからこそ全部を思い出すことは出来なくて……けれどそれも些細なことだった。
『……私は明人君のことを……どう思っているんだろう』
ずっと私はそれを考え続けていたんだ。
▽▼
「話をしようよ姉貴」
「……分かりました」
姉貴は私の提案に頷いた。
姉貴の方も私と話をしないといけないって、そう思ったからこそ断らなかったんだと思っている。
床に座り、ベッドに腰かける姉貴と向かい合った。
「まずは……ごめんなさい姉貴。酷いことをたくさん言っちゃった」
「いえ! それは私もです……私もあなたに酷いことを――」
姉貴にとって、私に嫌われることは大きな傷になっていたらしい。
ポロポロと涙を流す姉貴を見た私はたまらず駆け寄り、ついさっきまで一切会話をしなかったことが嘘かのように寄り添った。
「全くもう……泣かないでよ姉貴」
「泣きますよ……だって私はずっと、あなたを……」
「ああもう! それに気付いてくれたなら今度はああいうことを言わないでくれると助かるわ! でもそれはこれで終わり! 私は今、大事な話をしに来たんだから」
ガシッと姉貴の肩に手を置き、しっかりと目を見て私は話す。
「姉貴は明人君のことをどう思ってる?」
「っ!?」
そう聞いた瞬間、姉貴は分かりやすく動揺した。
先程までの悲しんだ様子は消え失せ、まるで恋する乙女のように顔を赤くして誰かを想っている――その誰かが誰であるか、それはもう一人しか居ない。
「好き……なのね?」
「好き……私は明人君を……あ」
あ……これはもしかして、私が最後の一押しをしてしまったのだろうか。
姉貴は少し固まった後、茹蛸のように顔を真っ赤にして俯く……その、今までに見たことがないほどに姉貴が可愛いんだけど。
「まあ……今までの私たちを振り返ってみたら、絶対にそうだってなるわよね」
「……私たちも?」
姉貴はポカンとした様子で呟く。
私も姉貴に負けず劣らず顔を真っ赤にしているだろうけど、私もまた肯定するように頷いた。
「私も好き……みたいね。姉貴と一緒だわ」
「……………」
姉貴と向かい合いながら、私は今までのことを思い返す。
明人君と出会ってから本当に色々なことがあった……それこそ、恥ずかしいことも嬉しいことも比例するかのように巡り巡っていく。
「そうですか……黄泉もなんですね」
「えぇ……何かの詩というわけじゃないけれど、お互いにもう幼い頃のままじゃ居られないわ――特別な関係になれるのは一人だけ」
「っ……負けません」
「え?」
「負けません!」
鋭い視線でそう言った姉貴の姿に、私は呆気に取られていた。
姉貴はいつだって優しくて、余裕を常に持ち……どんなことにも冷静に対応出来る完璧超人……それが姉貴……お姉ちゃんだった。
そんな姉貴が必死の形相で私を見つめている……そんな姿を見て、私は姉貴が決して完璧超人ではないことに気付いたんだ。
(……ううん、違うわね。姉貴を一方的に完璧超人だと思い込んで、本当の姉貴をいつしか見ないようにしていたんだわ。姉貴はこんなにも可愛くて、こんなにも優しくて、こんなにも負けず嫌いなんだ)
「……姉貴って負けず嫌いなのね」
「負けず嫌い……そうなのかもしれません。だって、こんなにも明人君のことが大好きなんですから」
「ふふっ、これは手強くなりそうかなぁ。私も好きよ――明人君が大好き」
これは明らかに敵対の意志を私たちは持っている。
それでも敵ではない……だって私たちは姉妹だから……どんな結果になっても相手を尊重し、相手のことを思えるのだから。
というより、私もそうだけど姉貴も私のことを嫌うことはない……だってお互いがお互いをとことん大切にしているから。
「どれだけ長くなっても負けないわよ姉貴」
「私もです。望むところです黄泉」
この日、初めて私たちは自分の抱いた気持ちについて話した。
そしてある意味、絶対に負けないと姉貴に宣言した日でもあった。
誰もが間違える双子の美人姉妹を俺は見分けられるらしい みょん @tsukasa1992
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