第47話 仏の手のひらの上で太陽を見上げる、心を整える

「何故、お前がここにいるのですか!?魔法師ギルドの職員が、登録魔法師同士の争いに介入するのですか!?」


「一般的には魔法師ギルドは登録者同士の争いには介入しません。…でもわたくしの生命と魂が賭けられているのなら、個人的に介入しても許されますよね?」


 驚きのあまり美少女の顔を取り繕う余裕も無く、剥き出しの骨の存在になるカルミアが言葉を発している。いつの間にか気が付いたら壇上の自分たちに波のように迫る魔物の群れは消え、専属受付嬢と人質にされていたはずのポッシュも近くに現れている。

 両者が言葉を交わしているタイミングでマーディンたちが駆け寄って、自分たちにも回復魔法をかけてくれ、ムドたちもどうにか体を動かして近くに集まって来ている。

 専属受付嬢の彼女が現れた瞬間は驚いたが、今ならば不思議と納得している。おかしいと思っていたのだ、一応当事者である意識の無いポッシュは別として、自分よりも遥かに格上の魔法師である専属受付の彼女のことを賭けることが出来たのか。

 カルミアが決闘のために使用していた魔道具は、心より願うのであったら賭けることが出来るのなら、彼女は最初からこの空間にいておっさんが宣言する時に、自ら願って己の存在を賭けたのでは無いかと考えている。


「この状況もお前の仕業ですか!?」


「ダンジョンの掌握とダンジョンコアの回収は、わたくしではない幹部の方が行っていますが、それくらいは分かりますよね」


「私が掌握を終える瞬間にこちらに気付かせないように、別の魔法師が乗っ取ったと思います。そんな神業は、そんなことが出来るのは本部ギルド長しかいないでしょうね。…今回の私の実験もここまでですが、まだ個人的な介入を続けるつもりですか?」


「わたくしは決闘の勝者に商品を渡すのと、敗者には相応しい罰を届けに来たのです」


 上位者たちの行うことだから、魔法師ギルドの幹部の誰が何を行おうが理解出来ないことだが、この状況すら仕組まれたものなのだろうか。王国の歴史上で封印が解除されたことが無いダンジョンが今夜に解放され、思い出せば深淵祭の研究発表の場に全員が集まったことの無い本部ギルド長と各支部長4人が一堂に会する。あり得ないことが続いていたことが関係あると考えるのならば、昨年末にはもう既に仕込みは終わっていて、後はダンジョンの封印の解放を待つだけであったのだろうか。


「あああぁあああああ」


「それでは、引き続き闇の遊戯の決闘の2回戦目をお楽しみくださいませ。…もちろんギルド職員は直接的な介入は行いませんので、代役をご用意いたします。」


 自分と同じように今回の騒動の仕込みに気が付いたのか、ダンジョンの解放とその掌握が完了する前に邪魔され、カルミアは剥き出しの頭蓋骨を髪の毛があるように骨の手で掻きむしる様子が見られるが、専属受付嬢はお構いなしに決闘の敗者へ罰を与えるようだ。


「…お前は、一族の恥さらしが!!」


「大昔の一族出身であるアタシとアンタは何の関係もないだろうに…。でも元一族の末裔がやらかしているなら、少しは止めようとする気も起きるさね」


 専属受付嬢が用意した代役は、自分たちに背を向けてカルミアと対峙しているが、この背中には見覚えがある。限りなく薄く身に纏った紅の魔力の膜に、肩口まで広がったくせ毛の茶髪、ビキンのダンジョンの波の際に見た背中と寸分違わぬ姿に気が付く。ビキンの冒険者ギルドの長でプラチナランクの炎熱のローザだと。


「魔法師ギルドとコロニラ家からも追放された、あの方の弟子に相応しくないお前が、今度は私の邪魔をしようと言うのですか!!」


「魔法師ギルドからの除名と追放は正しいが、家はアタシから出て行ってやったのさ」


 2人の話を聞く限り、どうやらお互いにルーツは同じらしい。過去にやらかした炎熱のローザと現在進行でやらかしているカルミアの戦いが行われそうだが、カルミアにとっては憎しみの対象なのか、頭蓋骨の目の穴からはどす黒い魔力の滾りが見える。


「コロニラ家の魂を専門とする魔力の膜に特化出来なかった出来損ないの癖に!!」


「まだ年若い魔法師に教えてあげようか。魔法師として極まってくると魔力の膜の専門特化なんて気にするもんじゃないし、魂に専門特化しているはずのアンタが肉体を捨てた骨じゃないと寿命を克服できなかったのに、炎熱に専門特化したアタシは老いない肉体を持っている。体を捨てなくても別に魂さえ老いなければ、体もまた魂の影響を受けるから老いないのさ」


「………」


 専門分野の魂に関して、過去の一族から追放された炎熱のローザは専門特化しなくても寿命を克服し、かつ肉体も捨てずにそれを成していることに認めがたい差にカルミアは無言になっているが、伝わって来る魔力の波動は怒りを超えて殺意を感じてくる。

 炎熱のローザも高位の魔法師特有の考えか、それとも同じ一族出身だからか、負けを認めなければ負けていないと同様に、魂から老いないと確信すれば肉体も老いないという狂気を堂々と言っていることは、決して真似出来ないと思ってしまう。


「そんなに一族の専門分野は大事かい?アタシが本部ギルド長の弟子になってから、一族は調子に乗っていたが、そんなものは関係なしにやらかしたら魔法師ギルドから追放され、家名は自分で捨ててやったのにさ」


「そのおかげで、あの女を超える弟子になるという一族の悲願が、どれだけの人間を苦しめたのか、お前には分からないでしょうね!!」


「分からないけど、分かりたくもないね。…まだアンタの準備はかかるかい?」


 こうやって向かい合って話している間にも、細かい魔力の高まりが両者で起こっているため、水面下では高位魔法師同士の戦いが行われているのだろうが、一般最底辺魔法師の自分には当然何も理解出来ないし、魔法師学校の学生レベルでは追い付かない高度な戦いが行われているのだろう。


「……それで浄化の力を使えない貴女が、不死の存在の死霊の私に勝てますか?」


「浄化の力が使えなかろうが、燃やし尽くせばいいだけだろう」


 見な、と炎熱のローザが空を指さすと闇のような空間に満月が見える、ああ、今夜はこんなにも、月が綺麗だ、と一瞬思ったが月の明かりにしては昼間のような光量と熱に全員が驚いている。いつの間に用意されていたのだろうか。


「な、…」


「王都上空に作った特大の炎熱弾。そこからの圧縮光線を受けて、燃え尽きな」


 突然の昼夜逆転になったような昼間の環境に、天に浮かんだ人工太陽から一筋の光が死霊魔法師の骨の体を貫く。カルミアが咄嗟に準備した防御魔法なんて意味の無い、強大な魔法から圧縮された魔力の塊はその貫通力を発揮して、壇上に底の見えない穴を空けている。

 闘技場から見上げる普段よりも近い距離にある燃え盛る太陽に遠近感が狂っているが、強大な魔力の塊の炎熱魔法から圧縮されたとしても、ムドたちが作る巨大な氷像を丸ごと包むようなビームは一瞬で死霊魔法師の体をこの世界から消滅させた。

 自分の自爆攻撃である多重圧縮熱魔法とは異なり、対象と壇上の最低限に効果を出し、本来ならば自分たちにも爆風と衝撃がやってくるのだろうが、見事に対象を限定してそれらは一切感じられない。これは、自分の自爆攻撃は今後は多重圧縮失敗熱魔法と宣言した方が恥を搔かなくて済みそうだと考える。


「アタシの仕事は終わったから、帰らせてもらうよ。これからも、アンタらはアイツに気を付けるんだね」


「ご足労いただきありがとうございました。また、彼女の案件ではお世話になりますね」


 炎熱のローザは専属受付嬢の言葉に、フンと鼻を鳴らして移動魔法でこの場を去って行ったが、彼女たちの会話はまるでこれからもカルミアと関わることがあるようなニュアンスの言葉に聞こえてしまった。


「今のでカルミアを消滅させたんじゃないんですか?」


「魂を専門とした魔法師が、滅される可能性のある自分よりも高位な魔法師のいる土地に、本体の魂だけで現れるはずがありませんよ。今回は、魂の切れ端を適当な一族の死体に寄生させて操っていたのかもしれませんね」


 また、どこかで死霊魔法師に関わったり、アンデッドの魔物と戦う機会あると思うとげっそりとして来る。

 そんな間に、大きな魔力のぶつかる影響で、意識を失っていたポッシュが覚醒してマーディンが事情を説明しているが、専属受付嬢の彼女はお構いなしのマイペースに己のしたいことを済ませてしまうようだ。


「決闘での勝利、誠におめでとうございます。商品のゴブリンの人が吸い込まれたダンジョンコアは、こちらにご用意していますわ」


「みんな、剣を持つのを支えてくれ」


 チームメンバーに声を掛けて、合金製の剣をまだ感覚が戻り切っていない手で持つのを手伝ってもらいながら、専属受付嬢が用意したゲンガンが吸い込まれたダンジョンコアを前にして思う。

 おそらく、ダンジョンとダンジョンコアを全て本部ギルド長が掌握したことから、自分たちが決闘に負けたとしても気が向いたら助けてはくれたのかもしれない。だが、その時はゲンガンが吸い込まれたダンジョンコアはダンジョン内に置かれて、自分たちで破壊しに行けと言われてもあの即身仏なら言ってもおかしくなかったし、中には見捨てられた学生も出て、ポッシュも骨の兵士の一員になっていたかもしれないと思う。

 この王都のダンジョンの封印解放の騒動全てが、神に近い化け物魔法師に仕組まれた手のひらの上であったとしても、たしかに自分たちの動いたことが現在には繋がっているし、きっと若者たちの今後の成長にはなるだろう。マーディンとスタインとビビ、意識が戻ってまだふらつくポッシュもおっさんの両手に片手ずつ重ねるように剣を保持するのを支えてくれている。


「これが、偽物の聖剣の輝きだ」


 ストックから用意した合金製の剣先を構えて、どうにか集めた邪な心を反映しない白い光でコアを傷つけ、カッターナイフを水晶の石の表面に刃を立てるような音と感触を感じる。傷をつけられたコアに入った亀裂は、徐々に広がってその中に内包していた魔力があふれ出して、澄んだガラスの割れるような音を出して砕ける。

 これで、今夜の騒動は全部終わったはずだ。




「良かったら魔法師ギルドにお送りいたしますよ?」


「出来れば、冒険者ギルドにお願いします」


 ダンジョンコアへの入刀後に専属受付嬢の彼女には、精気を14人から少しずつ集めてポッシュが吸われた分を補填してもらった。その後、決闘で争った首無し騎士と骨の兵士たちのギルド身分証と武器と防具を壇上の床から拾い集めたが、最後に送ってもらうのならば魔法師ギルドではなく、冒険者ギルドだ。




「はい、これで手続きは全て完了しました」


 9個の冒険者ギルドの身分証を受け取った、受付のギルド職員は事務的に手続きを行い、魔物となった彼らの預けていた資産は自分たちの物となった。高位なはずのゴールドランクの冒険者3人の手続きだとしても、王都にはそれなりにいるランクのことでしかなく、特に大きな事柄でもなく淡々と処理されている。

 自分たちにとっては格上の強敵であったはずだが、複雑な気分である。冒険者ギルドで管理されていた資産にしても額面は少なく、金額的には武器と防具等の装備類を売ったとしても、それなりの発動体を何個も買えないだろうが、安い酒場ならば十分に飲み食い出来るだろう。

 ムドたちも含めて15人で冒険者ギルドを出ると、無言で立っている彼らに声を掛ける。これで先輩冒険者の最後の手続きを済ませたことだし、これからは冒険者流の送り方をしようと思う。


「今日最後の作戦だ…先輩冒険者たちの心に、従え」


 そうしてやって来たのは、ムドたちは利用したことも無いだろう貧乏学生御用達の場末の酒場である、火ネズミの吐息に到着した。15人の大部分が魔法師学校の学生たちで、王都の酒場も併設されていないようなお役所な冒険者ギルドでは酒盛りも出来ないため、似たような場所でここを思い付いたのだ。


「「「「「乾杯!!!!!」」」」」


 3つの各テーブル席に5人ずつに分かれて座り、マーディンとスタインとポッシュとビビと、木製のジョッキを打ち合わせて甲類焼酎の水割りを飲む。近くのテーブル席に座っている安酒のアルコールの高さと味に眉をしかめるムドたちには、あてとして自分が用意したチョコレートを勧めておく。


「おう、お前さんたちは今日はどうしたんだ?」


「俺たち最強魔法師軍団の15人が、連続失踪事件の犯人である王都の闇で暗躍する悪の死霊魔法師を退治したのだ!!」


「「「「やりますねぇ!!!!」」」」


 客の数も少なくなった時間帯でおそらく店仕舞いも近い時間であるが、嫌な顔見せずに店主は、注文した料理と酒を運んでくれてこちらの近況を聞いて来る。

 それに対していきなりのムドの宣言に、早くも酒が回っているのかとも思うが、若者たちは敵の元冒険者の魔物たちに手加減されていたと知ってはいないし、実力以上の勝利の結果に調子に乗り過ぎるのも危険だが、今夜くらいはいいだろう。だが、勝手に最強魔法師軍団に加入させるのは止めて欲しいと思う。

 周りで話を聞いている客たちも、高価な服を着ていない発動体を持たないムドたちの話を、まともに取り合っていないため、適当な相槌を入れている。そんな光景を見ながらも思う、本当だったら全員で夜の歓楽街に繰り出して、美人の女性に酒の酌をしてもらって大いに飲んで騒いで、全裸美女の波に揉まれながらジョニー・B・グッドを歌っても良かったのだろうが、今夜は戦友たちと冒険者風にただ酒を飲んで騒ぎたいのだ。

 首無し騎士とその仲間の骨の兵士たちは終わりを受け入れていたが、そんな相手に対してこちらも命と魂賭けで若者たちの分まで背負っていたので無我夢中だった。だが、中途半端に外見は人間として見間違えるようなコミュニケーションも取れるような相手を、この手で終わらせたのはどうしようもなく引きずりそうだと、ただ酒を飲んで今日は忘れてしまいたいのだ。


「その時俺は言ったんだよ!!どんなに見渡す一面の敵の魔物の軍勢に囲まれようとも、発動体が無かろうが、馬鹿野郎お前ら俺は勝つぞお前ら、とな」


「「「「「そうだよ」」」」」


「それで俺は思ったのさ、これは発動体無しの流派が次に来るぞ、とな」


 ムドはまだまだ独壇場で今夜の大活躍物語を語っていて、それに軍団の一部が便乗して適当に肯定しているが、発動体無しの流派をこれから流行らせコラと言わんばかりの勢いだが、そんな時代は絶対に来ないのである。


「おっさん、実際のとこはどうだったんだ?」


「悪の死霊魔法師と争ったのは事実ではあるけれど、高位の魔法師の力を借りて解決はしたよ。ただ、アンデッドの魔物たちとの決闘に勝つことが出来たのは、ムドたちも含めて全員の力があったからだと思う。だから、ムドにも拍手を!」


 顔見知りの店の常連客に聞かれて、解決をしたことを言った時点でやるじゃねぇかと拍手されるが、自分の素直な気持ちを伝えて自身からも拍手をするとこの酒場の店内の空間にいる店主と客全員が拍手を始める。全員でムド1人に向かって、おめでとうと言い始めそうな雰囲気であるが、自分は適当に勝手に切り上げる。

 普段は威張ったりしているムドも、素直に賞賛されるのは恥ずかしいのか、途端に自慢話を打ち切って起立を止めて席に座っている。そんな姿を見ながらも、実際におっさんが若作り詐欺骨女にムカついてやっちゃるぜと、突っ走ったのに発動体代わりに巻き込まれたはずの彼らは良くやってくれたと心からそう思う。

 そう思っていると、自分と同様に早々に拍手を切り上げて食事を再開させている人物は、食事のおかわりが運ばれてこないのに文句を言い始めている。


「まーだ、時間かかりそうですかねぇ?」


「反省しろよ」


「食事を楽しめるのは、生きている証拠だよ」


 14人から少しずつ精気を集めたとは言え、頬のこけたままのポッシュは今までに絶食していた遅れを取り戻すように食べ物を腹に入れ、おかわりを要求している。そんな姿にスタインは注意するが、今日くらいは反省を強いるのは後にしてもいいはずだ。

 カルミアにダンジョンコアで実験する気が無ければ、ポッシュはとっくに骨となって二度と食事をすることすら出来なかったと思う。それに、自分たちが騒動に巻き込まれたのはポッシュが発端となっているが、ある意味4人のうちの誰かがいつ巻き込まれてもおかしくはなかった。そう考えていると、魔道具製の窯から焼き上げられたピザが皿にのって各テーブルに運ばれて来る。


「これは、どうやって食べるんだ?」


 ムドたちの軍団のテーブルにもピザが大皿で届くと、一般的なパイにしては薄い料理にどう食べたらいいのか育ちの良さからマナーを気にした様子が見られる。そんな時はおっさんがお手本を見せるとしようか。


「しょうがねぇなぁ、お手本が見たけりゃ見せてやるよ。見とけよ見とけよー。ホラ見ろよ見ろよ。ほらいくどー」


「ファッ!?なんだこのおっさん!?」「これもうわかんねぇな」「なんで見る必要があるんですか?」


 ピザを食べたことが無いのだろうムドたちの軍団に、ピザを1つのピース分を切って溶けたチーズが糸を引くのを見せつける。自分の好物であるトマトソースにテンションの上がったおっさんに対してビビも含めて散々な言われようであるが、そのまま手掴みで食べるのを実演する。ピザカッターは無いので、ナイフなりで切って食べるのはありだろう。正式な食べ方は、ナイフとフォークで丸めたりするんだっけか、どうだろうか。そもそも、本場ではタバスコをかけて食べないと聞いたことがあるし、ここはここで好きに食べて好きな作法が定着すればいいと思う。

 だが、個人的には唐揚げによくあるレモンをかけるかどうかは、無いと思う。申レNと、申し訳ないがレモンはNGと言いたくなるが、自分の考えでは唐揚げにレモンをかけてもいいが、その個人の趣向を全体に押し付けるなと思っている。

 かけるかけないのどちらが正しいのではなく、あくまでも個人の好みの範囲に収まることを他人にも強要しないで欲しいと考えている。自分の好みでいえば、どちらかと言えば大反対である。レモンがかけずに用意されているから、たとえレモンが添えられていたとしても、そこは客の好みで選択するものだと言えるし、店側としては最初からかけて提供していないので、その単体の皿の上で料理が完結していると思っている。

 同じような考えで、素材のまま楽しむじゃないが、店がオーソドックスに提供する形が普遍的な味と思って食べようと自分は考えている。そんな考えで、まだ気軽に外食が出来た時にとあるお好み焼き屋で店員からマヨネーズ、青のり、紅ショウガ等のトッピングを一切しない客として、珍しいと言われたがそれはこっちの勝手だろう。それらを加えて味が完成すると言うよりも、自分にとってトッピングは味変でしかない。客側がトッピングを追加していいのなら、追加しなくてもいいだろう。

 そんなことも考えつつ、若者たちは生還とストレスからの解放で、飲み食いを進めていき、気が付いたら店を閉める時間が間近になった。そうしたら、初めてこの店で飲んだ時のように締めの挨拶をマーディンから求められてしまう。


「俺たちの代表者であるおっちゃん、最後に頼むぜ!!」


「我ら魔法師学校に集いし15個の輝ける星々、生まれは違えども、天に輝く将来の栄達をみな願わん」


「「「「「「「「「「「「「「「乾杯」」」」」」」」」」」」」」」







「こりゃ寮母さん、明日は相当怒っているだろうな」


「まだ、食べられそうだけど」


「今日はもう、やめとけよ」


「それよりは、おいらはお風呂に入りたいです」


 下宿先に戻ってくると、飛び出した時のままのテーブルに料理が残った様子に、寮母に魔道具を使用して連絡をするのを忘れていたことを思い出す。ポッシュはまだ胃袋に食べ物を詰め込むことは可能だと言っているが、スタインが止めるように言っているし、食べた直後に寝る相撲部屋形式は血糖値が爆上がりしておっさんには厳しい。

 明日の朝一番に、寮母にはポッシュの無事を知らせてしっかりと謝ろうと決意し、待機空間に作ってもらっていた料理を仕舞って、後日の胃袋に余裕がある時に熱魔法で温めて食べようと思う。

 自分的にはビビからの提案に心が傾いている。酔っぱらった状態で入るのはどうかと思うが、もはや5人の日課になっているし、合金製の箱風呂での入浴は欠かせないものだ。酒の入った頭で、いつものように6個の合金製の箱を用意してストックの壺からお湯を注いで、液体石鹸の入った壺も用意して入浴の準備は完了だ。これで1日の終わりを感じているが、何か忘れていないだろうか…





「おーい、ワシも仲間に入れてくれよぉー!!」

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異世界で無職は不労所得の夢を叶えるのか 山田山次郎太郎 @yamadajiro2

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