第39話 キャラクター名等の表記の話

《カクコン中は宣伝させていただきます》

 第9回カクヨムコンテストに中華もの2作品で参加中です。本稿で紹介して来た書籍由来の情報・知見等を活かして書いております。よろしければお読みいただけますように!


 「花旦綺羅演戯 ~娘役者は後宮に舞う~」(https://kakuyomu.jp/works/16817330647645850625

 現在第二部50万字弱のボリュームです。番外編を除くと書籍三冊分くらいと思うと意外とお手軽かと!

 女が舞台に立てない時代と国で、後宮で「国一番の娘役」を目指すヒロインの活躍を描いたエンタメ活劇です。京劇モチーフの演劇を描いています。


 「魁国史后妃伝 ~その女、天地に仇を為す~」(https://kakuyomu.jp/works/16817330666693315522

 約15万字で完結しました!

 「皇太子の生母は死を賜る」という祖法によって姉を殺されたヒロインが、すべてに復讐することを誓う悪女成り上がりもの。直近数話で語っている北魏の風習を参考にしています。


      * * *


 今回はおそらく一般的な創作論として使える話題になると思います。中華ものにおけるキャラクター等の命名方法に関連するお話です。中華ものにおいて分かりやすく覚えやすい命名を……という話は以前もしたことがありますが(https://kakuyomu.jp/works/16817330651319871394/episodes/16817330655388845842)、続きのような感じです。


 今回のメイントピックは、キャラクターの名前の読み方、漢字またはカタカナでの表記についてです。


 中華もの、というか漢字を使ったキャラクター名について、日本語の音読み表記にするかピンイン準拠の表記にするか、どいう問題があると思います。端的に言うと、個人的にはどちらでも良いとは思っています。


 「中華ものなら中国語の表記にしたほうが本格的?」というような疑問をX(twitter)で見かけたこともありますが、作品によってモデルにする時代や場所は色々あるであろう中、現代の普通話準拠の表記にすることに本格も何もあったものではないと思いますから。

 普通話≒北京官話って、清代の官僚層に使われていた言葉ですからね……。たとえば唐代をモデルにした作品を書くとして、当時(?)と発音が違うのは日本語も現代中国語も同じじゃないですかね、ということです。


 もちろん、ピンイン表記のほうが異国情緒はかもせるであろういっぽうで、一般の日本人読者には覚えづらいという点は天秤にかけなければいけないでしょう。どの表記にするにせよ、読みやすさや響きの格好良さは配慮しなければいけないとも思います。例えば、拙作の主要キャラクターを音読み(作中ではこちらの表記)/ピンイン表記で並べてみると以下のような感じ。


 燦珠 さんじゅ/ツァンジュ

 霜烈 そうれつ/シュアンリエ(男)

 喜燕 きえん/シーイェン

 星晶 せいしょう/シンジン

 香雪 こうせつ/シャンシュエ

 華麟 かりん/ファリン

 翔雲 しょううん/シャンユエ(男)


 ……ピンイン表記でそこまで珍妙な響きがなくて、例示としてどうかなーと思っているところではありますが。女性キャラクターでも字面ほど可愛い響きにはならなかったり、漢字の字面と読み方の響きで男性的/女性的のイメージが揺れることがあるのは何となく分かるのではないかと思います(霜烈シュアンリエだと、字面は男性的ないっぽうで響きは女性的な気がします。感覚ですが)。

 あとは、似た音が被る問題ですね。シュアンリエ/シャンシュエ/シャンユエが同じ作品に出てくるのは読者としてはたぶん嫌。音読みであるていどバリエーションを出しているつもりでも、ピンイン表記では──ということもあるようです。(カタカナでは似た表記でも、発音、さらには声調の違いがあるので、日本人にとっては混乱する名前群を中国語話者が読んだり発音した時にはどう感じるのかは気になっています)


 諸々勘案した上で、個人的には音読みにすることが多い──ですが、例外的にピンイン表記を採用する作品もあります。中華世界の外に異なる言語の国があることを想定した世界観の場合が該当します。

 中国語以外の英語なりドイツ語なりを操る登場人物がいる場合、漢字の意味は知らずに発音だけで人名を認識するであろう、という考えが背景にあります。


 現代でも、英語の記事を読むときなど、中国語圏の人は誰が誰だか! 状態になることがありますね。おそらく非中華圏の登場人物が中華文化に接した時もそんな感じになるでしょう。そこで文化の違いを描いたり匂わせたりできると楽しいと思います。

 発音しづらいな……などと思わせて言語の違いを際立たせたり、「出会った時は音の連なりとしてしか認識していなかったけど意味を知ってその人の理解が深まる」のような演出もたいへん好きです。キャラの命名というか、世界観の掘り下げにも繋がっていくtipsになるでしょうか。


 そしてもう一つ「こういうの好き!」なのが外国語の名前を漢字に落とし込む命名ですね! 利瑪竇マテオ・リッチ湯若望アダム・シャールなど、「外国」の人が「中国」に来たらどう名乗るか、音や意味の残し方にもワクワクします(アダム・シャールはあんまり原型をとどめていませんが)。

 過去作では、英国(モデルの国)の少女の「リリー」という名前が、実は清国(モデルの国)の母親の意図した命名では「莉麗リリー」だった──という演出をしたりもしました。表記によって名前の意味も変わってくるの、面白いと思うのです。


 とはいえこれは音訳としては比較的簡単かつ単純なので、もう少し手順を要する「翻訳」を、「花旦綺羅演戯」でもやってみました。具体的には、西方から中華圏へやってきたキャラクターについて、ペルシア語名を漢字表記するとしたらどうするか、命名のプロセスを開示してみます。


①原語での名前を考える

 「シャヒーン」という子にすることにしました。分かりやすく格好良く「鷹」という意味です。


②その名前の著名人を検索する

 今回は「ユーセフ・シャヒーン(Youssef Chahine)」さんというエジプト出身の映画監督の方が見つかりました。


③中国語Wikiにて、上記で見つけた人名のアルファベット表記を検索する

 日本語Wikiと同様、中国語表記とアルファベット表記を列記してくれていることが多いです。はい、ユーセフ・シャヒーンさんの記事もありました。中国語では「尤賽夫·夏因」と表記するようです。

 こうしてめでたく、「シャヒーンの中国語表記は夏因」という情報が得られました。ピンインにするとxia4yin1、カタカナ表記だとシアイン、音優先の表記なのでしょうね。


 この表記をそのまま使っても良かったのですが、小説のキャラクターとしての見栄え上、そして作中のシャヒーンは銀髪であることから、二文字目を近い音に変えて最終的には「夏銀」としました。


 こういった名前の「翻訳」、辞書と想像で良い感じの名前を考えられる方もいらっしゃると思うのですが、私はセンスがないので実例をベースにしたほうがやりやすいです。もちろん、必ずしも現実に即していなければならないというわけでもなし、各々好きなやり方があるかとは思いますが、一例として&考える時間や気力の省エネになるかもしれないので、のご紹介でした。

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