第40話 志怪ものの新連載を始めた話

 第9回カクヨムコンテスト、長編部門に応募していた中華もの二作品、いずれも中間選考を突破しておりました。新作( 「魁国史后妃伝 ~その女、天地に仇を為す~」(https://kakuyomu.jp/works/16817330666693315522))はともかく、番外編追加しかできなかった旧作(「花旦綺羅演戯 ~娘役者は後宮に舞う~」https://kakuyomu.jp/works/16817330647645850625))も通してもらえるとは意外な喜びでした。後はどこかの編集部の目に留まってもらえるよう祈るのみ……ですが、結果はどうあれ引き続き読んでいただけると良いな、と思っております。


      * * *


 今回の本題はここからです。中華、怪異、謎解き、バディもの──という要素を詰め込んだ新連載を始めました。「子不語堂志怪録 星なき夜に影は踊る」(https://kakuyomu.jp/works/16818023214151760479)です。角川文庫キャラクター小説大賞に応募する作品なので、レーベルの先行作品と応募要項、手持ちの札を見比べて、これならどうだ! とお出しする作品になります。


 タイトルの「子不語」というのは、論語に子は怪力乱神を語らず──君子たるもの怪しげなことを論じたりはしない、とあるのを受けて、「じゃああえて怪しい話を集めてみました!」という趣旨です。これは別に私が考えたわけではなく、清代の袁枚えんばいという方が著した志怪小説の題からいただいたものです。小説というか、袁枚が人から聞いて集めました、の体裁なので説話集とも言えるのでしょうか。いずれにしても諧謔精神に富んだ小粋な命名だと思います。このセンス欲しかった。袁枚も科挙を突破したエリート知識人なので、現代の凡人の発想では歯が立たないのでしょうねえ。


 怪異(オカルト)を物語の軸に据えた理由は、第一にはレーベルカラーと応募要項を見てのことです。ホラミス系、かつ中華ものはおそらくまだ求められている……いっぽうで、後宮もので差を出すのは(少なくとも私の引出しでは)もう難しいのでは、ということで市井からスタートする物語にしてみました。後半では後宮に乗り込むプロットも予定しているのですが、まあそれはそれで。

 さらに言うなら、中華+ミステリ(+後宮)でぱっと思いつく毒や薬も先行作品がたくさんあるし、ミステリにはつきものの検屍ももう使われているので、まだいくらか新鮮味がありそうな怪異に手を付けてみるか、という発想ですね。

 一時、一部で話題になった「洗冤集録」、というかその翻訳版である「中国人の死体観察学 『洗冤集録』の世界」(著:宋慈、監修: 西丸 與一、翻訳: 徳田 隆、雄山閣 1999年)も読んでみたのですが、先行作品と被らない形でトリック・ギミックを捻り出すことは私にはできなさそうでしたので。


 さらにもうひとつ理由を挙げると、中華ものを書いていて、あちらの人々の気風というか文化に根差した暮らし・日常といったものが全然分かっていないことが身に染みてきたからです。

 史実に題材を取った歴史もの、中華ファンタジーはそれなりに嗜んできたのですが、紅楼夢や金瓶梅と言った、庶民の生活を描いた本場ものはあまりちゃんと読んでこなかったな、と。今からそれらの作品を紐解くのは大部であることもあってなかなか大変なので、せめて怪異・怪談といった小咄こばなしから民衆の息遣いめいたものを感じられないかな、というアプローチです。


 というわけで、タイトルに使わせてもらった縁もあって「子不語」を少しずつ読んでいるところです。

 邦訳はいくつか出ているようですが、私が手に取ったのは2009年刊行、手代木公助翻訳による東洋文庫版、全五巻のところ、二巻まで進みました。二~三ページていどのごく短い掌編(?)集で、怪談としてはどこをどう怖がれば良いのか分からなかったりもするのですが、とても面白い。著者(編者)の袁枚が生きた清代の人々が何を信じていたか、というのがとても良く伝わってきます。

 関帝廟に詣でたり城隍神を祀ったりしたかと思うと、冥府の官も現世のそれと同様にごく当たり前に汚職をすることになっているし、祟るゆうれいと交渉して怒りを和らげてもらおうとしたり。その一方で前世の業で人が死ぬのをあっさり受け入れていたり。何らかの異変やお告げで死期を悟った人が縁者に別れの挨拶をしに来るのもお決まりのパターンでした。そういう理屈で、今よりもはるかに多かったであろう突然な・理不尽な死に説明をつけていたのでしょうね。あと、怪異に遭った人の気付けには生姜汁を呑ませると良いみたいです。


 現代のエンタメ・フィクションにそのまま盛り込むにはちょっと理解しがたい精神ではあるのですが、違う時代・違う文化の人々が身近に感じられる……かもしれません。怪異の分野以外にも、文人・詩人であった袁枚の交友関係、科挙の同期の結びつきの強さや、家の主人と使用人の関係、官の役職名など、描写に活かせそうな情報も拾えてお得でした。

 煌びやかな後宮も大好きなのですが、地に足のついた感じの「生活」も書けるようになると良いですね。


 という感じで新連載の執筆を頑張りたいですし、花旦~の続きも練って行きたいと思っています。中国の怪異・民間伝承等についても色々面白い本を読んでいますので、追々ご紹介する予定です。

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