【没エピソード】収監された事には触れてほしくない教祖
確か統一教会系のS大に入学した1年目だったと思う。
教会内のイベントの舞台でミュージカルを披露する劇団に参加させてもらった事がある。
統一教会には「父母の日」とか「子女の日」とか「万物の日」といった、独自の記念日があった。その記念日は、教祖夫妻を含む教会メンバーがソウルにある教会系の劇場施設に訪れ、何組かの団体が舞台でパフォーマンスを披露する。観客席は2,000人ほどが入れる規模だったと思う。我々はその舞台イベントを、直球だが「エンターテイメント」と呼んでいた。要は、教祖文氏が壇上で演説(説教)するのではなく、あくまで観客として座ってもらうイベントのことを、区別して便宜的にそう呼んでいたのだと思う。
私が参加した劇団は、その「エンターテイメント」の常連団体だった。
演劇はそんなに長いものではなく、15分か20分くらいの演目だ。
内容は、教会の草創期のエピソードを再現したりする事もあるし、その時の「教会内の時事ネタ」な事もある。
私が参加した時は、「カトリックの70歳以上の公職者」が「韓国人の若い女性」と祝福を受けたというニュースがホットで、そのネタを統一教会の奇跡として紹介する内容だった。ちなみにこのエピソードは、後に私の父が、私が一般結婚をするのを許すことに決めた時の根拠になったものでもある。
私の任された役というのが、海外で宣教師としてバリバリに活躍した伝説的な日本人女性
なので、なるべくカタコトの日本語訛りの韓国語で話すようにと言われた。今まで韓国語の発音をなるべくネイティブに近づけようと努力し、大学生になってようやくモノになってきたところだったので、その注文はかなり不本意だったが、他に出来る役もないし、指示通りにその役をこなした。
私にはこの女性宣教師が誰のことかよく分からなかったが、詳しい人には察しがつくとの事だった。もしかしたら教祖夫妻も知っている功労者だったのかも知れない。
この劇団はとにかく「内輪ウケ」に命をかけていた。私がやった役である「信仰的な日本語訛りの韓国語を話す日本人女性」なども教会内ではあるあるなので、出てくるだけである程度笑いが取れる。台本には韓国の国歌を熱唱して他の信者に止められて、「すみません」と日本語で謝るというくだりがあった。練習では大ウケだったのに本番ではややウケだったのが今でも心残りである。まあ、私が考えた台本ではないので私だけの責任でもないが……。
それから、何かにつけて「三日行事」をネタに使いたがるのもこの劇団の特徴だった。三日行事とは、統一教会の一世信者のみに課せられた儀式で、祝福を受けた一世カップルが「家庭出発」をする時に三日連続決まった手順で性行為を行うというものだ。この手順を経てからでないと普通の夫婦生活が行えないらしい。「らしい」というのは、実はわたしはこの「三日行事」の詳細を教えてもらっていない。祝福家庭から生まれた祝福二世は「原罪がない」という事になっているので、この「三日行事」を経る必要はないのだと言う。(でも祝福結婚を受ける必要はある。結局受けずじまいになったが。)
この時の劇では、その70歳超えのカトリックの公職者が晴れて祝福を受け、「三日行事」への意気込みがあり過ぎて滋養強壮剤を飲んだというくだりで、観客の信者たちの笑いを取っていた。
信者でなければ、何のこっちゃ分からないネタであろう。
劇の稽古の合間に、ある劇団メンバーの一人が「おい、こいつ三日行事が何か分かってないぞ!」といじられていた。実は私も詳細はよく分かってなかったので、私までいじられないように黙って様子を伺っていた。なんだか滑稽な思い出である。
ところでこの劇団のレギュラーメンバーから、過去にお父様がアメリカのダンベリーの収容所に収監された際の事を劇にして演じたところ、お父様に近い幹部から注意を受けたと聞いた。
劇の内容は、文氏が脱税で逮捕された際、実際に宗教界隈で「宗教弾圧だ」とデモが起こったことを題材にしていた。それは教祖を庇う内容たったのだし、何なら迫害を受けたことで「蕩減条件」となり、ますます教会が発展する兆しでもあるといった、全面的に称える内容だったのにも関わらず、幹部から難色を示されたのだという。
幹部によると、「あの劇の内容は、お父様を悲しませたんだぞ!」という事らしい。
どうやら教祖本人は、あの脱税の逮捕については「触れてほしくない」事になっているようなのだ。
なんだか拍子抜けした。意外に世間的なんだなと思った。一般の信者としては、お父様は逮捕されたことさえも誇らしげに堂々と受け止め、何でもないと思っていて欲しかった。
この事を教えてくれた劇団レギュラーメンバーも私と同じように疑問に感じたようだったらしく、
「お父様を慰労したり賞賛する内容だったのに、幹部からそんなふうに言われて自分たちも傷ついた」
と言っていた。
この劇団にいた時に外食に連れて行ってもらったことがあった。かなりの人数だし、ちゃんとした食事で費用もかさんだので、私は劇団を引率している責任者に「お金は誰が出すんですか」と聞くと、「協会で出してくれる」との回答だった。
私はそれ以上聞かなかったが、こういう贅沢はきっと日本からの献金が原資なのだろうと察し、切なくなったのを覚えている。もちろんこれは、私の憶測の域を出ないのでこれ以上はなんとも言えない。(でも多分、十中八九そうだと思っている。)
さて、劇団に私が参加したのはその一回きりだったが、後ほどこの劇団が上演した過去の作品に日本語字幕をつけるという作業を手伝った事がある。
手伝うと言っても、翻訳作業をしている日本人の
字幕を付けていた劇は、教会の草創期、ある小屋にいる青年期の文鮮明氏を描いた内容だった。
——
文氏の噂を聞いた近所の人が草創期の教会である小屋に訪ねてくる。
「ここに変な青年がいると聞いたのですが」
小屋から出てきた信者が「変な青年だって?」と聞き返す。
近所の人は慌てて「いやいや、えーっと、そうだ。理想の高い青年がいると聞いて!」と言い繕う。
——
そのまま日本語に訳すと何でもない場面だが、実は韓国語では「変な(異常な)」は「
出来れば日本語の字幕でも、ダジャレっぽくしたいよね、という話になった。
しばらく考えて、ふと閃いた。結局、こんな感じになった。
——
「ここに『おかしい』青年がいると聞いたのですが」
「『おかしい』青年だって?」
「いやいや、えーっと、そうだ。『お
——
これには
一瞬で流れ去ってしまう場面だが、今でも覚えているくらい、かなり上手く訳せたと満足している。
【書籍化】"カルト"とマネロンと私(カルマ) 雑記きよみん @mknote111
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