4 枯紫陽花
「ねえ! なぜ、紫陽花捨てたの!?」
朝のテレビニュースを眺めてた夫に、私は声を荒げて詰問した。
にらみつけてる私の剣幕に夫は顔をしかめたが、あきれたように溜息をついてから答えた。
「去年から枯れたままで目障りじゃないのか? それをわざわざゴミ箱に捨ててやったのに、何がいけないんだ」
道理としては確かにそうだ。猫の額庭なり春めいたので、茶枯れた紫陽花だけがあたたかな陽光まで拒んでいるかのように不調和だったもの。
わかってた。わかりすぎていた。毎日々々眺めては、くださったご夫婦を偲ぶ苦しさに株ごと処分したいとさえ思って冬を過ごし来たのだから。
でも、そんなだからドライフラワーとして飾るさえできなくなってた。花だけ切り離したら悲惨だった事故を再現するみたいで、とうとうそのままにしていたのだった。
うつむいた私に夫は続けた。
「だから俺、控えめな額紫陽花のほうが好きなんだよな。丸いのは汚く枯れても目立ちたがる」
言われた刹那だった、夫への怒りが瞬時に冷めたのは。
もう、いい。わかった。もう、いらない。
夫にからんだ自分さえ、一気にうとましくてならなくなった。
わざわざ挿木鉢にしてくださった、なつかしいお二人ーー。
共白髪でむつまじくいっぱいの花を愛で育てることに晩年を全うなさろうとしてたご夫婦ーー。
そんなだったお暮らしごと汚いだの悪目立ちだのとけなされたようで、私は夫とよりそいあう老い先を、あの瞬間からもう考えられなくなったのだと思う…………。
以後の私は怠惰になってくばかりだった。
ぐうたら奥様と自嘲して、専業主婦の座をのんぺんだらりと居座ることに、そのうち罪悪感さえおほえなくなっていった。
あの日だったのだ。すでに失くしかけてた女らしい情感というものを、紫陽花がつっこまれてたゴミ箱へ自らほうり捨ててしまったのは。
そうして顔をそむけてゴミの匂いがもれないようきつく
だからそれ以前の私がどんなだったか、思い出したくもなくなったーーーー。
なのに今朝、とうとう思い出してしまったわけだった。
昼の月 海月 @medusaion
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