最期の銀シャリ
ヒマだ。
自衛隊にいたころは毎日勉強と訓練でこんな暇はなかった。テレビはどれも面白くない。
料理上手の妻は除隊の理由を知ってほどなく家を出て行った。お腹の中の子供と共に。
みんな、元気でやってんのかな。俺がいなくてもなんも変わんねぇか。
除隊されて三日間何も考えられなかった。この後どう過ごせばいいのか。何も道はない。国民に背いた一人の人間を匿ってくれるところなどあるはずがない。
俺は間違っていたのか。ただ可愛いが故に、漁業、人命被害をもたらす生き物の子を池に隠したということは。
答えはいくら自問しても出てこない。ただ心のもやを大きくするだけだ。
俺は全てを失った。家族も友達も職も失い、心を亡くした。
深い沼にはまったような気分だ。どれだけ泥をかき分けても道はなく、沼の奥底に引き込まれていく。
「もういいや」
独り言が片付いた一戸建てに響いた。
キッチンへ向かい、戸棚を引き、包丁を取り出す。
「頂きます」
炊飯器にある熱々の新潟米をふりかけもかけず頬張った。
「美味い」
十分ほどかけて茶碗一杯の米を平らげた。脳裏には魚の下半身とワニの胴体、ドラゴンの頭を持った血まみれの生き物が写し出される。
「今度こそ、一緒に暮らそうぜ」
静かに微笑み、流し台の前で包丁を勢いよく腹に突き刺した。
やっと、シャーリーと毎日銀シャリを食べて暮らせる。
だんだん目の前が霞んできた。このまま眠ってしまえそうな気がした。全てから解放される。
「クエーッ!」
どこかから鳴き声と共に、小さなウオドラが笑顔で、俺の胸元へ、握り飯を持って飛び込んできた。
(了)
最期の銀シャリ DITinoue(上楽竜文) @ditinoue555
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