第71話「いつもと違う昼休み」

 昼休み食堂に向かうと、そこにはいつものように昼食を取っている星空達の姿があった。

 三人ともビジュアルは学園屈指、更に数日前の第二層攻略によって注目度は芸能人レベルだ。


 昼食を取っている学生達は、彼女達の聖域を侵さぬように一定の距離を取っている。


「う、うう……どうしよう……」


 食堂の出入り口から星空達の様子を、御影はこっそり覗き見る。


 勇気を出して飛び込むべきか。

 でも沢山の人達がいる場所で、校内の大人気アイドル的な存在に声を掛けるのはハードルが高い。


 チームメイトとはいて、自分が声を掛けることで周りから「なんだアイツ?」と思われたらメンタルが木っ端微塵になってしまう。

 自宅でパーティーまでした仲だというのに、未だにそんな思考に陥る自分に嫌悪する。


「す、少しは成長できたと思ったのになぁ……」


 母の作ってくれたお弁当を抱えながら、御影はその場に座り込む。

 極限まで存在感を消しているので、食堂を出入りする生徒達は彼女に気付かず素通りしていた。


 星空達の活躍を楽しそうに語っている学生達、その中には〈魔術師〉ミカゲの名前もあった。


「ミカゲさん本当に凄かったよね」


「私も〈魔術師〉だから弓使ってみようかな」


「魔法剣で前衛するのも面白そうだよね」


 ……み、御影の話をしている!?


 廊下を歩く学生達から称賛の声を聞く度に、御影は嬉しさのあまりニヤニヤする。


「御影さん、こんな所でどうしたの?」


「ひゃい!?」


 褒められて気が緩んでいたらしい。

 声を掛けられてビックリして飛び上がる。


 誰なのと恐る恐る見たら、それは同じクラスメイトで隣席の女子。

 最近朝の挨拶と少しだけゲームの話をしている、近藤こんどう歩夢あゆむだった。


 技術工作部に所属する彼女。

 部活動で使うのか、沢山のダンボールを両手に軽々と抱えていた。


「あ、えう……こ、ここ近藤さん……」


「いつもは校舎裏とか人気のないところにいるのに、こんな場所にいるなんて珍しいね」


「えっと、これはその……」


 頭の中が真っ白になり何も言えなくなる。

 近藤は御影の視線の先、食堂の中を一瞥してすぐに状況を察した。


「睦月さん達のところに行かないの?」


「え、あ……その……」


「三人とも全く料理に手をつけてないよ。……多分御影さんの事を待ってるんだと思うけど」


「そう、なんですね……」


 確かに顔だけ出して確認すると、三人とも料理よりも会話の方に集中していた。

 ということは、ここで隠れて見ているのもバレている可能性は高い。


 どうしよう。彼女達を待たせていると考えたら、余計に緊張感が増してきた。

 ガタガタ震えていると、近藤はふと脇に抱えている工作用のダンボールに目を向ける。


「そんなに緊張するなら、これに穴あけて頭にかぶる?」


「え、でも部活に使うんじゃ……」


「うん、皆で生放送に使う予定だよ。今回のテーマはロボットアニメの白い悪魔を作るんだ」


「な、ならダメです。こんなところでミカゲに使うより、部活の撮影に使ったほうが余程有意義だと思います……」


「ちょっとまってね」


 カッターを取り出した彼女は、あっという間にダンボールに二つの穴を作る。

 近くを通る学生達は、また技術工作物が面白いことしてると苦笑していた。


 加工はあっという間に済んで、近藤はダンボールを御影に差し出した。


「はい、どうぞ」


「あ、ありがとうございます……」


 受け取ったダンボールを頭に被ってみる。

 サイズはピッタリで、被っていて窮屈さを感じない素晴らしいものだった。


 ああ、これは落ち着く。

 周囲の視線が大きく緩和され、少しだけ弱っていた精神力が戻る。


 ゲーム内の調子までとは行かずとも、これなら食堂の中に行けると御影は思った。

 そんな彼女を見て、近藤は笑みを浮かべる。


「用が終わったら教室で私に返してね。それまでは、それを貸してあげるから」


「は、はい! ありがとうございます!」


「良いよ良いよ、そんなに畏まらなくても。私はこう見えて、御影さんのファンなんだから」


「え? ふふふファン!?」


「そ、ずっと戦う御影さんを応援してるんだから」


「あばばばばばばばばばばばばば」


 予想外の告白をされて、御影はあたふたと冷静さを失う。

 頭にダンボールを被った少女の奇行が、余りにもおかしくて近藤はブフッと吹き出した。


「ふふ、ギャップ萌えって奴かな。第三階層の活躍も楽しみに見てるからね」


「は、はい! 頑張ります!」


「よし、それじゃ行ってきなさい!」


「あびゃー!?」


 バシンと背中を叩かれて、御影は勢いよく食堂に足を踏み入れる。

 食堂内にいる全ての視線が集中し、流石に緊張して身体は一瞬固まってしまうけど。


 星空が笑顔で手招きをしてくれた。


 それだけで木の根っこのように張り付いた足は、呪縛が解けて自由に動かせるようになる。

 振り返った先に、もう近藤の姿はなかった。


 御影は「ありがとう」と再び礼を口にしながら、前を向いて前に歩みだす。

 テーブルにつくと、龍華と優奈は少しだけ呆れている様子だった。


 それはけして悪い意味ではなく「ダンボールでどうやって食べるんだ」という疑問だ。


「だ、大丈夫です。実はこれ口元に切り込みがあって……」


「「「おおおおおおおおおお!?」」」


 無駄にギミックを搭載されたダンボールに、星空達は驚きの声を上げる。

 それから御影は星空達と昼食を取った。


 いつもは一人で過ごしていた時間。


 友人であり信頼する仲間達と過ごす時間を。


 ミカゲは、大切にしようと心に誓った。


第二部──完

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