第51話:そして服を買いに行く
最終的に、帝都でオレ達が暴れた事件は遺跡の古代機構暴走として処理された。
皇帝はその最中に事故死。帝国内は、一月ほど大きく混乱したが、今は少しマシになっている。
魔王クリスが短いながらも準備していたこと、重臣が片っ端から洗脳されていて、それが解けて正気に戻ったことが大きい。
なんでも、「え、なんで我々戦争しちゃったの?」と思う人が多数で、結構早く落ちつかせることができたとか。
それでも帝国内はまだ混乱している。戦争継続派が独立宣言したり、北部商業連合の生き残りが決起したりで内戦状態だ。
それはそれとして、オレはこの世界に転生してから初めてゆっくりした時間を過ごしていた。
ザイアムの領主別邸を抜けて、広めの宿に引っ越し、ダンジョンにも行かず、依頼も受けずに過ごしていた。
冒険者としては休業状態だけど、クリスやエリアから来る仕事を片づけてたんだけど、それも少しは落ちついた昨今である。
「ようやく後片付けが済んだな……」
「クリスさんはもっといて欲しいようでしたけど」
今回止まっているのはエリアお勧めのお高い宿だ。なんでも特別な部屋を手配貰ったらしく、離れみたいな単独の建築になっていて、綺麗な庭がある。
そこのテラスでお茶を飲みながらオレはフォミナとのんびりしていた。
昨日まで帝都でクリスの手伝いで、過激派のアジトとかを強襲していたのだ。
帝国側は大変だが、色々となんとか間に合った感はある。
オレが古代種と戦った二日後に、帝国と王国の軍勢が睨み合いをする状況まで来ていた。なんとか国内をとりまとめたクリスからの連絡で、帝国が撤退しなきゃ、現地指揮官の判断で開戦していたかもしれない。
なにはともあれ、戦乱は回避された。オレ個人としては目標達成と言って良いのではないだろうか?
「これからどうしますか。あ、あの、あの時勢いで私とデートする約束をしましたけれど……」
「それなんだ、問題は」
「やっぱり、私とデートなんて嫌……」
「いや、デートに出かけるための服がないんだ」
オレはまさにそのことで悩んでいた。
転移してから基本的に装備品しか身につけてない男には、出かけるための服がないのである。
そして、異世界においての服の知識も店も知らないオレにとっては、これは結構な難題だった。攻略情報も使えないし。
「まず、服を買いに行くのに付き合って欲しいんだけど」
そう頼むと、少し間を置いてから返答があった。
「はい。喜んで!」
良い笑顔で答えたフォミナだったが、すぐにはっとした表情になった。
「そういえば、私も服があんまりないんでした。せっかくだから一緒に買いましょう。それと、他にも日用品を……」
楽しそうにこれからの予定を話すフォミナを見ていると、自然と笑みがこぼれるのが自分でもわかった。
そんな穏やかな時間を破壊する存在がいた。
「マイス様! ご機嫌麗しゅう! 失礼致します!」
返事を待たずにテラスにやってきたのは黒髪にスラッとした美女。
元皇帝サーラだ。地味な衣服に、険の消えた表情、もうかつての面影は感じられない。
フォミナの目つきがとたんに険しくなった。
「マイス君、やっぱりこれは……」
「そう言わないで。これしかなかったんだから」
「フォミナお姉様も、ご機嫌麗しゅう。いくつか書類を提出に来ただけですわ」
そう言いながら、サーラが書類の束を渡してきた。
軽く目を通すと、綺麗な文字でわかりやすく情報がまとめられていた。
「ありがとう。……結構覚えてるもんだな」
「はい。皇帝になっても勉学に励んでおりましたゆえ」
復活した彼女には古代種としての記憶が残っている。
非常に危険な知識だ。その上、クリスがいうには妙に行動力があるらしいので野放しにもできないとオレ達は判断した。そもそも、蘇った彼女には生きる手段がないし、帝国内においておくわけにもいかない。
とりあえず、なにかあったらオレが止めるという条件付きで、強制的にパーティーインすることになった。
そんなサーラががオレに渡してきたのは、古代種についての遺跡の記録だ。
帝国内のあれこれも教えてくれるが、それは国内を平定しようとしているクリスに流している。
「……オレの知らない遺跡だらけだな。これ、どうにかした方がいいのかなぁ」
「どうでしょう。近くに古代種の末裔がいなければ稼働はしないと思いますわ」
「古代種の末裔って、どのくらいいるんですか?」
なんとなく、そのままサーラも椅子に座って会議みたいのが始まった。
この資料はサーラに頼んだ仕事だ。オレ達は古代種について何も知らなすぎる。対策くらい立てておきたい。
「そうですね。一万人に一人くらいは古代種の末裔かと思われます」
「結構多いな……」
うっかり遺跡を見つけた冒険者がそのまま乗っ取られる可能性は十分ありそうだ。
「マイス君、どうするんですか?」
「人里に近いところは潰しておこうかな。後は、おいおい。程ほどにしないと、これだけで一生終わっちゃいそうだし」
サーラが地図に記した遺跡の数は百を超えていた。しかも、北極とか南極みたいな遠方も普通にある。さすがに全部を相手にしてはいられれない。
せっかく多少はコネができたんだし、人に相談しつつ対策しよう。
ようやく一息付けそうなんだし。オレも少しくらい好きにしていいはずだ。
「このサーラ、お役に立ちますよ。遺跡は軒並み止めて見せましょう。あ、それとほら、マイス様のためにこれも用意致しました」
そう言って、サーラは縁なしの眼鏡をかけた。
「…………」
伊達とわかっていても、似合っている。元々かけていたらしく、わざとらしさも感じられない。
「…………」
「ふふ。気に入って頂けたようですね。ぐっと来るでしょう。知っています」
サーラは古代種のスキルが残っているおかげで<鑑定>が使える。それでオレのステータスやら好みまで把握済みだ。このスキル一つとっても安易に世に放っていい人物じゃないな。
「色々と役立ちますよ。だからわたくしも同行させてくださいまし。こう見えて、房中術の心得もございます」
「ぼっ……なんてこと言うんですか! マイス君、この人すぐに帝国に引き渡しましょう」
「か、勘弁してくださいまし!」
「それやったら死んじゃうんじゃないかな……」
フォミナは本気の目だった。容赦無い。房中術というのはあれだ。そっち系の技術とかのことだ。
「サーラさんが私達と一緒に居る理由はわかります。でも、冒険者までする必要はないんじゃないですか?」
フォミナのいうことももっともだ。古代種のスキルが残っているので戦力にはなるだろうけど、ここで書類仕事をしててくれても十分役立つ。
「それがあるのです。お二人と冒険に出れば相当な稼ぎになります。マイス様は稼ぐ方法も知っていらっしゃることでしょう。わたくしは、それで稼いだお金を帝国の復興に使うのです。それが、わたくしの、一生をかけた、せめてもの償いなのです」
「…………」
真面目な顔をして言われ、言葉を失うフォミナ。
サーラはちょっと前のめりだが、古代種に乗っ取られて戦争を起こしたことを心底悔いている。それが端々から見える故に、オレも今の状況になることを受け容れた。
「とりあえず、仕事に戻ってくれ。エリアから貰った書類仕事もあるんだろ?」
「了解ですわ! 細かいお仕事はお任せあれ!」
今は資料整理と、ザイアムで出世しつつあるエリアからの仕事も分けて貰っている。事務仕事は得意みたいなので、好評だ。
再び、テラスにはフォミナとオレの二人だけになった。
「サーラについては、長い目でみてくれ」
「いいですよ。す、少しくらい仲良くしても」
「…………はい?」
「その代わり、私を一番にしてくれれば十分です」
顔を真っ赤にしながら、フォミナは言っていた。
そんなもの、最初から答えは決まっている。
「勿論、そのつもりだよ」
ここまで一緒にいて、それ以外の回答はあろうか。いやない。
「と、とりあえずデートですよね。いえ、デートにいくための服を買いにいきましょう。それから……それからどうします?」
浮かれた様子で聞かれ、オレは考える。
さて、どうするか。おまけつきだけど、フォミナと一緒にいくならどこでもいい。帝国の内乱に手を焼いてるクリスからは手助けの要望がある。それに、他のヒロインの動向も気になる。そもそも、主人公のあいつは元気にしているんだろうか。
色々気になるが、何とかなるはずだ。
根拠はある。サーラによって、エトランジェのスキル<運命回天>の効果が顕わになったのだ。
運命回天。効果は良くない運命に遭遇したとき、回天させるというもの。
回天とは、情勢を一変させること。一気に盛り返すこと。
つまり、オレはバッドエンドに出会ったとき、自然と良い方向に働かせることができるらしい。
この上なく、強く、頼もしく、面倒ごとに巻き込まれそうなスキルだ。
だけど、それも悪くない。
目の前で答えを待ってるフォミナに、オレはゆっくりと告げる。
「そうだな、思いついたことを順番にやろう。ようやく、好きに動けるんだから。できるだけ楽しくいきたいね」
「ですね。私も楽しみです」
死の運命を逃れた先にある、白紙の自由。
オレはようやく、異世界転生して、自分の人生の一歩目を踏み出した。
まずは、出かけるための服を買いにいかなくては。
----------------------------
【あとがき】
ちょっと後半駆け足気味でしたが、マイス君の話はここで一度完結とさせて頂きます。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
----------------------------
ゲームの世界へ転生したら、いきなり全滅ルートに突入した件 みなかみしょう @shou_minakami
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます