解答と解説【第2問】
問一
あの御方を失い、その優しさや暖かさに縋っていたことに気づき、気温とは別の寒さを痛感したということ。
解説
解答要素は「凍えるほどの寒さ」が何を指しているか、という点に尽きるが「温度計で計るものとはまた、違った意味を持つ」が一体どういうことなのかを説明しなければならない。「温度計で計る」のと違うということは「実際の気温とは別物」ということ。傍点部の後には「彼の地満州で思い知らされた」とあり、満州に行った経緯を押さえる。さらに後に「あの御方が教えてくれた故郷の温もり。知らずと気が付いたら、そこにおりました」とある。「あの御方」は満州にある「関東軍」の部隊の所属であるから、「故郷」はあの御方の故郷=「満州」=「そこ」と分かる。さらに「野生の本能の前には、どうすることも……」から、前半部の結末では「私」が「あの御方」を人狼にすることはできず、殺してしまったことが推測できる。以上をまとめると「愛する『あの御方』を不本意にも殺してしまった『私』が、『あの御方』の故郷、満州」で「寒さ」を感じたことになる。傍点部に返って、その前を見ると「思えばあの御方の、素朴な優しさ、暖かさに縋っていた」とあり、ここまでの解釈を合わせれば「あの御方」と「その優しさ、暖かさ」を失って感じたものが「気温とは別の寒さ」であるということになる。
問二
軍部から「私」を守るため、死の危険を承知した上で、人狼となり愛する「私」と共に永遠に生きる覚悟。
解説
傍点部は終盤だが、実際の内容は傍点部前の「あの日」=「年に一度の名月が出づる時分」であるため、遡って読む必要がある。「覚悟」という言葉は「覚悟がおありか」「覚悟を決めて参られたのですね」と会話の中にあり、この部分の内容を押さえていく。会話には「あの御方」のセリフがないため、「私」の反応から推測していく必要がある点に注意。まとめると次のような要素になる。
・「あの御方」は「私」を捕え、生体実験の材料とする密命を負っている。
・「あの御方」は軍部も人間としての生も捨て、人狼となって「私」と共に永遠の命を生きようとしている。
・「あの御方」は「私」を愛している。
・「私」は自身の血を相手に注ぎ込むことで「仲間」=「人狼」にできる。
・獣になった「私」は本能に従い「血肉だけを喰らう」=「人狼にせずに殺してしまう」かもしれない。
・「あの御方」は死ぬ危険も覚悟の上だった。
これらの要素を字数の範囲でまとめていく。
問三
ア
解説
作品内で多少時系列が前後するため、整理すると……
・「高尾山の梺」……「私」と「あの御方」の出会い。
・「武蔵路国分寺」……「あの御方」を殺してしまった「あの日」。
・「満州」……「あの御方」を失った「私」が辿り着いた、愛する人の故郷。
・「国立感染症研究所」……百年後の現在。
該当するのは「ア」。
「イ」は出会いの場面が二番目に来てしまうため不適。物語に書かれている順序と実際の時系列の違いに注意したい。「ウ」は最初に満州が来ているため不適。「私」の生まれは日本なので、生まれた時には満州にいたという読みもおかしい。「エ」は、陸軍軍医学校防疫部は「あの御方」の所属として紹介されているだけで、私が居た場所には含まれないため不適。
私立カクヨム大学入学試験【国語】 阿部藍樹 @aiki-abe
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