後編 取るに足りない烏合の衆
海外のメディアも注目する政府批判…と騒ぐのはmetube
やWitterの投稿者だけだった。グロバルリズムという可笑しな世界を支持するメディアは面白がるだけで深堀はしない。中酷も珍しく報道に関して静かだった。中酷の独占的躍進に脅威を感じ、懸念を顕にし、内部からの政府解体を期待していたカード陣営も冷ややかに見守っていた。その静けさが事の重大さを物語っていた。他国の静けさは、強権政府が力のない民衆に倒せるわけがない、その歴史も経験もない。根回しもない。その中で起きた起きた抗議活動を誰もが取るに足りない出来事だと感じていた。現に秀欣平の読み通り「無・コロナ政策」の緩和を行い移動の自由を与えれば嘘のように抗議デモは納まった。所詮は、実務経験のない烏合の衆、恐れるに足りずだった。
「見て見ろ、あれだけ吠えていた犬も餌を与えればこの様だ」
「確かに」
「ただ党と私への批判をした者を探し出し、密かに始末しろ」
「それは既に進めております」
「学生に教えなくてよかったな。政府を倒せるのは政府の者だ
と言うことを、ぷっ、ははははは」
「主席、インドネシアのジョコ大統領からG20でお越しの際、
一部開通した高速鉄道に一緒に乗車できないかの依頼が」
「ああ、オンラインでな。誰が中酷の作った物に乗れるか。怪
我をしたければおひとりでどうぞと言ってやれ」
「はい。それと懸念が一つ。緩和後、感染力が拡大していま
す。高官の中にも広がっています。301病院でも対処できな
いと報告を受けています。外務省報道官・超葎も感染したと
のことです」
「そうか…。気を付けなければな。見えない敵は厄介な物だ」
「ゲノム解析を急がせますか」
「いや。変異株だと分かれば混乱を招く。締め付けての結果が
より強力な物となれば今までのことが水の泡だ。下手に解析
して西側諸国が掴んでいない事実を公表でもしてみろ、それ
こそ厄介だ。西側諸国に任せて置けばいい」
「はい。しかし、感染率だけでなく死亡率も高まっています。
何らかの手を打たねば世界は我が国民を入国させないことに
はならないでしょうか」
「モノ言える国わな。それがどれだけある。日本も目先の金を
欲しがり受け入れる。子飼いの議員には中酷国民を受け入れ
るように動けと打診はした。命を取るか、金をとるかと問え
ば奴らは票につながる金を取ると二つ返事だったわ」
「流石、主席に抜け目なし。勉強になります」
「それにしても感染率、いや死亡率が高いな」
「その死亡者数ですが、少なすぎると海外はもとより自国から
も疑念を抱く者が現れています」
「放っておけ。今まで通り原因不明の数だけでいい。あとは直
接的な病名にすればいい。国民に不安を与えないことだ。真
実・事実というものは不安材料にしかならない。我らが事実
と思う事が事実だ」
「はい」
「間もなく春節になる。それまでは静かにな。我が国の苦を世
界に広め同じ舞台に上がらせるまでな。前回もそれが上手く
行き我が国への批判は薄れ、起源を問わなくなったではない
か。今回も同じだ。中酷の問題は世界の問題だ。解決するの
はアメリカや西側諸国だ。糸口が見えれば奪い、我が国の手
柄にすればいい。それが中酷の生き延びる道だ」
「漁夫の利、ですか」
「行程でなく結果だ。終わりよければ全て良しだ、ぷっはは」
「はい」
「今は、春節を用いて菌を保有した国民を全世界にバラまくこ
とだ。そうだろ、我が国だけが感染者が激増するのは可笑し
いだろう。苦は分けあってこそ薄まるというものだ」
「はい」
「歴史は繰り返すと言う。歴史には逆らえないと言う事だ」
「でも、なぜ、我が国だけが急激に感染者が増えたのでしょ
う。どの国より強化に取り組んできたのに。やはり、ワクチ
ンの効き具合でしょうか」
唯一愚痴を漏らせる親戚筋に当たる亮文の一言に秀欣平の顔は紅潮した。
「馬鹿者!それを二度と口にするな」
「は、はい」
「まぁ、いい。我が国が作る物に信用などないことは国民が一
番知っていることだ。薬局から薬がなくなると日本の友に依
頼し買い占めに走らせている。車も家電製品も中酷の新車や
新製品より日本の中古の方が信頼は高い。先ほど言ったな、
事実は我らが作るものだと。本当のありのままは邪魔な物。
よく覚えて置くがいい」
「はい」
「薬は買い占めた。しかし、愚かなことだ。日本から送られた
ものは手元に届くのかな、楽しみだな」
「確かに。配達する人材が足りてないと。コロナが拡散する
中、誰が配達するのか」
「手に入らないものが目の前にあれば、奪って転売するでしょ
うね」
「分かってきたか、我が国というものが」
学生の抗議活動を発端に頑なに守り続けてきた「無・コロナ政策」の緩和に踏み切った秀欣平だったが、予想外の国内の動きがみられた。管理・監視されて不満を溜め込み、ビルから飛び降りたり、暴れたりしていた国民が大人しくなった。経済の復興をも考え緩和した政策は、国民の活動を慎重にさせるものとなった。
緩和すれば賑わうはずの商店街や繁華街は、規制が行われていた時より閑散としていた。行きかう人の殆どが薬局回り。電車内では自主的にマスクを掛け、スマホを睨んで静かなものになっていた。我慢のできない中酷人のことだ、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」で、少し時が過ぎれば何事もなかったように砂糖に群がる蟻のように動き出すだろう。
新たな年を迎え、秀欣平の思惑が成就するのも時間の問題だろう。
赤の激震 龍玄 @amuro117ryugen
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