呪われた橋

大隅 スミヲ

呪われた橋

 霧が立ち込めていた。


 カーナビを信じて山道をウネウネと曲がった道を進んできたが、霧のせいで数メートル先が見えないような状況となってしまったため、おれは車を停めてどうしたものかと思案した。


 目的地まではあと10キロという表示がカーナビの画面には出ている。

 ここからは橋を渡らなければならないようなのだが、その橋の姿はどこにも見当たらなかった。


「ねえ、あれじゃない?」

 助手席に座っていた彼女が少し先を指さしながらいう。


 そこには大きな橋が架かっていた。

 その大きさは車が2台すれ違うことができるぐらいのものだった。


「おお、あった。あれだ」

 おれは橋のある方向へとハンドルを切り、車を進めていく。


 霧に包まれた橋を渡るというのは、先が見えない不安との戦いでもあった。

 突然橋の先がなくなっていたらどうしようとか、全然違う場所にたどり着いたらどうしようとか、変な妄想が頭の中を駆け巡る。


 たしか学生の頃に後輩からこんな話を聞いたことがあった。


『霧の立ち込めた山の中で迷うと、大きな橋に遭遇する。その橋を渡りはじめたら、ゆっくりと走り続けなければならない。途中で止まることは許されない。そこは呪われた橋なのだから』


 どんな呪いがあるかまでは、思い出せなかった。

 だが、この橋がもしかしたら、その呪われた橋なのかもしれない。


 そんな妄想にとりつかれたおれは、アクセルペダルをほとんど踏まずに、ゆっくりと車を走らせる。


「ねえ、どうしてもう少しスピード出さないの?」

 あまりにもゆっくりと進むおれに不審な目を彼女が向けてくる。


「いや、スピードが出せないんだって」


「なんで?」


のろいの橋……なんつって」


 そういった瞬間、車がガクンという音とともに停止した。


「え?」


 おれと彼女は顔を見合わせた。


 そこからが恐怖のはじまりだった。

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呪われた橋 大隅 スミヲ @smee

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