最終話

「あ、ここですね」


 瀧下公子の復讐劇から十数日が経過した日。二人は瀧下公子が住んでいた市内にある墓地に足を運んでいた。

 あの復讐の日、佐藤の電話に瀧下公子の居場所を教えたのは2人が勤めている市内の警察署からだったのだがそれは更に元を辿ると瀧下本人だった。何故自らの居場所を教えたのかはわからない。右島はこれを恐らく自殺した後に自分が遺書を警察関係者に見せるためではと推測している。


「親族は既におらず、それでも犯罪者ではあるが……渋谷銃雨事件という国が秘密にしたがる事件の元凶である以上、下手に隠すわけにもいかなかったからな。ここに埋葬したか」


 二人は市が管理している共同墓地の墓石の前に並んで立つ。右島の右手には花束が握られていた。彼はその手に合った花束を彼はそっと墓前に置いて両手を合わせる。しばらくして右島は墓に向けて喋りだす。


「……辛かったろうな。ここに埋葬されたのはある意味では奇跡かもしれないぞ?」


 右島は振り向くと墓場の一角に視線を向けた。佐藤はその先にある墓に気づくとへと右島よりも先にその場所へと向かう。


「これってもしかして……」


「ああ」


 瀧下家之墓。墓石にはそう書かれてあった。墓全体を見ると他の墓よりも綺麗になっていることに右島が気づく。


「復讐前に掃除していったのか……」


 綺麗な墓の前には開けられたジュースの缶とお菓子が綺麗に並んでいた。


「あれ?復讐前に掃除したとしてもこれ綺麗すぎじゃないですか?」


「ああ。よっぽど日持ちしたんだろ。母の愛情とかって奴だろうな」


「そうですかね?」


「そういうもんさ」


 二人は瀧下公子の息子の墓前に両手を合わせた。しばらくして合わせていた手を離して墓を見ていると『ちょっとすみません』と言って佐藤がその場を離れる。電話がかかってきたらしい。右島は一人で瀧下の息子の墓を見て語り掛けるように喋りだす。


「……俺にもな、妻と娘がいる。妻とはよくケンカするがそれでも俺にとって大事な人だ。娘は高校生になったばかりでろくに勉強もせずに遊んでばかりで俺を煙たがる。だけどもし二人に何かあったなら……俺はあんた以上の修羅になるかもしれない。いや、なるな。例えこの手に悪魔や宇宙人からの力がなくともな」


 両手に力が入る。右島は確かにその時は瀧下公子の胸の内の憎悪を理解していた。


「安らかにな。二人とも――」


 右島はそう言ってその場から立ち去っていった。

 優しい風が二人に向けて吹いて、何処かへと去っていく。

 渋谷銃雨事件。それは紛れもない復讐の為の刃である。そして一人の人間の涙が刃となって降り注いだ悲しき事件でもある。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

RE:渋谷銃雨事件 峰川康人(みねかわやすひと) @minekawaWorks

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ