まずい携行食はカロリーの塊。クソ重いギアは命綱。
鍛え上げられ無駄のない、しなやかな肉体が魅せるのは、重力が無効化されたような幻想的所業。
誰もがあんな風に、と憧れるだろうか。
おそらく一部の人間は。多くは狂気を視るだろう。
ひとたび風が吹けば、それは肺を焼く瘴気を吸うに等しい。
滑落すれば、良くて即死、悪くて重症。
そんな場所にわざわざ潜る理由はなんだろうか。
周囲を黙らせるわかりやすい理由は、迷宮特産の極めて上質な素材や食材。
ここでは皆、迷宮に依存して暮らしている。
けれど、その深層に魅せられ潜る者――潜行者たちが心から求めるのは、そこにある地形そのもの。
それを越え、ただ、到達したというその事実のみ。
だがこれは、そんな猛者さえも狂気の沙汰として噂する一人の男の物語だ。
彼が最深層で出会ったのは、迷宮に棲む見目麗しい野獣だった。
彼らの間に紡がれた絆はどこかちぐはぐなのに、二人の粋はパズルのピースのように嵌り合う。
決して他者には理解し得ないだろう。
だからこそ、尊いのだ。
……ロマンは何処にある?
その迷宮に、あるいは深層に。
迷宮。昨今は馴染み深くなった言葉も、この作品の中では一味違います。
ここで言う迷宮は、即死をもたらすトラップ、じわじわと死へと誘う瘴気、過酷な環境をこれでもかというばかりに備えた場所なのです。
物語は、その最奥を目指す「潜行者」にスポットを当てています。
魔法もチートもない世界で、潜行者たちは己の身といくらかの道具を使って、迷宮踏破を目指していきます。
山岳小説風と作者様が題するのもうなずける、無骨で噛みごたえのあるストーリー。
多様な迷宮内の設定。
そして魅力的な登場人物たち、ブロマンス。
歯ごたえのある物語と世界観を楽しみたい方にぜひオススメしたい珠玉の作品です。