――書けるのか、ここから先が。
数話完結形式のエピソードが続いてきた先、終盤エピソード「ラスト・アタック」が始まる、その手前で思ったことです。
趣味だろうと、アマチュアだろうと……小説を書いてしばらくになる人間であれば、「構想したはいいけど、これ自分に書けるんだろうか?」ということはちょっとは考えるようになります。
それはスポーツとか武道とかを始めてちょっと過ぎた後とかと同じ。
できないことはできない。できることはできる。
自分の性能、技量、ポテンシャル、そういうものに対するなんとなくの理解と見切り。
それで、だから。
「書けるのか」と、自分は思いました。なかば畏敬の念を込めて。
どうしてって、そこを読んでいた時点で現に、すでに本編は完結していたからです。
そして、作者の腕前に、そこに来るまでで相応の信頼を寄せていたからです。
峰に挑むように読んでみてください。
はじめは綺麗な山肌を遠目に見ての行楽として、やがては試される物語として。
そして読み終えたなら、読後の感想をレビュー欄で、あるいは冬のお天気でも見てわかちあいましょう。
おすすめです。
まずい携行食はカロリーの塊。クソ重いギアは命綱。
鍛え上げられ無駄のない、しなやかな肉体が魅せるのは、重力が無効化されたような幻想的所業。
誰もがあんな風に、と憧れるだろうか。
おそらく一部の人間は。多くは狂気を視るだろう。
ひとたび風が吹けば、それは肺を焼く瘴気を吸うに等しい。
滑落すれば、良くて即死、悪くて重症。
そんな場所にわざわざ潜る理由はなんだろうか。
周囲を黙らせるわかりやすい理由は、迷宮特産の極めて上質な素材や食材。
ここでは皆、迷宮に依存して暮らしている。
けれど、その深層に魅せられ潜る者――潜行者たちが心から求めるのは、そこにある地形そのもの。
それを越え、ただ、到達したというその事実のみ。
だがこれは、そんな猛者さえも狂気の沙汰として噂する一人の男の物語だ。
彼が最深層で出会ったのは、迷宮に棲む見目麗しい野獣だった。
彼らの間に紡がれた絆はどこかちぐはぐなのに、二人の粋はパズルのピースのように嵌り合う。
決して他者には理解し得ないだろう。
だからこそ、尊いのだ。
……ロマンは何処にある?
その迷宮に、あるいは深層に。
迷宮。昨今は馴染み深くなった言葉も、この作品の中では一味違います。
ここで言う迷宮は、即死をもたらすトラップ、じわじわと死へと誘う瘴気、過酷な環境をこれでもかというばかりに備えた場所なのです。
物語は、その最奥を目指す「潜行者」にスポットを当てています。
魔法もチートもない世界で、潜行者たちは己の身といくらかの道具を使って、迷宮踏破を目指していきます。
山岳小説風と作者様が題するのもうなずける、無骨で噛みごたえのあるストーリー。
多様な迷宮内の設定。
そして魅力的な登場人物たち、ブロマンス。
歯ごたえのある物語と世界観を楽しみたい方にぜひオススメしたい珠玉の作品です。