タイトルに添えられたフォント、古代チベット風というタグに、読む前からワクワクが止まりませんでした!
奴隷オルヌドは主を討ち取られ、敵国に捕まる。その燃え上がる憎しみは、敵王からツェタルという名を与えられ、今まで知り得なかった様々なことを目にするうちに、混乱や温もり、葛藤に変じていくのだった。
一方、反乱によって国も混迷を極めていく。
人々や国の思惑が激しくぶつかり渦を巻く、非常に読み応えのある戦記ファンタジーです。
国や歴史を揺るがすような大きな戦いは、それだけでもドラマチックなものですが、その中でぶつかり合う人々の思い、数々のヒューマンドラマも非常に魅力のあるものです。登場するキャラクター達は誰もが強い感情、確たる信念などを持っており、それを軸に精一杯生きる様はとても逞しく、強く輝いて見えました。
この「激しく展開していく物語」、「人物達の強烈な感情」に、読者は心を揺さぶられずにはいられません!
また、古代チベット風という世界観がとても魅力的です。人名やカタカナ言葉の語感、描かれている文化が馴染みのない土地のそれであり、非常に好奇心を掻き立てられました。
中でも、異界と人との関係性がとても印象的でした。彼方と此方の世界は隣り合うようにして共にあり、人々はそれを頼りにしたり、信じたり、縋りすぎないよう気を付けたりしている。それは人々の祈りであり、スピリチュアルやファンタジーといった一言では表せない、リアリティや生活感のあるものに感じました。
目とは単にものを見るだけでなく、「目は口ほどに物を言う」という言葉もあるとおり、正負様々な感情を込めたり、伝えたりすることもできるものです。
また、ホルスの目やナザールボンジュウ、ハムサといった目に関係する思想や物もたくさんあり、人とは色々な面で関わりの深いものであると思います。
目とは力のある、不思議なもの。
そんなことを改めて思いました。
風土・文化・政治。これらが複雑に絡み合って展開される物語は、文体も相まって非常に濃密で、読後の余韻が凄まじかったです。
さまざまな思惑が渦巻く中で、主人公のツェタルが周囲の優しさや真心に触れていく様子が丁寧に描かれ、大変引き込まれました。
登場人物の中ではンガワンが特に好きで、彼とツェタルのやりとりとその変化は、なんとも言えぬ良さがあります。乱暴だけど心根が優しく、思慮深いことが伺えます。
またンガワンとセンゲ、そしてユルスンの関係性には心揺さぶられました。こういうの大好きです。
ツェタルたちがどんな道を辿るのか、毎話追うたびに思い耽ってしまいました。
続きが気になりつつも、長く深く味わいたくなるような物語でした。