クリスマスの売れ残り
とんこつ毬藻
クリスマスの売れ残り
「いらっしゃいませー、ただいまクリスマスケーキ、全品半額になってますー」
コンビニの前に並べた特設テーブルにはクリスマスケーキとチキンの入ったショーケースが並んでいる。イヴから始まるこの2日間は、コンビニにとっても稼ぎどきだ。
近くの商店街にあるフライドチキンの店なんかは、一年の半分の売上をこの一週間で稼いでしまうって、そこのアルバイトに通ってる大学の友人
「のぞみちゃん、あと少しだね。頑張って!」
「はい、店長! 頑張ります」
貫禄のある店長はサンタ帽と白髭が似合っている。店長とバイトリーダーのおじさんは店内配置なので、店舗前のこの特設ブースはわたしと後輩の女の子と二人で回している。わたしも店長と同じくサンタの服と帽子でコスプレしては居るけど、街のコンビニなのでそんな露出のある格好はしてません。
大学でもコンビニバイトに明け暮れて彼氏なんて浮いた話すら全くないわたしには無縁の世界。そんな脚線美を強調させて繁華街へ進出し、男を篭絡するような生活よりは、コンビニで誰かに小さな幸せを振り撒くようなほのぼのした日常生活を送りたいわたしである。
「ママー、あのしゅみっこさんのケーキ! 買って買って!」
「もうーあき、昨日ケーキ食べたでしょ!」
「やだやだー、しゅみっこさん、食べたい食べたい」
たまたま通りかかった親子連れ。男の子がしゅみっこぐらしのホールケーキを見つけてこちらを指差している。困った表情のお母さんと眼があったので、満面の笑みで出迎えるわたし。
「あ、いらっしゃいませー。今ならしゅみっこさんのケーキも半額ですよー。ショーケースのチキンも二割引きです」
「あら、じゃあ。このしゅみっこぐらしのケーキ1つとファミリアチキン四本、いただこうかしら?」
「ありがとうございます! よかったね、僕」
「うん、ありがとう! サンタクロースのお姉ちゃん!」
ばいばーいと最後までこちらを振り返り、手を振る男の子。お母さんも軽く会釈をしてくれた。わたしの横でその様子を見ていた後輩のしのぶちゃんが驚いていた。
「先輩、流石ですー。半額のホールケーキ、このタイミングで売れるとは思いませんでした」
「そっか、しのぶちゃんはクリスマスのシフト、今年が初めてだものね」
「あ、はい」
「夕方からのこの時間は家族連れも若者も立ち寄りがちだから此処からは意外と売るチャンスなのよ? それに、しゅみっこさんケーキもあんなに喜んでもらってよかったわよね」
「そうですね!」
「じゃあ残り。売り捌きましょうか!」
「はい!」
結果、ケーキもチキンもほぼ売れた。夜になって特設ブースも片付けを始めていた。日付が変わる頃には外は雪がちらついていた。ホワイトクリスマスには少し遅い雪。サンタクロースの格好だと首元が冷える。
「のぞみちゃん、しのぶちゃん。今日はお疲れ様。これ、ブュッシュドノエル。残ったから持って帰って」
「いいんですか?」
「いいのいいの、二人共今日頑張ったから、日付変わっちゃったけどクリスマスプレゼント」
「「ありがとうございます!」」
売れ残ったケーキも廃棄されるよりはわたしが食べた方がマシよね。此処から家までは徒歩十分。サンタクロースの格好を着替えるのも面倒だし、そのままコート着て、サンタの格好隠した状態で帰ろう。
しのぶちゃんとお別れし、コンビニを出るわたし。ホワイトクリスマスか。わたしには無縁の言葉だな。そうやって、わたしが帰路につこうとしたそのときだった。何か、温かいものがわたしの首元を覆ったのは。
「その格好、首元寒いだろ?」
「え、悟!? なんで!」
振り向いて立っていたのは腐れ縁の悟。
「なんでって、俺も
「でも、あんたの家と方向逆でしょう?」
「チキン買っといた。一緒に食べようと思ってな。あと、その
首元に巻かれていたのは温かいマフラーだった。チキンはわたしと食べるために買っておいたらしい。いやいや、どういう事よ。
「それ、ケーキだろ」
「そうよ、わたしと同じ、
「じゃあ俺がそのケーキものぞみと一緒に食べるしかねーな」
「もう、何言ってるのよ、どうしてあんたと一緒に食べなきゃいけないのよ!」
「じゃあ、一人で帰って寂しく食べる?」
「……一緒に食べる」
まぁ、本当は分かってた。去年もなんだかんだ売れ残り同士でケーキとチキン。こいつと食べたんだよね。
……自宅にプレゼント、用意しといてよかった。
どうせクリスマスに何もないだろう悟のためにわたしが手編みでマフラー編んだんだから、ちゃんともらってくれないと許さないんだからね!
日付変わっちゃったけど、メリークリスマス。
まぁ、このままこいつと一緒にずっと売れ残るのも、悪くないかもね。
クリスマスの売れ残り とんこつ毬藻 @tonkotsumarimo
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