第2話 7月1日朝②

 朝4時30分。私、橘稚奈は目を覚ます。隣で眠っているおにいちゃんの寝顔を毎日見るのが私の日課。私が小学3年生のときにお母さんが再婚した。その時の相手の連れ子がおにいちゃんだ。兄妹になってからしばらくは別々で寝てたんだけど、とあることが起きてからはずっとおにいちゃんと一緒に寝ている。出会ったときからずっと優しくしてくれているおにいちゃんが好きで好きでたまらない。

 

 「今日も寝顔がかわいいなぁ…」

思いが溢れ声に出してしまったが、おにいちゃんが起きるのは決まって5時だからまだ大丈夫。だけど、早く起きる可能性もあるから、私も寝たふりに戻ろう。起こしてもらうのも大好き。

 

 隣でおにいちゃんが起きた。起きた時に漏らした声を聞いてドキッとする。何度聞いてもあの無防備な感じの声は馴れない。私は心を落ち着けつつ、おにいちゃんが私に声をかけてくれるのを待つ。


「おはよう、稚奈。朝だよ」


 まだ完全に起きていないのかな、私にとって甘い声が耳を刺激する。それだけで私は既に舞い上がっているのだが、ここで起きたら勿体無いと、不自然な寝息を口にする。


「………、すぅすぅ…」

「ねぇ稚奈、起きてくれないと色々準備ができないよ?だから起きて欲しいな」


 徐々に起きてきたのだろう、私に対して起きてくれるようにお願いまでしてきた。そんなおにいちゃん可愛い、と思いつつまだ抱き着いていたい私は、そんなの知りません、という気持ちを込めて強く抱き着く。

 

「………、くぅ…」


 嘘っぽい寝息をだしちゃった。するとお兄ちゃんが軽く息を吐いた。呆れちゃったのかな...


「本当に可愛くて愛しい妹だよ」


 ちょっと、おにいちゃん!?それは反則だよ!?かわいいっていつも言ってくれるけど、愛しいは初めてだよ!?あまりにもびっくりしてしまったので、抱きつく力を更に強めてしまった。顔もなんだか熱い。絶対に起きてるってバレてるけど、もう一声ほしい...


「稚奈、起きてくれないのかぁ、起きてくれたら今日何か1つお願い事を叶えてあげようと思ったのになぁ。起きないんじゃあ、そのお願い事もなしだなぁ」


 おにいちゃん、それは反則だよ... そんなの起きないなんて選択肢ないよ...

私は観念して、ゆっくり目を開いた。おにいちゃんはニコっと私に笑顔をくれる。


「おはよ、稚奈」


 おにいちゃんは私が抱き着いていない左手を回して、私の頭をなでてくれた。朝から幸せだ。


「……おはよ、おにいちゃん。…ずるいよぉ…」

「最初から素直に起きてくれればよかったのに、俺が起きる前から目が覚めてたんだろ?」


 確かに30分前から起きていたけど、おにいちゃんに対して甘えられるのは、朝おにいちゃんが起きる前と、夜寝る前くらいしかないのだ。わたしはおにいちゃんに抱き着くのも抱き着いてもらうことが大好きなのだが、朝に抱き着く時間はほとんどないため、夜までお預けになってしまう。少しでもおにいちゃんに甘えたいのだ。


「…だって、起きたら夜までおにいちゃんに抱きつけないんだもん」

「少しだけだぞ?」


 少し呆れながらも、おにいちゃんは私の体を起こしたあと、私の後ろに回り込んで、そのままぎゅっと抱きしめてくれた。びくっとしてしまったけど、その包み込まれる感じが本当に気持ちよい。おにいちゃんにもっと触れたいと思った私は、おにいちゃんの手の上に私の手を乗せて、おにいちゃんに持たれるような形でもっとくっついた。そうするとおにいちゃんもそれに応えてくれるかのように、強くぎゅっと抱きしめてくれた。7月で部屋もほんのり暑いくらいだけど、そんなの気にならない。


 5分ほど幸せな時間を過ごした後、おにいちゃんは抱きしめるのをやめた。背中に感じていた大好きなぬくもりが無くなって寂しい気持ちになった束の間、


「さ、お店の準備をしよう。早く終わったら膝枕でも抱っこでもしてあげるから。だから稚奈も着替えておいで」


 おにいちゃんも私にやる気を出させるために言ったのだろう。そんな一言でも私は嬉しいし、一瞬でやる気に満ち溢れた。


 「ほんと!?なら急がなきゃ!膝枕してもらって英気養うんだー!」


 私は急いでおにいちゃんの部屋を出て私の部屋に戻り、着替えなどを始めた。5分でも抱っこしてもらうんだもん、急がなきゃ...




試行錯誤しながら書いています。

よければお付き合いください。

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Cafe -the noir- ある喫茶店の日常 しゃろん @chalon_underground

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