悪い火遊びをすると投げ銭が貰える世界

漢字かけぬ

完結 正義の意味

 突如世界が秩序を乱し、恐怖に支配された。

 剣と魔法の世界になったり、魔物が出たわけじゃない。

 ”正義と悪の価値観が逆転した”だけだ。


 きっかけは100発以上の銃弾。

 とある大企業の社長が命を落としたことに始まる。

 いかに優秀なボディーガードでも13方向からの飽和攻撃は防げない。

 戦果を挙げた組織はその後も次々と要人を攻撃した。

 今の社会に不満を持つ人たちが合流し、勢力は増すばかり。



 彼らは”人類解放劇団”と名乗り世界を掌握した。

 そんなにうまくいくわけないと思うだろ?

 優秀な人間が1人いなくなると現場は混乱する。

 2人なら社員が有給休暇が取れなくなる。

 3人で転職を考える者が出始め、負の連鎖が止まらない。

 お荷物ばかりの社員になった企業は利益が出ず、崩壊。


 資本主義は前年以上に利益が出ること前提の考え。

 利益が減れば既存のインフラも放棄され、死者が増える。


 世界人口は40億人まで減少した。



 新たな秩序は”正義わるいことをすればお金がもらえる世界”

 そして”正しいことをすると偽善者の泉に磔にされる”

 旧世界では泉にコインを入れて幸せを願う風習があったそうだな。

 それを利用してか咎人にコインをぶつける文化になっちまった。

 人類解放劇団もこれを推奨し、市民のストレス発散スポットが誕生。



 こんな世界でも弟は正しく育ってほしいと願うばかり。

 いいことをすれば劇団に捕まる。

 だから思考を巡らせたのさ。悪を貫きつつ他人に迷惑をかけない方法を!


 1、朝用コーヒーを昼に飲む

 2、午後用の紅茶を朝に飲む

 3、き〇この山派に、たけ〇この里を食べさせる

 4、ラブレターを偽装し恋人を増やす

 5、タバコをポイ捨てした奴のポケットに吸殻を入れる。

 6、エスカレーターの右側に人間が偏っている所に左側で並び、

  急いでいる歩行者を妨害する

  (機械は片方に負荷がかかり続けると調子が悪くなるため)

 7、スマホアプリのクーポンは後ろに列が出来ていても使用する

 8、歩行者優先なので、信号のない横断歩道は車の往来に関係なく進む

 9、一時停止の標識を守らない車をネットに晒しあげる

 10、ワキガなやつに消臭剤渡して反省を促す


 もっとあるが弟を悪の道へ進ませるわけにはいかない。

 劇団の運営する動画サイトに投稿し、投げ銭スパチャを貰う。

 学生ではこれが精いっぱい。

 近所じゃ強盗、パパ活、おやじ狩りに万引き。世界はせいぎに溢れてる。

 ココは地獄かもしれねえな。



 目を離した隙に弟が俺のアカウントで発言をしていた。

 ”僕が偽善者の泉に囚われた人間全員を解放します。悪い子でしょ?”


 悪いことをすれば利益が出る世界でも、劇団に逆らうことは禁忌だ。

 ましてや書き込んだのは弟だ。このままでは彼が連行されてしまう。

 考えるんだ。弟を救う方法を・・・・。





 そうか!!

 結論が出たと同時に劇団のスタッフ2名が家に侵入。

 弟を拉致されそうになったので叫ぶ。

 「あの書き込みをしたのは俺だ!!」

 その言葉を聞いて、彼らは俺の部屋のベッド下から本を探し出し朗読。

 俺の作った美少女プラモをローアングルで見たりな。自由すぎる!!

 「気が変わった。君の罪状は”弟を庇ったこと”

 ついでにすけべな本とプラモは証拠品として没収!

 さあ!吐くんだ!!もっといっぱいあるだろ!!こういうの!!!」

 「論点変わってませんか!!!!!!!!」


 劇団スタッフはスケベらしいな。

 旧黒スク水vs白スクvs競泳水着の本を熟読している。

 世界が違えば語り合える仲間になってたかもな。


 「劇団に逆らった時点で死刑だが、貢物が良かったので泉行きだ。

 生きている分ありがたいと思え!」


 命は繋がった。因みに彼らは旧黒スク派らしく俺と熱い握手を交わした。



 俺が磔にされる。首に”弟を庇った罪”と書かれたプレートを掛けられて。

 偽善者の泉は見せしめだ。

 一般市民より低い階層を作り、日常生活のストレスをぶつけるはけ口。

 老若男女問わず財布の小銭を俺にぶつける。

 泉と地上の距離は10m。

 空気抵抗である程度減速するが、顔に当たるとやっぱり痛い。


 しばらくして弟が現れる。よかった、無事だった。

 手にはペットボトル貯金箱。

 彼さえ無事ならいくらでも俺にぶつけろ!

 篝火かがりびとして一生守ってやる!!

 しかし現実はプリンのように甘くなかった。


 弟が立ち止まるとニィと笑い、泉の中へ入る。

 やがて俺の前に立ちハサミでペットボトルを切り出した。


 「兄さん、どうして僕を庇ったの?それは正義あくなんだよ?

 あの後、アカウント乗っ取りっていう悪いことを宣言できたのに」

 「そりゃお前にはまっとうに生きてほしかったから」

 「まっとう?この世界では正義あくが正しいんだよ?だからさぁ!!」


 ペットボトルを逆さにして俺の頭上にコインの雨を降らせる弟。

 じゃらじゃらと、俺達が必死になって集めた小銭が落ちていく。

 今までの努力って何だったんだろうな?


 「世の中は強いやつが勝つんだ。

 こんな小銭じゃ買えない拳銃もその辺の店で万引きした。

 銃で脅してナイフも手に入れたんだ。

 もう兄さんの偽善者ごっこはいいや。

 始めからこうすればよかった!!!

 ぎゃははっはっはははっはっははははは!!」


 弟は壊れた。違う、この世界では俺のほうが壊れているんだ。

 愛すべきものからの叛逆。


 「兄さんだけなんだ。この世界に順応できないのは。

 何が正しいかなんて関係がない。ただの詭弁だ」

 「何を言ってるんだ!!家族が殺されて、俺のたった1人の!!」

 「血の繋がりって言いたいの?それが何?

 人間という種族単位ならその辺の人も同じ仲間だよ?」

 「そうだけれど!!」

 「兄さんを始めとした人間は考え方が古いんだ。

 いくら奇麗事を並べても、仲良しこよしではいられない。

 例えば受験とか。運動会ではお手々繋いで全員1等賞とかやっておいて、

 テストの点は順位付けをする。

 そして志望校に合格したなら敗者を蹴落としたことになる。

 これっておかしいよね?

 全員が幸せであるべきと理想を掲げるのに、弱者を作るなんて」

 「それは・・・・」

 「言い返せないよね?旧社会は欠陥システムなんだ。

 人類の数が減れば争い自体も減る。

 弱いものは淘汰され、強者は余りあるリソースを持つ。

 これが世界のあるべき姿なんだ!!」


 もうだめだ。弟の目がイってやがる。

 いや、もう他人か。俺じゃ庇いきれない。


 「じゃ、僕はもう行くから。何か言いたいことはある?」

 「その生き方、絶対後悔するぞ?」

 

 彼は無言で背を向け、ばしゃばしゃと音を立てて泉から出ていく。

 そして地上に上がった瞬間銃で撃たれて死んだ。

 市民たちは弟だったものから金目の物や服を略奪し、

 蹴り、踏み、引っぱたいた。

 ちょっと楽しそうと思えた。


 チカラで支配する世界の欠点は自分が奪われる立場にあることを忘れるんだ。

 自分だけがすべて正しいって思いこんで、もっと強いやつに狩られる。

 そうならないために俺が抑止力になってたんだけどな。

 もうどうでもいいか。 



 見せしめの時間が終わり夜19時。

 泉から解放さればしゃばしゃ音を立て進む。

 地上への1歩を踏み出した時、足にむにゅっとした感覚があった。

 多分ウ〇コでも踏んだんだろと自分を納得させる。



 俺の部屋は例の劇団スタッフが占拠していた。

 家全体が荒らされていたが金目の物目的でなくスケベな物目当て。

 はぁ~。とため息をつき彼らに話しかける。

 「なんとなくこの世界のシステムが分かりましたよ。

 尖った思想の持主を炙り出すための試験でしょ?」

 「正解だ。他者と協調しない人種は足枷だからな。

 何でも自由にすれば自然とそういった思想家は溢れてくる」

 「盛大な社会実験だな。失敗したらどうする気だったんだ?」

 「どうもしない。ただ君のように頭の切れる人材が現れただけで僥倖ぎょうこうだ」

 「白スクの写真を肌色で塗りながら言っても説得力皆無ですが!!」

 「これは白スク水用の儀式だ。ヌレスケにすることで破壊力が増す」

 「なるほど、流石大人だ!じゃなくて!!!」

 「旧社会は旧黒スクだ。全てを真実を遮断する漆黒の色。

 今の世界は白スク。人類共通のフィルターによって本質が見える。

 そして競泳水着は徹底された合理社会だ」

 「分かりやすい!!」


 「流石だな!同志よ!!

 古来より黒スク派と白スク派はバチバチに争い続けていた。

 反対派閥を滅ぼす勢いで!!だがそれでは世界は平和にならない!!

 故に我々は新たな道を模索した。それが競泳水着だ」

 「だが競泳水着派も時間が経てば反対勢力ぐらい生まれるだろ?」

 「少なくとも我々が生きている間はない。

 一般市民はそれに気づけもしない。いや気が付こうともしない」

 「悲しいな。あんたらの理想なんて気が付かず、

 踊らされてる人類のが多いんだろ?種明かししたらどうだ?」

 「したところで混乱が生まれるだけだ。

 私たちはあくまで舞台装置。人類永遠の発展のためのな」


 「聞きたいことは全部聞いたし、俺を処刑しろよ。

 こんな世界で生きていく必要もないし」

 「君には我々と一緒に世界を正していく義務がある。

 協力してくれると助かる」

 「義務ねぇ。協力するメリットないだろ」

 「人類解放劇団に入ると家宅捜索の際、好き勝手出来るぞ?

 例えば女の子のスク水を没収したりな」ニィ

 「その話し乗ったああああああああああああああああ」


 拳を握り締めッ!天高くつきだすッ!!圧倒的ドーパミン!!!!

 アドレナリンのマグマ!!!


 「まさかスク水のためだけに劇団は世界征服を?」

 「ああ、その通りだ!!!」

 「変態じゃねえか!!!」

 「だってそのころフリマアプリなかったし!」

 「親戚に土下座して譲ってもらえよ!!!!!!!!!!」



 火遊びってのは楽しいけどな。ほどほどにしとけってことだ。

 その辺でくたばってる奴みたいにハメを外すと大変だぞ?

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