十通目 1月5日

親愛なるオイレ



改めてお義母さまに死ぬほど怒られました。まだ耳がキーンてしてます。


とりあえず暗殺を企てたことは不問です。

あなたが一人で塔を抜け出して戻って来て、お義母さまの護衛、小隊相手に大立ち回りを披露しただけ。演習扱いだそうで。

幸い死者はおらず、怪我もあなたが一番酷かったみたいです。

あなたを怪我させたの、ほぼお義母さまお一人だったように思いますけど。


「一人でよくあそこまで戦った。一対多数で精鋭をぼこぼこにしたこと、誉めてやる。やはり強いな」とのことです。

護衛の皆さまは全員鍛え直し、とも仰っていました。


実は、私も誉めていただきました。

皇帝の座を欲し、お義母さまの暗殺を企てたこと。その意気や良し、だそうです。


意気は良いけれど、碌な根回しもなく詰めも甘く杜撰な計画は問題外。

あなたに任せて自ら動かなかったことは論外。

皇帝の座を狙うのならば、もっとよく考え計画を練り然るべき時に完璧な計画を一部の隙もなく実行すべきだと、言われました。

確かにお義母さまの仰る通りです。行き当たりばったり過ぎでしたし、深く反省しました。

次はきちんと計画を練り、自分で実行したいと思います。


それでね、お義母さまと暗殺の計画を立ててみたのです。

さすが皇太后、摂政として辣腕を振るうお方です。一部の隙も無い見事な暗殺計画ができ上がりました。

これなら間違いなく、皇太后の首を獲り、私が皇帝になれるでしょう。

計画を立てたのが半分くらい、いえ、ほとんどお義母さまご本人なので、そのままは使えませんが。


でも、次は必ず。

お義母さまも「受けて立つ」と仰ってくださいました。


お父さまを亡くし、私が六歳で帝都を離れ辺境の地に赴き、幽閉同然であの塔に住むようになって十年です。

皇帝であるお父さまの亡き後、その混乱を最低限にするため、前妻の娘である私が祀り上げられるようなことが無いよう、お義母さまが心を砕いたことは重々承知しています。

あなたを傍につけてくれたことも、感謝してもしきれません。


それでも、お父さまの後を継ぐのは私であるべきなのです。

私はレーヴェ、獅子という意味の名をお父様に付けていただきました。王を意味する名でもあります。

そして、あなたを日陰に置いておきたくはなかったから、と言ったらあなたはどう思いますか。迷惑だと、思うでしょうか。


もう二度とやって欲しくはありませんが、塔に辿り着いたあなたが、護衛たちを薙ぎ倒すその姿。私のために駆けつけてくれたこと、すごく嬉しかったです。

まるで、王子さまみたいでした。

でも怪我が心配なので、本当にもう二度とやらないでください。


あなたがこうして私の元に戻って来て、本当によかった。

梟に運んでもらうのもいいけれど、こうして眠るあなたの枕元に自分で手紙を置く方が、ずっと良い。どうせあなたは狸寝入りでしょうけど。


どうか、見ていてください。私がこの国の皇帝になるのを。

そしてオイレ、夜を生きる梟としてではなく、あなたは私と共に陽の当たる場所に立ってください。

私を支えて、助けてくださいね。これは命令です。


オイレ、これからもどうか、ずっと傍に。



あなたのレーヴェより 惜しみない愛を込めて



追伸 そういえば、髪飾りをまだ受け取っていません。明日のヴォルフの戴冠式で着けたいです。


追伸の追伸 キャンディアップルの約束も忘れてません。とても楽しみにしています。

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