第110話 決戦(1)


 サイロス達を追って通路を進むと、いくつかの部屋が並んでいた。そして通路の先は行き止まりだった。

 pingスキルでサイロスの位置を示す赤いもやは、下へと進んでいた。


「レイサルさん、サイロス達はあっちの方向に移動しています。何処に向かっているかわかりますか?」


 俺は右前方の床を指さす。


「ここから下へ降りたとすると……隠し通路を使ったのでしょう。こちらです」


 俺達は来た道を少し戻り途中にあった部屋に入る。部屋の壁に飾ってある全身が映る姿鏡が、隠し通路の扉になっていた。

 レイサルさんの話では、この城には王が立ち寄る可能性が高い場所には、脱出用の隠し通路が用意されているらしい。それだけ恨みを買っている自覚はあるということか?


 途中で分かれ道がいくつもあった。この迷路のような隠し通路も、レイサルさんのおかげでスムーズに進むことが出来た。


「あっ……ちょっと待ってください。ヤツらのいる場所が、さっきから変わっていない。もしかすると、ヤツらは目的地についたのかもしれないですね。けど、ティターニアの外というよりか、かなり地下へ降りた場所にいるようです」


 俺の言葉を聞いたレイサルさんは神妙な顔つきになり、何か考えているようだった。


「…………それは私も知らない場所ですね。もしかすると魔力炉の保管場所とか……何にせよ警戒した方がよいでしょう」


 たしかに逃げるのが目的としたら地下深くへ行くなんておかしいよな。核シェルターのように、何かが過ぎ去るまで避難しているなんてのも、このシチュエーションではないだろう。

 そうなると……罠ってことだよな。しかもあのハイエルフの長老達の罠だ。ろくでもないに違いない。


 俺達はそこからは移動速度を落とし、慎重に進んだ。そして扉の前までたどり着いた。pingスキルの赤い靄は、この扉の先に漂っている。ヤツらは間違いなくこの扉の先にいる。

 ミアには少し離れてもらい、俺はいつでもバリアを展開できるようにして扉を開く。


「うっ……」


 開いた扉の先は、巨大な空洞になっていた。しかも、その奥からは目視できるほどの高濃度の瘴気が漂っていた。

 このまま入るのを躊躇ためらってしまう程の濃さだった。


「レイサルさん。この先はもの凄い瘴気が充満しています。エルフ族って、瘴気に強い種族だったりします?」


 この先にサイロスと長老達がいるハズなので、気になったことをレイサルさんに聞いてみた。


「いいえ、エルフ族も他の種族と同じぐらいの耐性しかないですよ。サイロス達はたぶんこうやったのでしょう」


 そう言うと、レイサルさんは何やら呪文らしきものを唱えた。すると俺達三人の身体を薄い膜のようなものが包んだ。


「今、結界で瘴気を通さないようにしました。ただし、付与型の結界なのでそう長くは持ちません。せいぜい1時間ぐらいが限界ですので注意してください」


 レイサルさんの話だと、この結界で防げるのは空気中に漂う瘴気ぐらいで、瘴気が染みこんだ石を投げた場合、結界が破壊されることはないが石は簡単に貫通してしまうらしい。

 付与型で更に特定の成分だけを防ぐ結界となると、このぐらいの強度が限界という話だった。まあ、もともと結界を防御バフとして使うつもりはなかったので、俺とミアには問題ない。


 俺達は地下空洞に足を踏み入れた。空洞の壁面は壁ではなく厚い岩盤が広がっていた。周辺の石には蛍石も混じっているようで、ぼんやりと明るかった。

 以前、『改ざん』スキルで光量を強化した蛍石を、この地下空洞の各方向に向かって俺は投げた。

 薄暗かった洞内が明るくなった。すると、正面方向にある遠くの壁岩にの影が伸びる。


「——早かったな。いや、探す手間が省けたと言うべきか」


 サイロスの声が洞内に響く。

 そして、その横にはサイロスよりも二回り大きい人族の男が立っていた。


 アイツは誰だ? そう思いミアとレイサルさんに視線を送ると、二人とも首を横に振った。

 その人族の男を見れば見るほど、何か違和感のようなものを感じる。

 男の金色の瞳は虚ろで、表情はのっぺりとし生きた人間のような感情が見当たらなかった。


 そのとき、突然俺の左手が波を打つようにボコボコと皮膚の内側が揺れ動いた。

 レイサルさんはその光景にギョッとしていたが、俺の左手はミムラとの戦闘で喪失しており、今は婆さんが業火で作った義手で出来ている。

 つまり、この現象が示すところは婆さんに何かあったということだ。


「婆さん、どうした?」


「————あぁ……やっと……あなたを見つけた。500年もの間、あなたを探し続けたのよ。ずっと……ずっと」


 今、って言ったのか!?

 もしかして……あの男の人って、婆さんの親しい人か?


 婆さんは魔王が持つ『魔刀断罪だんざい』の一部が俺の身体に移ったものだ。

 そして、『魔刀断罪』は初代魔王が作ったアーティファクトだ。


 え? え? どういうこと?


「クックククク。いかに貴様らが強かろうが、コイツには勝てまい。かつて最強と謳われた魔族を器にしたワシらの最高傑作の魔道具じゃ!」


 白帯の長老ヴァリオンがそう言うと、もう一人の長老サビアが手に持つ赤い球に魔力を注ぎだした。


 かつて最強と謳われた魔族?

 まさかとは思うが、あの人族に見える男は…………初代魔王なんてことはないよな?


 そんな混乱している中、俺はかすかな揺れを感じた。


 前を向くと魔族の男の身体がカタカタと震えだしていた。身体から蒸気のように吹き上げる赤黒いオーラが全身を包み、震えは次第に大きくなり洞内もグラグラと揺れ始めた。


 天井から吊り下がるつららのような石が落下してくるが、俺達は『心の壁』バリアで防いだ。

 サイロス達も結界を張って落下してくる石を防いでいたが、サイロスは不安と動揺の混じったような顔をしていた。


「……お、おい。本当に……大丈夫なのであろうな?」


「サイロス王よ。心配は無用。あの震えは魔力炉により蓄積したエネルギーをアレに流した影響じゃ。さぁ、この殺戮兵器の性能をご覧あれ」


 

 ————ピタッと揺れが収まり、辺りに静寂が降りる。


 魔族の男の身体から噴き出していた赤黒いオーラも止まっていた。

 そして、金色の瞳は妖しく光り俺の方を向く。なんだあの輝きは……魔族の瞳って赤いハズだよな……吸い込まれ——


「タクミっ!」


 へ? ミアの声が聞こえた瞬間、魔族の男は俺の眼前まで迫り、右手を振り下ろしていた。



――――――――――――――――

後書き失礼します!


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【次回投稿について】

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今週は忙しく時間が取れなかった為、お休みさせていただきます。

次の投稿は11/12(日)19:11予定とさせていただきます。


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スキルの素を3つ選べって言うけど、早いもの勝ちで余りモノしか残っていませんでした。※『スキル』と『スキルの素』の違いに気づいた俺は異世界でチートスキルを生み出してバカにした奴らを見返します。 ヒゲ抜き地蔵 @tady16

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