第109話 潜入(2)
——レイサルさんの案内で、敵に見つからないように城内を進む。
「あそこの部屋が司令室です」
レイサルさんの指の先を見ると、部屋の扉の前に兵士が二人立っていた。
「では、俺とミアで番兵を倒し部屋に突入します。レイサルさんは、後から入って扉を結界で封鎖してもらえますか?」
「わかりました。魔力炉を使った結界ほどは無理ですが、私も結界には自信がありますのでお任せ下さい」
俺とミアは腰につけていたライトセーバーを手に取り光刃を伸ばす。そして、お互い顔を見合わせてコクリと頷いた。
レイサルさんの「いきましょう」という合図にあわせ、俺達は部屋を目指して駆けだした。
「な、何者だ! 貴様らとま——」
「ぐはっ……」
二人の番兵を斬り伏せ、部屋の中へと三人でなだれ込む。
部屋の中には20人ぐらいのエルフ達が居た。サイロス達はどこにいる?
ん——いた! サイロスと神託の間で見た二人の長老も部屋の中にいた。
「き、貴様らどうしてここにいる!?」
「何をやっているのだエリオンは!」
ヤツらは何か叫んでいたが、俺はそれを無視する。会話は捕らえた後にすればいい。相手の虚をついた絶好の機会を逃すつもりはない。
後方はレイサルさんに任せて、俺はそのままの勢いで距離を詰める。
あと4メートル。俺はサイロスの足めがけて、ライトセーバーにSPを込め光刃をさらに伸ばした。
よし! これで足はもらった!
ガキィィィィン
光刃があと少しでサイロスの足に届くと思った瞬間、王を護る兵士の一人に剣で光刃を弾かれた。
完全に虚をついたと思ったのに……これを防ぐとは。さすがは王の護衛というところか。
「王よ。ここは我らに任せ退避してください」
見ただけで強者とわかる雰囲気を持つ者達が、俺とサイロスの間を防ぐように集まってくる。
「サイロス王よ。この者の言うとおり、ここは近衛兵達に任せワシに付いてくるのだ」
「何を言っておる。ヴァリオンよ。奇襲には驚いたが、体勢させ整えてしまえばこちらが有利。ヤツらはたったの三人だぞ。返り討ちにしてしまえばよかろう」
白帯をした長老はヴァリオンという名前らしい。ヴァリオンは目を俺に向けたまま、教師が生徒を諭すようにサイロスに向かって話しかける。
「どうやらエリオンは、こやつらにやられたらしい。サビアが神託の間を確認したら遺体が転がっていたようじゃ。それにワシの推測じゃが、魔力炉を破壊したのもこやつらじゃな」
「……ば、バカな。全ての元凶はこの異世界人だったというのか」
「故に油断ならん。ワシに考えがある。こやつらを地獄の落としたいのなら、ワシに付いてくるのじゃ」
長老ヴァリオンとサイロスが何やら話しているか声が小さくて聞き取れなかったが、サイロスの俺を見る目がどんどん険しくなっていく。何を吹き込んだのだ。あの爺さんは。
サイロスはキッと鋭く俺を睨んだ後、近衛兵に向かって指示を出した。
「レイサルだけは生け捕りにしろ! 人間どもは殺すのだ!」
そう言うと、サイロスと二人の長老は部屋の奥にある通路へ向かって歩き出す。
「逃がすかよ!」
俺は移動先をサイロスに設定したスキル『ルート』を左手に発動し、ライトセーバーを握ったまま右手を左手で叩く。すると俺の右手は身体ごとサイロスに向かって高速で移動した。
人が全力で走るには予備動作もあれば、加速するまでの距離や時間が必要だ。
俺の『ルート』スキルは触れたモノの行き先を切り替える。つまり、今の俺は走り出す素振りも見せず、左手へと振り抜いた右手の速度でサイロスへ向かって移動している。
敵もノーモーションでこんな速度で突っ込んでくるとは思っていなかったのだろう。陣形を整えようとしていた近衛兵にできていた隙間を俺は抜けることに成功した。
「もらった——」
サイロスまで、あと5メートルぐらいの距離。通路の入り口まで迫ったとき、バァィィィィンという音とともに俺は見えない壁に激突し弾き飛ばされた。
「イテテテテ……マジかよ。用意周到過ぎるだろ……」
もろに顔面を打った。こんな痛みを感じたのはいつ依頼だろうか。いつも大抵のことは心の壁バリアで防ぐからな。けど、こういう認識できない罠や攻撃は俺とミアにとって相性が悪い。心の壁バリアを発動するには、自分で危険を認識する必要があるからだ。
俺は痛みを堪えながらも、サイロス達の姿を目で追った。ヤツらはそのまま部屋の奥にある通路へ入っていく。ただ緑帯のサビアと呼ばれる長老だけが立ち止まっていた。目を大きく開き何かに驚いているようだった。そしてニヤリと笑った後、サイロス達を追うように通路へと入っていった。
なんだ……アイツ。何かすごく引っかかる。
その理由を考えようとしたとき、近衛兵は今がチャンスと言わんばかりに俺との距離を詰めてきた。
クソッ。とりあえず考えるのは後だ。まずはこいつらを片付けないとな。
「ハッハハハ、ただでさえ少人数なのに別れたぞ。まずはあいつから殺せ!」
「油断するな! あの光る武器は伸びるぞ!」
「腕力もそこそこあるぞ。見た目に騙されるな」
なにコレ。こいつら強そうなんだけど……
◇
——これで最後の一人。
「ふぅ……やっと終わった。さすがラスボスの前だけあるな。一人一人が結構強かった」
「……つ、疲れたよ。連携も取れていたし、剣術っていうの? 全然動きに無駄がないんだもん。一人倒すだけでも大変だった」
俺達のいる室内には、20人近くのエルフの兵士が切り伏せられていた。
特異なことはせず、ひとりひとりが地味に手堅い戦闘をするため、危うく長期戦になるところだった。長期戦はSPの問題があり、俺達が不利になるから避けたかったが、この相手と人数では止むなしかと諦めたときミアがやってくれた。
この場に、スキル『現実絵画』で描いた怒った状態のクズハを出現させたのだ。効果はてきめんだった。あの禍々しいオーラに当てられたエルフ兵達は、軽い恐慌状態になり陣形も大きく崩れた。
その隙を俺達が見逃すはずも無く、そこからは一方的な展開だった。
「それにしても、よくあの状況で『
「ふっふふふふ。事前にざくろ石に絵を込めておいたんだ。クーちゃんが怒ると周りのみんなってすごく怯えるけど、私とタクミは何にも感じないから、もしものときに役立つかなって思って。クーちゃんにバレたら怒られそうだけどね」
そう言いミアは笑っていた。
クズハが怒り殺気を出すと、味方の屈強な兵士ですら怯えてしまう。それをこんな形で有効活用するとは……ミア恐ろしい子。
ただ、ミアの位置からは見えなかったんだろうけど、ものすごい形相で怯えているレイサルさんの姿が俺の視野視界に入っていた。クズハを使った『
「さてと、疲れたけどヤツらを追おう。ただ逃走しただけならいいんだけど、もし何か企んでいたらやっかいだ。被害が出る前に阻止しないと」
そして俺は『業火』で通路を塞ぐ結界を破壊した。エルフの兵士が作る結界なら、ライトセーバーの出力を上げれば壊せるんだけど、サイロスや長老が作る結界は『業火』じゃないと壊せないほど強力なのだ。
エルフ領に来てから、どんだけ『業火』を使ってるんだろうか……俺の寿命ってまだ大丈夫だよな?
そんな不安を抱えながら、俺達はサイロスを追いかけるため通路に向かって歩き出した。
――――――――――――――――
後書き失礼します!
ここまで読んでくれて、ありがとうございます。
少しでも気に入って貰えたり、続きが気になる方は
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書く側になってわかったのですが、とても励みになります。
次の投稿は10/29(日)19:11予定とさせていただきます。
これからも、よろしくお願いします!
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