第108話 潜入(1)

「タクミ。これからどうするの?」


「とりあえず全ての魔力炉は止めたから、もう結界は作れないはずだ。これでみんなは大丈夫だろう。けど、結界内で一方的に攻撃されていたから、かなりの被害が出ているかもしれない」


 一呼吸した後、さらに話を続ける。


「エルフ軍の頭さえ抑えてしまえば、早く戦争を終わらせられるはず。ここからなら、守備を固めたサイロスの死角をつける。だから、俺達もこの戦いに参加しようと思うんだ」


「それじゃあ、ククトさんとマルルを生き返らせるのはその後なのね」


「ああ。けど、世界樹の葉だけは今もらっていこう。戦争が終わったときに、世界樹が無事という保証はない」


 ないとは思うけど、自暴自棄になったエルフに世界樹を燃やされたら敵わないからな。

 俺達は世界樹と会話できるコアの前まで移動する。


 さっき話したときに葉をくれるって言っていたから大丈夫だと思うけど、エルフを倒したからやっぱりあげないとか言い出さないよね?

 俺はそんな不安が頭をよぎる中、コアに向かって話しかけた。


「世界樹よ。邪魔が入ったが先ほど話した通りあなたの葉がほしい」


「————魔物を退治するために、おまえたち異世界人をこの世界に連れてきて欲しいと願ったのはエルフだ。その異世界人と戦うことになるとは、なんとも皮肉なこと……。まあ良い。我はおまえ達の争いに興味はない。では、約束通り葉をやろう」


 俺達の目の前に、突如長さ1メートルぐらいの葉が現れた。地球からこの世界に人を転移させるぐらいだ。このぐらい分けもないのだろう。


 俺達はお礼を伝えた後、コアから離れた。

 世界樹の葉はミアに収納してもらう。


「やっと手に入れられたのね……」


 ミアの口から安堵のこもった言葉がこぼれる。


「ああ、ドワーフ領、魔族領、そしてエルフ領。これを手に入れるのに、全ての種族の地を訪れることになった。遠回りのように見えるけど、今思えばこれが最短ルートだった気もする」


 直接ここティターニアに来ても相手にされなかっただろうし、『業火』を覚えていなかったから結界に閉じ込められても脱出できず、永久に捕らわれたままだったかもしれない……おっと、今は感慨にふけっている場合じゃないか。

 

「レイサルさん。これから俺とミアはサイロスを捕らえる。もしかすると倒すことになるかもしれませんが、この戦争を終わらせようと思います。どうされますか?」


 サイロスとレイサルさんは兄弟らしい。最悪、家族に手をかけることになる。このティターニアの地理に詳しいレイサルさんが付いてきてくれるのは心強いか、さすがに俺からお願いすることはできない。


「お気遣いありがとうございます。ですが、ご心配無用ですよ。タクミさんとミアさんをここへ案内するときに、私はこの手で兄であるサイロスを止めると決心しています」


 それを告げるレイサルさんの目は揺らぐことはなかった。

 せめて同じエルフ族であり、兄妹でもある自分が止めるか……そうだな。それがエルフ族やレイサルさんにとって、この先の未来を考えると一番良い道なのかもしれない。

 ミアは少し悲しげな表情をしているが、本人が決めたことだ。俺達はそれを尊重しよう。


「それじゃあ、これからサイロスを追います。とりあえずティターニアへ入ろう」


「ちょっと待って。タクミは王様達がどこにいるかわかるの?」


「いや、知らないよ。だからティターニアに入るんだ」


 レイサルさんが説明を求むとミアの顔を見たが、ミアは首を横に振る。

 俺は気にせず、世界樹を祀る信託の間から出る。そこには一本の通路が遠くまで続いていた。


「タクミさん、この先はティターニア城へと続いています。身を隠す所がないので見つかる可能性が高いですが、別ルートでティターニアの街中を通るよりかは、はるかに邪魔されずに行けるかと」


「さすがに街中は通りたくないですよね。下手すると全てのエルフから襲われかねないし……」


 ズドォーーーーーン。


 そのとき、爆発音が通路の先の方向から聞こえ通路が揺れた。

 この衝撃は……ティターニア城が攻撃された? 誰に? そんなの同盟軍に決まっている。威力を考えるとエンツォかアーサーによる遠距離攻撃だろう。これはチャンスだ。エルフ軍の注意は同盟軍に引きつけられているはず。

 俺は二人へ顔を向けると、同じ考えだったらしくミアとレイサルさんも頷いた。


「今がチャンスだ。走るぞ!」


 俺達は300メートルぐらいある通路を全力で駆け抜けた。



 ◇



 通路の先にあった扉を開くと、そこは廊下になっていた。レイサルさんの話だとティターニア城の2階らしい。

 俺達は隠れるため適当な部屋に入り扉を閉める。


「タクミ。ここからどうするの?」


「ここまで来れば大丈夫だ。今からサイロス達を見つける。だから、ちょっと待っていてくれ。その間にミアとレイサルさんにお願いがある。結界が解除されたから念話が使えるはずだ。みんなに俺達がどう動くか伝えておいてほしい」


 そして俺はスキル『スキャン』を使い、場内にいる者を片っ端からサーチし始めた。




 ————見つけた。


 次に俺はスキル『ping』をサイロスに向けて使う。

 

「わかったぞ。あっちの方向にサイロスがいる。色が薄い。ここからは結構離れているな」


 pingスキルは、対象との距離が色の濃さで表現される。だから、正確な距離はわらかないのだ。


 ん——反応がない? 振り向くと二人の様子が変だった。


「どうした? 何かあったのか?」


「えっ? あっ、ごめんね。念話で確認したらみんな無事だったの。だから、ちょっとホッとしちゃって……まだ気を抜いたらダメだよね。いけない、いけない」


「そういうことか、みんな無事だったんだな。本当に良かった」


 よくぞあの戦況の中、無事でいてくれた。けど、亡くなった兵士の数はかなりに上るだろう……これ以上の死者を出さないためにも早く終わらせないと。

 俺もみんなと話がしたいけど、それは後にしよう。


「あっ、レイサルさん。襲撃された本部の方はどうでしたか?」


「それが…………メルキド王が亡くなったそうです。エンツォの攻撃が間に合い、メルキド王は致命傷を避けられたようですが、敵の武器に毒が塗られていて……解毒が間に合わなかったようです。な、なんということを…………」


 ……マジか。本部が襲撃された後の映像を俺も少し見ていた。メルキド王は負傷したが、敵に追撃されるギリギリのところでエンツォの攻撃が間に合い、敵は殲滅されていた。だから、助かったものと思っていたのだ。


 この戦争に勝利した後、人族で権力争いとか始めないだろうな……

 正直、一度ぐらいしか会ったことがないので、悲しさよりも今後の不安の方が大きい。


 ただ、そんな俺とは違いレイサルさんはすごく狼狽していた。

 人族の王を殺してしまったのだ。この戦いが終わった後、エルフ族はどうなってしまうのか。


 サイロスとレイサルさんは全く対立した存在。俺なんかは全く別種族ぐらいに思っているけど、エルフ族として一括りに考える人も当然いるだろう。早くアイツらを止めないと。レイサルさん達にどんどん罪が押しつけられてしまう。


「わかりました。冷たいかもしれませんが、今は自分達の役目に集中しましょう。これ以上の死者を出さないためにも。ミアもいいね。余計なことを考えて戦えるほど、俺達だって余裕はない」


「そうだよね。今まで以上に気を引き締めないと」


 レイサルさんの表情にも緊張感が戻る。気持ちを切り替えてくれたようだ。


「レイサルさん、あっちの方向にサイロスがいるんですけど、場所って見当がつきますか?」


「あちらの方向には軍事司令室があります。たぶんそこかと。昔と変わっていなければの話ですが」


「そこまで、敵に見つかりづらい道を案内してもらえますか?」


「はい。少し遠回りになりますが付いてきて下さい」



――――――――――――――――

後書き失礼します!


ここまで読んでくれて、ありがとうございます。


少しでも気に入って貰えたり、続きが気になる方は

【★マーク】で評価や【フォロー】して貰えると嬉しいです。

書く側になってわかったのですが、とても励みになります。


次の投稿は10/22(日)19:11予定とさせていただきます。


これからも、よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る