第107話 サイロスの思惑(2)

 結界の外にいるドラゴンと謎の子供の邪魔が入ったが、まあいいだろう。

 魔族どもは結界内にいる限り、どうあがこうが殲滅は時間の問題なのだ。


 それよりも、敵本部へと放った精鋭部隊の『光の矢』だ。もうそろそろ届く頃。指揮官と退路さえ断ってしまえば、この戦の勝利は確定したようなもの。その他のイレギュラーなんぞ取るに足らんのだ。


「サイロス王よ。『光の矢』も敵に届いたようじゃ」


 よし、魔王エンツォもいまだに結界近くにいる。いかにヤツとて間に合うまい。完璧なタイミングだ。


「ハッハハハハ、これで勝負ありだな。いけぇ! ヤツらの首を貫くのだ」


 ティターニア城から伸びる王族専用の脱出通路を使い、同盟軍本部を襲撃。ヤツらは完全に虚を突かれ対応できていない。

 まず転送魔法陣を抑えろ。逃がさんようにな。そうだ。いいぞ。次は敵が退路を断たれ慌てたところを2方向から奇襲。それと同時に薄くて構わんから周囲を包囲し1人たりとも逃がすなよ。


 ヤツらの主戦力は結界の内側だ。そこにいるのはメルキド王とその護衛だけ。いつでも逃げられると思って油断したのをあの世で後悔するといい。


「さすがは我が精鋭部隊。圧倒的ではないか。ヴァリオンよ。これで人族は王を失う。おまえに人族の統治を任せるのもいいかもしれんな。……ん? どうしたのだ?」


「……な、なんということじゃ」


 長老ヴァリオンが目を開き、我が軍が同盟軍を蹂躙しているのとは違う映像を見ていた。目線の先を追うと、そこには禍々しい黒い炎が巨大な一匹の龍のように、凄まじい速度で我が軍へ喰らいつこうと向かってきていた。


「ば、バカな! なんだあれは! どこから放たれているのだ? ……エンツォか!? やつの刀から黒い炎は放たれている……マズいぞ。急いで退避——」


 言い終わる前に、黒い炎は我が兵を呑み込むように突き進む。漆黒の炎に喰われた者は一瞬にして炭と化した。な、なんという、ふざけた威力なのだ。

 しかもなぜだ! まるで知能を持った生き物のように、同盟軍の兵を避け我が兵だけ呑み込まれていく。


「こ、殺せ。とにかくメルキド王だけでも殺すのじゃ!」


 ヴァリオンが唾を口から飛ばしながら叫ぶ。取り乱し叫ぶが無駄だ。ここの声が現地へと届くことはない。それよりも、あの黒炎だ。あれはエンツォの持つ『魔刀断罪』。噂では聞いていたが、あんなバカげた攻撃をあの距離からでも出来るというのか……


「チッ……結局、全員喰われおったか。しかし、同じ攻撃はこの戦ではもう打てまいて。その証拠に今の今まで使わなかったのと、ヤツのあの表情。隠してはいるが、ワシにはわかるぞ。貴様が苦痛の中にいるのがな。それを考えれば、精鋭部隊を失うのは惜しいが、もしろ儲けものとも言える。クックククク」


 ……このクソ爺がっ。我らが同胞だぞ! モノでは無いのだ!

 ゴンヒルリムへ奇襲した異端審問官達。そして『神の光』の精鋭部隊。優秀なエルフの戦士を多く失ってしまった。それに見合うだけの成果を確実に得なければ……


「それで、メルキド王はどうなった!」


「……クッククク。サイロス王よ、我らが矢はちゃんメルキド王の心臓へと届いたようじゃ。まだ生きておるようじゃが、我らの武器にはこの地方でしか取れない猛毒が塗ってある。強力な回復魔法を使える異世界人でもいなければ治せんはずじゃ。だがこの場にはおらんようじゃのう。これで後はアーサーを消せば人族は終わりじゃ」


 エンツォもメルキド王の下へと走っているが、大技の影響か肩で息を切らせている。貴様に手立てがあったとしても間に合うまい。



 ——エンツォが横たわるメルキド王の下にたどり着いたとき、周りにいる護衛の兵士達は両手両膝を地につけ顔を伏していた。

 エンツォは無言で転送魔法陣の石版を収納から取り出し設置し、生き残った者達とメルキド王を次々と転送するのであった。


 

 こちらの損害も大きかったが、メルキド王の命を断てた。そしてエンツォの『魔刀断罪』を実質封じることができたのもでかい。


 そして、ヤツら同盟軍の残りの戦力は、未だに結界に捕らえたまま。


 さぁ、この戦を終わらせるとしよう。

 我が一族に仇なすもの達を一掃してやる。

 そして、我らエルフの統治によりこの世界は安寧の時を迎えるのだ。


「おい、そこの貴様。グリーン将軍に伝えよ。まずはアーサー率いる人族の軍を殲滅した後、全軍で魔族を撃てとな」


 従者の一人が退室した後、ヴァリオンと戦後について話し合う。

 当初の予定では、この時点でゴンヒルリムの転送施設を占拠し、各主要都市への移動手段は確保できているはずだった。

 そのためにも、転送魔法陣を使った交通物流網の構築を見守っていたのだ。


 しかし、転送魔法陣を使ったゴンヒルリムへの奇襲は失敗した。おそらく何かしらの防衛手段を用意しているのだろう。

 こうなったら、シラカミダンジョンへ行きゴンヒルリムを探すしか無いか——


 そのとき、息を切らせた兵士が部屋に駆け込んできた。

 それを見た従者達が、兵士を止めようとしたが私はそれを制止した。


「し、失礼します! 我らがサイロス王に急ぎご報告したいことがございます」


「許す。非礼は気にするな。とにかく正確に事を伝えよ」


「ハッ。グリーン将軍からティターニアを覆う結界が弱まっていると」


 結界が弱まっているだと?


 街を覆う結界は、三機の魔力炉が互いを修復と補助しながら張っている。そして魔力炉は地下深くに封印してあるのだ。直接魔力炉を破壊するにも、結界を通り抜けティターニアに入る必要がある。しかし、それはこの結界を無効化する魔道具を使わない限り不可能だ。


「ヴァリオンとサビアよ。何かわかるか?」


 二人の長老は首を横に振る。

 外から結界を止めるのは不可能だ。ならば内部の犯行か? 裏切り者がいるにしても、魔力炉を止めるのはそう簡単なことではない。まさか、この二人……いや、さすがにそれはありえない。それをする理由がないからな。


「わかった。結界の件はこちらで調査しよう。グリーン将軍には、急ぎヤツらを殲滅せよと伝えておけ」


 伝令が部屋から退出しようとしたとき、遠くで大きな爆発音と共に部屋全体が揺れた。


 地震?


 いや、この揺れは城のどこかで爆発が起きたような感じだ。焦った裏切り者が、表だって動き出したか?


「お、王よ。映像を見るのじゃ! 結界がなくなっておる。そしてあの光……アーサーの遠距離攻撃がこの城に直撃したようじゃ!」


 ——結界が無くなった? 一体何が起きているというのだ…………


――――――――――――――――

後書き失礼します!


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次の投稿は10/15(日)19:11予定とさせていただきます。


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