第106話 サイロスの思惑(1)

 ——時は少し遡り、ティターニア城、玉座の間。


「よし、同盟軍どもを結界内に閉じ込めることができたな。見事な作戦だった。さすがは年の功と言ったところか」


「サイロス王よ。エンツォの若造も我々が新たに魔力炉を用意していたとは、さすがに思っていなかった様子。まあ、ヤツが魔王になる前から仕組まれていたこと。気付ける訳もないのじゃが。くっくくく」

 

 あの魔王エンツォも、老獪な長老達の罠に嵌められたか。数百年間に及ぶ悪意とは恐ろしいものよ。

 これでヤツらはカゴの中の鳥。生殺与奪はこちらの思いのまま。

 ただ……魔王エンツォは取り逃がしたようだな。

 まあよい。二度と我らエルフに逆らえないよう、この機会に同盟軍どもを徹底的に殲滅してくれるわ。


 前線でエルフ軍の指揮をとるグリーン将軍を呼びつけ、これからの作戦について説明する。


「グリーン将軍よ。予想以上の敵兵を結界内に閉じ込めることに成功した。これより作戦を第二段階に移す。そして、予定通り『神の矢』を敵本部へ放て!」


「御意っ!」


「本部に残る司令官クラスを確実に仕留めよ。そしてやつらの退路を断つのだ。ただし、兵士達にゴンヒルリムまでは深追いせぬよう徹底させよ。前回襲撃した際、転送先で兵士達が失踪しているからな」


「はっ! 必ずや成果をあげて参ります!」


 意気揚々と礼をした後、グリーン将軍は各軍に指示を出すため部屋から出て行った。

 その会話を聞いていた、白帯の長老ヴァリオンはあごに手をあてる。


「ほぅ、神の矢とな……王の近衛兵で編成された特殊部隊。このタイミングで使いますかな。確かに早い段階でヤツらの逃走経路転送魔法陣を破壊しておくのはアリですな」


「ああ、やつらの逃走経路と補給路を断つ。収納アイテムに予備の転送魔法陣を持っていたとしても、結界内では使えないからな。結界の外にいるヤツらさえ殲滅してしまえば、この戦争は我々の勝ちだ」


「ですが……最大の問題は結界の外にいるエンツォでしょうな。まあ、そのときはワシがなんとかしてみせよう」


 長老ヴァリオンは何かを思い出しながら不気味に笑っていた。



 その後、私達は玉座の間に設置されている画面で、各地の戦闘を観戦した。


 西側の人族最強のアーサー率いる部隊は、我らの攻撃で確実に削れていたが、北側からの援軍によりギリギリのところで持ち堪えた。しかし、慌てる必要は無い。今の攻撃を継続していれば、いずれSPが切れ瓦解するであろう。アーサーのスキルによる無敵状態が使えない今、恐れるに足らず。ミムラもこの一点においては役に立ったな。


 魔族の方は……こちらも南と東の部隊が合流したようだな。

 それにしても、なんと脳筋な戦い方よ。ざくろ石が地面に届く前に迎撃して防ぐとは。

 グリーン将軍もわかっているようだな。1回の攻撃に使うざくろ石を少なくし、相手のSPを削りざくろ石を温存しておく。うむ、魔族どもにこれ以上の策は無さそうだ。


「サイロス王よ。もはや決着は時間の問題。この後はどうされるおつもりですかな?」


 予想通りの展開で、ヴァリオンの表情にも余裕の笑みが見えた。


「うむ……まずは魔族の確保だな。流刑の地に再度魔力炉を構築し、そこで飼うとしよう。もちろん、魔王の血を引く者達は全て処刑……いや待てよ。ヤツらを使えば更に性能が高い魔力炉が作れるかもしれぬ。その点は考慮する必要があるな……」


「人族はどうされる?」


「異世界人の受け入れ口が必要だ。今までとおり冒険者ギルドを使って我らの支配下におけばよかろう。新たな王は、こちらの傀儡となりそうな人物を送り込めばよい。ドワーフ族、ヤツらの技術力は危険だ。将来的に我らの脅威になりえるからな。ゴンヒルリムを奪った後、一人残らず皆殺しが妥当か……」


「それを聞いて安心したのぉ。ワシらが其方を後継者に選んだのは間違いではなかった」


 クックククク。全てが片付いたら貴様らも用済みだ。王の私を思い通りに操っているつもりであろうが、逆に利用されているのは貴様らなのだ。

 この争いが終わったら、私とレイサルの2人が世界を安寧へと導く。争いに火種は私が全て取り除く。その後はレイサル、おまえが我らエルフを統治し平和に暮らせる世の中を作るのだ。今は私のやり方に反対しているが、おまえならいつかは理解できるはずだ……


 ◇


 ——結界内の戦闘もそろそろ変化がありそうだ。同盟軍どもの防衛ラインが徐々に下がりだした。それはつまりSP切れを意味している。


「そろそろ終焉のようですのぉ。最初にSP切れになるのは魔族側のようじゃ。……後方のいる若い魔族400人ぐらいいれば、家畜としては結構ですかな?」


「ああ。それだけいれば十分だろう。おい、そこの者。念のためグリーン将軍に伝令を出せ。絶対に絶滅させるな。若めの男女を400人ほど捕虜にせよとな」


 さてと、神の矢はまだ届いていないようだな。レイサルもこの戦いを見て、諦めてくれれば良いのだが……



 いかんいかん。少し思考に沈んでしまった。

 ん? どうした。2人の長老が口をぽかんと開いたまま、画面を見ながら固まっている。

 あそこは魔族のところか。何が起きたというのだ?


「なっ、なんだあの巨大な結界のようなものは? 魔族があんな芸当できるハズがない。誰か説明せよ!」


「さ、サイロス王よ。あれは我らの攻撃が魔族に降り注ぐタイミングで、突如出現したのじゃ。あの結界のようなものは……我々エルフの結界とは違う。そして魔族の魔法とも違う。異世界人のスキルなのかもしれんが……けど、ワシには魔物のスキルのように見えるのじゃ……」


 魔物だと? まさか、転送魔法陣で送り込んできたというのか? しかし、あの巨大な結界はそう簡単には張れないバス。そんな強力な魔物、どこにも見えんぞ。

 映る戦場を食い入るように見る。そして、何か異物のようなものを見つけた。


「なんかあそこにいるぞ。長老サビアよ。魔族の前線に異世界人が着るような服が見える。そこを拡大してくれ」


 緑帯の長老サビアは、手に持つ装置を操作し魔族の前線を映す映像を拡大した。


「こ、子供だと!? しかも頭に耳が生えているぞ! ヤツは何者だ?」


 その問いに応える者は誰もいなかった。…………獣人? まさかこのタイミングで、我らの知らぬ種族が現れたのか?

 それに何なのだ。あのバカげた結界の強度と範囲は。個人で扱える魔法の限界を軽く超えているぞ……


「サイロス王よ。あの娘っ子だけではない。魔族どもの後方……結界の外にドラゴンまで来ておる」


「ドラゴンだと? ……もしや、あの子供は魔物が化けているのか!?」


――――――――――――――――

後書き失礼します!


ここまで読んでくれて、ありがとうございます。


少しでも気に入って貰えたり、続きが気になる方は

【★マーク】で評価や【フォロー】して貰えると嬉しいです。

書く側になってわかったのですが、とても励みになります。


【次回投稿日について】

来週は週末含めて時間が取れないため、お休みになります。

次の投稿は10/8(日)19:11予定とさせていただきます。


これからも、よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る