第105話 エルフの逆襲(2)
「カルラ様、もっと後方へお下がりください。ここは危険です」
「そうじゃゲイルの言うとおりじゃぞ、お嬢。危ないから後ろにひっこんどれ!」
「うるさいわよ。2人とも。私が後ろに下がったら、誰がアイツらの攻撃を打ち落とすのよ! というか、遠距離魔法が使えないあんた達は邪魔だから下がってなさい」
ティターニアの東と南に配置していた魔族軍を、中間地点で合流させることはできた。合流させた理由は簡単。エルフ軍の遠距離攻撃を防げる人員が少ないから。
「カルラさま~、遠距離魔法使えるヤツをかき集めてきましたぁ」
「ありがとう。それじゃあ、5人一組になって。順番になって迎撃するわよ。自分達の順番になったらすぐに魔法を打てるよう準備しておいて!」
もう、どうなっているのよ。使えないのが多すぎるわ。遠距離魔法使えるのが50人程度しかいないってどういうことよ!
遠距離魔法が使えない魔族がここまで多いとは……バフや近距離用の魔法ばかりとか、どれだけ脳筋なのよ。アレッサンドロはわかるけど、ゲイルまで遠距離魔法が使えないとは驚きよ。あとでお父様に言って鍛えてもらうしかないわね。
相手のざくろ石が結界を通り抜けるタイミングに合わせて、こちらから火魔法で攻撃しても無駄のようね。どういう仕組みかわからないけど、こっちの攻撃だけ綺麗に防がれている。
けど、このままだとマズいわ。SPが尽きるのも時間の問題。もう、こんなときにタクミとお父様に念話が通じないし。
——あれからどのぐらい経ったのかしら。そろそろSPがマズいことになってきたわ。
「お嬢。こうなったら突っ込むしかないなぁ。ワシらにまかせろ。絶対にあの結界を破壊してやる!」
「アレッサンドロ……それなら、内壁の結界じゃなくて、外壁側の結界を破壊してきて。さっき試していたわよね? そこが破壊できなければ、内壁の結界も壊せないわ」
「…………」
やっぱり無理なんじゃない。
「カルラ様、もう全員SPが尽きました! ど、どうしましょう」
遠距離魔法を得意とする兵士達が悲鳴のような声をあげる。
「お嬢、ここからはワシらの出番じゃ。後ろでゆっくり休んでいてくれぃ。野郎ども、壁じゃ。壁を作るぞぉぉぉ!」
「いやいや、何を言っているのよ。死体の山を作るだけ——」
ズドォォォン!
「ええい、ゲイル。お嬢を連れて後ろに下がれ。ここからは年寄り連中の見せ場じゃからな。若者はひっこんでおれ」
ゲイルが私を無理矢理抱えた。
「ちょ、ちょっとゲイル、何しているのよ! さっさと下ろしなさい!」
私の命令を無視してゲイルが後方へ走ろうとしたとき、ティターニア側から大量のざくろ石がこちらに射出された。な……なんて量なの。今までの2倍以上あるじゃない……
「くそっ! こちらの迎撃が止む、このタイミングを待っていたのか……」
大量のざくろ石が割れた瞬間、石に込められていた火魔法や風魔法が発動し巨大な炎の壁が広域を包んだ——
…………どうして…………生きてる?
それによく考えるとおかしい。ざくろ石は地面にぶつかる前に空中で破裂した。
巨大な炎の壁が消えたあたりをよく見てみると、空気が揺らいでいた。もしかして……結界? 一体誰が?
オオオォォォォォ!
ワァァァァァァァァ!
後ろから歓声があがる。振り向いた先には金髪の髪をなびかせた巫女服の姿が見えた。
散歩でもするかのように、愛嬌ある笑顔のままこちらに向かってちょこちょこと走ってくる。
「クズハ! クズハ! 助けに来てくれたのね!」
……あれ、どうしたのかしら、最後に見たときよりも幼くなったように見えるわね。
「カルラっち、無事でようござりんした。リドが心配していたえ」
「えっ! リドも来ているの!?」
「本当は待機してなきゃいけねえのに、リドがカルラっちが危険だって言うこときかなくて。だからここに来んしたよ」
外壁の結界の外にリドが見えた。
リドありがとう……本当にいつも助けてもらってばかりよね……
「あと、エンツォから伝言でありんす。タクミが結界を解除するため動いている。だから諦めるな。それまで耐え抜け。だそうでありんす」
やっぱりだ。タクミとミアが動いてくれている。それなら私達がとる行動は1つだけ。
「みんな聞いたわね! タクミ達がなんとかしてくれるまで、私達は耐え抜けばいいだけよ。リドもクズハもいるのよ。死人を出すことは許さないわ。全員いいわね!」
カルラに応える戦士達の咆哮が周囲から上がる。
◇
「えーと。こんな感じかな。よし、早速検証してみるか」
「タクミ。出来たの?」
「うーん。たぶん大丈夫と思う。後は実際にやってみないとわからないな」
俺はそう言うと、ティターニアの結界に手が届く位置で座る。
当初はランサムウェアのように強制的に暗号化して封印するスキルを考えていたけど、これは言うなれば『改ざん』スキルの遠距離攻撃版みたいなものだ。直接魔力炉に触れることができないので、俺のスキル素『接触』の効果が薄まる。だから、難しいという結論に至った。
それで次に考えたのは、封印ではなくスキルを破壊してしまう。もう、完全にクラッキング目的にコンピュータウイルスだ。これならスキルの素『断罪』が使える。過去に死神ミムラのスキルを喰った実績があるからいけるだろう。今回は『断罪』『文字』『変更』とちょびっと『接触』のスキルの素を混ぜて作るイメージだ。
俺は手で結界に触れた。そして、スキル『スキャン』を使う。魔力炉は結界と繋がっているから追える。これは流刑の地の魔力炉で実験済みだ。
よし見つけた。魔力炉は3つだった。次はコンピュータウィルスをイメージする。魔力炉の『変換』スキルだけを破壊する。誤って魔力炉を破壊しないようにしないと、大爆発を起こして仲間を危険な目にあわせてしまうからな。
結界をネットワークに見たてて、魔力炉に向けて『ウイルス』をイメージしたプチ『業火』を送る…………頼む……成功してくれ。
おっ、なんか成功した感覚が……俺の身体が淡く光った。
そして、目の前の結界が見るからに薄くなったのがわかった。これって成功したよな!?
ステータスを見ると『
おい、ちょっと待て。なぜ俺の名前が付いている!?
「タクミさん、結界が弱まりました。そしてこの画面で見る限り爆発を起きていません。成功です!」
「タクミできたのね! それで、なんてスキル名なの?」
えっ、それ聞いちゃうの? ………普段、新しいスキルを作っても名前なんて気にしないのに。何を察した?
「……いや、なんだ……先に言っておくけど、俺が名前を付けたわけじゃないからな。勝手に付いてたんだ。スキル名は…………『タクミウイルス』らしい」
「えっ? なんかタクミウイルスって聞こえたけど……」
「……タクミウイルス。これがスキル名だ。けど、確かコンピュータウィルスの名前って、作成者の名前を使ってはいけないってルールがあったような気がするんだ。理由は売名行為みたいなことができるからだったと思う。それなのに、俺の名前をスキル名に付けられた。意味がわからない」
ミアはそれを聞いて少し考えた後、何か閃いたように俺を見た。
「私、わかったかも。たぶんだけど……流行らせたらタクミ自身が困るように、ウイルス名にタクミの名前がついたんじゃないかな?」
「へ? ……な、なるほど、そんな考え方もあるのか」
こんなことを考えるのって……まさか、婆さんがスキル名を付けたんじゃないだろうな? 断罪のスキルの素を使ったからありえる話だ。文句の一つでも言ってやりたいのは山々だが、今は時間がない。
ミアとレイサルさんは、再度被害が出てないか映像を確認する。いくつかに分割されている映像のうち、1つの映像の前でレイサルさんの動きが止まった。それに気づいたミアも、レイサルさんが食い入るように見ている映像を見始めた。
「——た、大変! タクミ。急いで! 同盟軍の本部が奇襲を受けてる!」
……本部が襲撃を受けている? 結界を使って外壁の中に閉じ込め殲滅するのがエルフの作戦じゃないのか? このタイミングで本部も狙ってくるとは……一体どこから現れた?
「森から1000人ぐらいのエルフ兵の部隊が出てきてます。まさか……王族の避難用通路? タクミさん、もしかするとティターニアから森へ抜ける隠し通路を使ったのかもしれません」
俺達が世界樹へ来たときと同じような通路か! 王族の避難用だったら複数あるのは当たり前。ティターニア側からは通り抜けできる結界だから、それを活用するのは当然。これはマズい。本部には誰が残っているんだ?
「タクミ。エンツォさんが今向かっている。こっちのことはいいから、タクミは結界の解除を急いでだって」
ミアが念話で連絡してくれたのか……もしかして、俺がスキル開発に集中できるように、俺抜きで念話していた?
いやいや、落ち着け。みんな俺の作業をとめないように協力してくれているんだ。とにかく、俺にしかできないことを確実にこなす。今はそれだけを考えろ。
「わかった。俺は残り2つの結界を止める。そっちは任せる!」
ミアとレイサルさんが頷いた直後。
「あっ……」
ミアは大きく開けた口を手で隠し、俺にバレないよう何事も無かったかのように平静を装う。しかし明らかに目が動揺していた。これは急がないと、かなりマズそうだ。
――――――――――――――――
後書き失礼します!
ここまで読んでくれて、ありがとうございます。
少しでも気に入って貰えたり、続きが気になる方は
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書く側になってわかったのですが、とても励みになります。
【次回投稿日について】
次の投稿は9/24(日)19:11予定とさせていただきます。
これからも、よろしくお願いします!
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