第104話 エルフの逆襲(1)

 エルフ兵の遺体が部屋のいたるところに転がっていた。


 正直ここには長居したくない。赤帯の長老エリオンの頭の中を覗いた婆さんから情報を教えてもらい、さっさと次の行動に移らないと。ティターニアの外壁の結界に閉じ込められた仲間も心配だ。


「それで婆さん、どうだったんだ?」


「…………」


「おーい。婆さん! 何かあったのか?」


「いや、何でもない。ちょっと耳が遠いだけだよ。……それで何が知りたいんだったかね」


 ……もしかしてボケたか?


「まず、魔族はティターニアの中に捕まっているのか?」


「ああ、若い男女が10人ずつぐらい居るようだよ」


「…………そうか。その人達だけでもせめて助けたい。それで、あの結界を解除するには、どうすればいいんだ?」


「エルフ王サイロスが結界を自由に操作できるようだね。アイツを捕まえるのが手っ取り早いが……今は結界で守られているティターニアの中だ。結界に入れないんだから、この手は使えないね」


 そうなると、流刑の地と同じくスキル『業火』を流し込む方法が思いつく。けど、これやると魔力炉が大爆発を起こすんだよな。救出するべく魔族達にも被害がでるよな……他に良い手は無いのか?


 困った俺は、魔王とミアとレイサルさんに婆さんから得た情報を伝えた。


『皆……ご苦労だった。それにしても……まさかそんな昔から同胞が攫われていたとは。これで今の状況に合点がいく。その拉致された子孫達をなんとか救出したい。タクミ、ミア。手を貸してくれ……』


『もちろんです! タクミも救出する気満々でしたよ』


『ええ。こっちもそれを考慮して動きます。それで……結界をどうやって解除するかというところで困っています。実は——』


 俺は懸念していることをみんなに説明した。


『……なるほど、流刑の地の結界を破壊した方法だと、ティターニアごと吹っ飛ばしてしまう恐れがあるのだな。ということは、外壁の結界も同じか……魔力炉を直接破壊する方法だと、結界に閉じ込められた兵達が爆発に巻き込まれてしまうか……』


『実は、それだけじゃないんです。魔力炉が複数個あって、1つに何かトラブルが発生した場合、別の魔力炉が魔力を送り修復するらしいです』


 この無駄に高性能な仕組みのせいで破壊するのが難しい。

 いや待てよ……そもそも破壊することに拘らなくてもいいんじゃないのか。目的は結界を解除すること。破壊はあくまで手段にすぎない。

 あっ! この手が使えるんじゃないのか!?


 

 ズドォーーーン



 な、なんだこの音は。俺達は慌てて赤帯の長老エリオンが設置していった画面を見た。するとティターニアの内壁と外壁の結界で囲まれているエリアで変化が起こっていた。


『エンツォさん、ティターニア側からエルフ兵が魔道具で攻撃を開始した。アーサーの光の閃光でも内壁の結界が破壊できないみたいだ。なのに、ティターニア側からは攻撃が結界を通過している。これは結界内に入れるけど出られない性質を使っているに違いな。これは…………マズい。このままだと全滅してしまう!』


『タクミ。何か手はないの? 結界を早くなんとかしないと……みんな死んじゃう』


 ミアの言うとおり、とにかくあの結界を解除するしかない。なんだっけ、さっき何か思いついたんだよな……


『あっ、思い出した! エンツォさん、魔力炉を破壊するんじゃなくて、もう一度魔族の恩恵の変換を封じるのはどうですか? 亡くなったことで魔族にかかっている血統封呪けっとうふうじゅが解除された。それなら、亡くなっている状態でもう一度、恩恵を封印してしまえば……』


『……タクミよ。確かにその方法は上手くいくだろう。ただし……今となっては血統封呪けっとうふうじゅを誰も使える者が居ないのだ』


 くそっ、良い案だと思ったのにダメか……

 

『エンツォさん、それなら大丈夫ですよ。ね、タクミ』


『はい?』


『タクミがそういうスキル作っちゃえばいいのよ。コンピュータの世界で身代金ウィルスとかあるよね。大事なデータを暗号化して、お金払わないと元に戻してあげないみたいな。それと同じように、魔力炉にスキルを送り込んで、恩恵を暗号化して封印しちゃえばいいんじゃないかな?』


 ……身代金ウィルスって、ランサムウェアのことだよな。恩恵を暗号化か……イメージできる。魔力炉までの侵入経路は、流刑の地の魔力炉と同じで結界をネットワークだとイメージすれば送り込めそうだな。え、まじか。できちゃうのか!?


『タクミ。ミアの言っている意味はよくわからないがどうなんだ。出来そうなのか?』


『はい……たぶん出来そうです。急いでやってみるので、それまでなんとか時間を稼いでください』


『わかった。出来たらすぐに試してくれ。もし何かあったとしても、おまえは気にすることはない。全てはオレの命令に従っただけだ。では、終わったら報告してくれ』


 そう言い残して、魔王は念話を切った。


「ミアとレイサルさんは、エルフ兵の援軍がきたときの対応をお願いします。あと、両軍に変化が見られたときはエンツォさんに報告してください。これから俺はスキルの開発に集中します」


「わかったわ。後はまかせて!」


「ええ。私もエルフなので結界は得意なんです。とっておきの結界でこの部屋には誰も入れないようにしましょう」


 この2人に任せておけばまったく心配はいらないな。

 さてと……俺もスキルの開発に集中するか。


 ◇


「みんな、このまま前進よ! アーサー将軍と合流するわよ」


 敵は結界の中から、一方的に魔道具で攻撃してくる。あれは、人族と魔族の戦争で使われていたざくろ石によるスキル攻撃。諜報部の報告で、ティターニア内部に異世界人のスキルを込めたざくろ石が沢山貯蔵されているとは聞かされていたけど……これはマズいわ。


 早くお兄様の部隊と合流しなければ。私の率いる部隊は守備の強い兵と回復兵が多い。もともと戦闘には参加せず、エルフの脱出路を塞ぐのと負傷者の治療が目的の部隊。だから、エルフ兵の攻撃はなんとか防げている。


 けど、お兄様の部隊は攻撃特化。たぶん、エルフの攻撃に耐えられない。


 攻撃される前に壊滅させればいいだけだとか言っていたけど、破壊できなかったらどうする気かしら。もともと将軍とかの器じゃないのよ。思考が冒険者なのよね。


 それに私のスキル『魔法の鞘の加護』が無くなった今、お兄様も攻撃を受けると危険だし……やっぱり行くしかないわよね。


 あっ、青い閃光……えぇぇぇぇぇ。結界破れないじゃない。どうしましょう。もしかして、これ詰みました?


 と、とにかく、あの部隊がお兄様の本陣ね。


「全員、密集! 魔法部隊はここを守れる最低限の人数でシールド展開。残りはアーサー将軍の陣にシールドを展開しなさい。このまま合流するわよ。そこ! シールドからはみ出さない!」


 お兄様の部隊の前に魔法でシールドを作った。これで拠点が出来たはず。どうやらお兄様も私に気づいたようね。


「全員慌てないで。シールドに合わせて動くのよ。合流したらシールド部隊を更に半分にわける。半分は先にアーサー将軍の陣にシールドを張っている部隊に合流し、さらにシールドを広範囲に張りなさい。残りは後方でシールドを張り治療場所を確保。負傷兵を治療して。完治させる必要はないわよ。命をつなぐことを重視。SPの節約を心がけて!」


「メアリー、よく来てくれた。助かったよ。それにしても、相変わらず素晴らしい指揮だ」


「そんなお世辞はいいですわ。それよりも怪我はなくて? お兄様も無理はしないでください。今は加護もありませんので……」


「ありがとう。もちろん、無茶はしないよ。自分が倒れたら、軍が瓦解することぐらい僕にだってわかるからね。それにしても……このままではマズいぞ。魔王エンツォに念話しようにも繋がらないんだ。たぶん、結界の内部と外で遮断されてるんだろう。タクミも流刑の地から脱出できたときに、そんなことを言っていたからね」


「ええ……とにかく、今私達にできることは耐え忍ぶことです。タクミさんとミアさんがなんとかしてくれるハズ。あの2人を信じましょう」


――――――――――――――――

後書き失礼します!


ここまで読んでくれて、ありがとうございます。


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【次回投稿日について】

次の投稿は9/17(日)19:11予定とさせていただきます。


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