第103話 神託の間の戦い
「ば、バカな。結界を破ったじゃと!?」
赤帯の長老エリオンが驚き後ずさった。神託の間の外から入ってきた兵士達が、エリオンを守るように隊列を組む。ざっと10人ぐらいか。
これ以上は入ってこないようだ。仲間を呼ばれるとやっかいだな。俺は『ルータ』スキルを込めたざくろ石を取り出し、ドアに投げつけた。これで準備は万全だ。
『ミアはレイサルさんを守るのを第一に戦ってくれ。そして、2人とも世界樹を傷つけないように気をつけて』
『『わかった(わ)』』
ブン……
腰に引っかけてあるライトセーバーの柄を手に持つ。そして赤く光り輝く光刃を伸ばした。大量のSPを消費して光刃を伸ばし、一網打尽するのもありだけど、世界樹を傷つける可能性もあるから止めておく。
エルフ兵は世界樹を背に前衛6人、後衛4人その後ろにエリオンという陣形。前衛の6人で結界を張った後、躊躇すること無く後衛の4人が隙間から魔法の矢を放ってきた。
当然、俺とミアは『心の壁』バリアで魔法の矢を防ぐ。
「何もさせるなぁ! とにかく撃ちまくれ。あのバリアも無限に使えるはずがない!」
エルフ兵の隊長が味方を鼓舞するように叫ぶ。
確かに、いくらレベルが上がったとしてもSPには限りがある。『心の壁』バリアは、一回の攻撃でSPを1消費するからな。さすがに相手10人で入れ替わり魔法で攻撃されるとキツい。
ならどうするか? 答えは簡単だ。
俺は自身に『ルーター』スキルを発動。そしてバリアを解除する。
ビュン……
魔法の矢は遮るモノがないので俺に命中。
そして……俺に命中したハズの魔法の矢は、放った者へと戻っていく。
「なっ!? ぐはっ……」
次々と俺に向かってくる魔法の矢は、俺に命中すると同時に放った者へと行き先を変える。光の矢は次々とエルフ兵が張る結界の隙間をピンポイントで通り抜け、後衛のエルフ兵に突き刺さった。
「ばっ、バカな……くるなぁぁぁ!」
「ヒィィィィィ。がはっ……ぐげぇ」
「全員、攻撃やめぇぇぇぇぇぇい!」
エルフ兵の隊長が堪らず攻撃中止の命令を出すも、時既に遅く後衛のエルフ兵は絶命していた。
この隙にミアとレイサルさんの安全を確認するため視線を向けると、状況を理解できないレイサルさんが堪らずミアに質問していた。
「な、なんですかアレは一体……」
「今のですか? あれはタクミの『ルーター』というスキルです。たぶん、受けた攻撃を攻撃の出し手に行き先を変えたんだと思います」
「はあっ!? そ、そんなこと出来るんですか!」
「ま、まあ。あの人ちょっとおかしいので……」
ミア聞こえているからな。
俺をおかしい人扱いするのは止めてもらいたい。
ミアの方がよっぽどおかしいコトやらかしてるからね。
『ルーター』スキルは消費SPが1秒間に1消費する。だから、大量の攻撃を短時間にさばくにはとても効率が良い。
アーサーの馬鹿げた威力の攻撃や、数百発など大量の攻撃を同時に受けた場合『ルーター』が処理できるかわからない。けど、この程度の攻撃なら問題なく処理できた。
「だ、誰か。援軍を要請してこい! 急げぇ!」
隊長に命令された前衛のエルフ兵の1人が、慌てて部屋のドアめがけて走り出した。そしてドアに手をかけようとした瞬間、手を引っ込めてしまった。
「な、何をやっとるかぁ! 早くいけぇ!」
隊長の怒声を背で受け止めながら、ドアを蹴破ろうとしたり、身体ごとぶつけようとしたりと様々な方法でチャレンジするが、ドアを開くことができない。その行動は外から見ると、一人芝居しているようにしか見えなかった。
「あ、あれも……?」
「はい。タクミの仕業です。抜け目ないですよね。絶対に逃がす気ないですよ。だって怒ってましたから」
ミア、それも聞こえているからな。
レイサルさんに誤解されるような言い回しは止めてもらいたい。
なんか、レイサルさんの俺を見る目が怯えているような……
ミアもなぜかドヤ顔しているし……
「全員、抜刀ぉぉ! 接近戦に切り替えろ。囲めぇぇぇ!」
エルフ兵は隊長の指示の下、剣を鞘から抜き盾を構える。
盾がいきなり現れたぞ……アイテムボックスから出したのか。しかも、剣も盾も淡い光に包まれている。魔道具の可能性が高い。
ミアとレイサルさんに2人残して、隊長を含めた4人で俺を囲むようにじりじりと移動してくる。わざわざ相手の陣形が完成するのを待ってあげる気もないので、俺は後ろに回り込もうとしている兵士にライトセーバーで斬りかかる。
ブォン。
ギギギギキッ。
おっ、盾でライトセーバーを防ぎやがった!
ニヤリと頬をつり上げるエルフ兵。盾でライトセーバーをいなし、すかさず剣で突いてくる。
俺はそれを身体をひねって躱し、ライトセーバーで相手の剣を斬りつける。武器破壊ってやつだ。
ブィン……ブブブブブッ……
いつもならライトセーバーで相手の武器や防具も簡単に切り裂けるのにかなり硬い。やはり、あれらの装備は魔道具ということか。なんらかの強度や威力を上げるような効果がありそうだ。
チャンスありと思ったのか、残りの3人が一斉に襲いかかってきた。
俺はバリアを3人の方に重点的に使い、1人ずつ倒すことにした。こいつら神託の間を警護にあたるぐらいだから、エリート中のエリート兵なのかもしれない。魔王との特訓前ならピンチだったかもしれないが、今の俺なら少し時間がかかる程度で、脅威ではない。
これでどうだ……バリアを相手の足下に設置し足をひっかける。バランスを崩したところを……
ブィン。
ドタァ……。
これで後3人。身体は温まってきたな。次は隊長にするか。
俺はエルフ兵の隊長に向き直る。
「……き、貴様ぁ! よくも——」
「——に麻痺と毒を与えよ。ボライズン!」
エルフ兵の後方にいた離れていた赤帯の長老エリオンが、こちらに杖を向けて勝ち誇った顔をしていた。
バタッ……バタ、バタッ。
俺の目の前にいた3人の兵士が次々に倒れていく。床に這いつくばりながら、口から泡を吹き出しピクピクと震えていた。
「ヒャッハハハハ。この魔法はワシのオリジナル魔法よ。薬では治せんぞ! しかも耐性があっても効くほどの威力じゃ。ワシから目を離したのが間違いじゃったな!」
「タクミさん! 今すぐ回復魔法を——」
「無駄じゃ! そんなもん効かんわ! 苦しみながら死ねぇぇぇ! ヒャハハハ」
レイサルさんの言葉を遮るように、エリオンが歓喜の声をあげる。
無色で無味無臭。『心の壁』の弱点。使用者が意識できない攻撃にバリアは発動できない。……エリオンのやつ、この魔法を使うタイミングをずっと計っていたのか。
「さぁ、苦しめ。くる……し……め?」
エリオンの頭にクエスチョンマークが浮かんでいる。どうやらご自慢の魔法が俺に効かず、現状の理解が追いついていないみたいだ。
俺の方を先に狙ってくれて本当に良かった。レイサルさんが狙われていたら、防げなかったよな。
「なぜじゃ! なぜなのじゃ!?」
混乱しているエリオンを尻目に、俺は全速力で距離を詰める。
「タクミ。ちょっと、お待ち。ヤツを殺すのなら『業火』を使いな。アタシが覗いてきてやる」
「婆さん、それは助かるけど早く終わらせてくれよ。こんなヤツのために寿命を縮めたくないんでね」
ミア達の方にいた2人のエルフ兵は、エリオンの味方殺しに動揺していた隙をミアにつかれて倒されていた。
残りはエリオンのみ。
「くっ、来るなぁぁぁぁぁぁ!」
でたらめに振り回す杖を難なく躱し、エリオンの背後に回る。そして、エリオンの頭を左手で鷲掴みにした。
「婆さんにしっかりお説教されてから——」
ジタバタと暴れるエリオン。
「あの世で魔族の皆に謝罪しろ。業火ぁぁぁぁぁ!!」
左手から噴き出した禍々しい黒炎が、瞬く間にエリオンの全身を包んだ。不思議なことに、エリオンの身は焼けず何も変化はない。しかし、エリオンは俺に左手で吊り下げられながら白目を向いてガタガタと震え出す。腕や足、胸部や腹部など体内をボコボコと何か生き物のようなものが蠢いている。
次の瞬間、身体のいたるところで内部から身体を食い破るように黒炎が現れた。黒炎に包まれた身体は、あっという間に灰も残さず燃え尽きてしまった。
――――――――――――――――
後書き失礼します!
ここまで読んでくれて、ありがとうございます。
少しでも気に入って貰えたり、続きが気になる方は、【★マーク】で評価や【フォロー】して貰えると嬉しいです。
書く側になってわかったのですが、とても励みになります。
【次回投稿日について】
申し訳ありません!
今週は仕事が忙しく、執筆の時間が確保できないためお休みとさせていただきます。
次の投稿は9/10(日)19:11予定とさせていただきます。
これからも、よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます