第7話 そして、その後のお猫様と勇者一行

 

 ラカは街の中を茫然と歩く……ニャ。

 ラカの胸中は様々な思いが渦巻いている……と思うニャ。

 頭の中にはレミリアとレミーの二人の盛りのついたメスでいっぱいになっている……はずニャ。



 それはメスを手にする事ができなかった失意か失恋か……ただの勘違いニャ!



 ラカは一人ただ街の中を歩くニャ。

 まるで幽鬼のようなその姿に異様な雰囲気を感じ取ったのか、ラカの行く手の人垣が左右にサッと割れていくのニャ。


 そして、街の者はその憐れな少年を遠巻きにしてヒソヒソと何やら囁き、ラカに近づこうとはしなかったのニャ。


 ま、当然ニャ。

 血塗られたヒノキの棒木製バット、ヘンテコな形のガントレット本革グラブ、デカくゴテゴテしたバックルのついた勝利と栄光の腰帯チャンピオンベルト……


 こんな危ない恰好した奴に声をかける物好きは――


「ラカ!!!」


 ――いたのニャ!?



「レミー!」


 レミーが駆け寄ってくる姿を見たラカの奴がパッと顔を明るくしたニャ。


 だけど周囲の傍観者ギャラリーは騒然ニャ。吾輩も気持ちは同じニャ。

 血塗られたバットを手にする危ない奴が精気のない顔でユラユラ歩いてるのニャ。それに、誰もが振り返るような美少女が自分から近づいているニャ。

 二人を知らない者からすれば、あり得ない事が眼前で起きているのニャ。


「お、お嬢ちゃん危ないぞ!」

「近づいてはダメだ!」

「あの、殺されるぅぅぅう!」


 と、レミーを制止したり心配したりする声が上がるのも無理ないニャ。


「あんな危ない奴になんであんな可愛い女の子が!」

「うそだぁぁぁあ!!!」

「あれが今の流行りなのか!?」

「お、俺も角材を血塗れにして持ち歩こうかな?」


 なんか不穏な会話が聞こえてくるニャ。

 明日からこの街には危ない奴があふれかえりそうニャ。

 ラカのせいでとんでもなく危険な街になるニャ。きっと世紀末ニャ!


 そんな周囲の阿鼻叫喚を他所に、ラカとレミーは相変わらずバカップル空間を作りだしているニャ。



「レミーどうしてここに?」

「ラカが勇者になったと聞いて……」

「そうなんだ。だから僕はこれから魔王を討伐する旅に出るよ」

「私のためにって公言したと聞いたけど……」


 レミー迂闊ニャ。今しがた認定されたばかりニャ。しかもラカの宣言は全く知られていないニャ。さすがにまだ噂にもなってないのニャ。それじゃ正体をバラしているのと同じニャ。


「その為にレミリア姫との婚姻話も蹴ったって……」

「うん、僕は……レミーの為だけに戦うよ!」


 ぜんぜん気づいてないニャ!?

 カッコいいこと言ったみたいなドヤ顔してるけど、お前ぜんぜん分かってないニャ!


「僕はレミーが好きだ!」

「う、うれしい……」


 なんか感動のシーンみたいニャが、ラカの異常で危ない装備で全部台無しニャ。


「だから魔王を討伐するまで待っていて欲しい!」

「ラカ、うれしいわ。ありがとう……でも、いや!」

「え!?」

「ニャ!?」


 そこはOKする場面じゃニャいかニャ?


「私は待っているのはイヤなの!」

「え? え? え?」


 ラカが困惑してるニャ。

 吾輩も同じ気持ちだニャ。

 ここでまさかの玉砕ニャ!?


「だから私も一緒に行く!!」

「ダ、ダメだよ!?」

「行くの!」


 そうきたニャ~。

 ラカが思いとどまらせようとしてるニャが、レミーの意思は固いようニャ。


「今はまだ私の方が強いんだから問題なし!」

「そう言う問題じゃないと思うんだけど!?」



 こうして、ラカの尻に敷かれ冒険ファンタジーが始まったのニャ!



「で、レミーはお姫様稼業の方はいいのかニャ?」

「やっぱりロペは気がついていたんだ」

「当たり前ニャ。気づかないラカがおかしいニャ」

「城に置き手紙してきたから大丈夫よ!」

「ホントかニャ~。ところで、ラカに正体を明かさないのかニャ?」

「癪だからラカが自分の力で気付くまでヒ・ミ・ツ♪」

「あの鈍感なラカが気づくのを待っていたらレミーはおばあちゃんになっちゃうニャ」

「その時はレミーとしてラカのお嫁さんになればいいわ。お姫様って窮屈だったし、ちょうどいいわ」

「まあ、吾輩は面白ければなんでもいいニャ」




 その後まもなくして、鮮やかな魔術で魔を討ち滅ぼす勇ましくも優しい白銀の髪をたなびかせた麗しき勇者姫と……


 その叡智で勇者を導き数々の苦難を救ったモフモフ可愛い、キュートでプリティーな愛くるしいお猫様と……


 血塗られたバットを振り回す狂犬のような恐ろしい不良少年の三人組が各地で見かけられるようになったのニャ。


 そして二人と一匹は、その旅の果てについに魔王を討ち果たしたのだったニャ。




 めでたしめでたしニャ!



 おしまい――






「――って、ちょっと待ってよ!」

「何を騒いでいるのニャ」

「僕の扱いが酷くない!?」

「どこがニャ? まごうことなき真実ニャ」

「僕は狂犬じゃないよ! それに勇者は僕じゃないの!?」

「ふぅやれやれニャ」

「なんだよその呆れたため息は!」

「まったくラカは何にも分かってないニャ」

「だけどレミーは王女様であって、勇者の末裔バ家の人間は僕で……」

「その考えが間違っているニャ。よく考えるのニャ」

「う、うん……」

「ラカが読者だったら可愛いお姫様と小生意気な小僧とどっちが主役の物語を読むニャ?」

「そ、それは……くっ……それは確かに可愛い女の子……」

「はぁ……まったく分かってないニャ」

「え!?……違うの?」

「ぜんぜん違うのニャ」

「そ、それじゃやっぱり僕が主や……」

「そんなの可愛くてプリチーでキュートなお猫様が主役をするのがいいに決まってるのニャ!」

「選択肢に無いし!?」

「選択肢に無くても常識で考えれば分かるのニャ」

「それどんな常識!?」

「ラカはホントにダメダメなのニャ」

「なんか納得いかない……」

「よく考えるニャ」

「なんだよ?」

「読者はもふもふキュートなお猫様を求めているのニャ」

「そうかなぁ?」

「間違いないのニャ。タグにモフモフを入れればPVが一気に増えるのがその証拠ニャ」

「そんなデータあるの?」

「作者様が前連載で途中からタグにモフモフ入れたら(僅かに)PVが増えたのニャ」

「たったの1作だけじゃん。それに今ボソッと『僅かに』って言ったよね!」

「黙るニャ。『ようつべ』にお猫様の動画を投稿すれば一気に再生数が増えてるニャろ」

「うっ……それは否定できない」

「この作品だって吾輩の一人称なのニャ」

「た、確かに……」

「だいたい気弱な小僧やあざとい娘っ子よりも賢く可愛いモフモフお猫様が読者に愛されるのは自然の摂理ニャ」

「ちょっと僕が気弱なのは否定しないけど、あざといのはロペの方だろ!」

「ニャ、ニャにを言うのニャ!?」

「その『ニャ』がわざとらし過ぎ。ホントは普通にしゃべれるんだろ?」

「ニャ、ニャにを根拠に言うのニャ。これが吾輩の普通の話し方ニャ」

「ほら今もだ。作中でもそうだったけど、ロペは時々その『ニャ』の位置がブレるんだよ。絶対にキャラ作りじゃん」

「これは吾輩たち愛くるしいお猫様のアイデンティティなのニャ!」

「何がアイデンティティだよ。だいたいロペって可愛くないよね。けっこうゲスいし」

「なんて事を言うニャ。格調高くゲス可愛いと言うニャ!」

「ゲスいだけだろ。読者もドン引きだよ」

「暴言ニャ。キュートでプリチーな吾輩にきっと読者全員メロメロニャ!」

「そんなわけないだろ。続きじゃ僕がきちんと主役になって物語を盛り上げるからね!」

「続きって……何を言っているニャ? この物語はこれで完結ニャ」

「ウソ!?」

「本当ニャ。元々5000字前後の短編の予定が、作者が悪ノリして字数が増えただけで、続編の予定は全くのナッシングなのニャ」

「まだだ、まだ終わらんよ!」

「往生際が悪いニャ」

「読書様から要望や評価が入れば作者様だって書かざるを得ないはず!」

「なに夢見てるニャ。こんな万年底辺作家様の作品に要望が入るわけないニャ。ましてや評価が入るなんて夢のまた夢ニャ」

「そんな事はない! この作者様の作品だって注目を浴びないとも限らないじゃないか!」

「現実を見るニャ。夢と妄想の狭間の国に行っては駄目ニャ」

「そ、そんな……だけど、まだ冒険らしい冒険してないじゃん!」

「冒険がないのは当たり前ニャ。この作品は冒険ファンタジーではないのニャ」

「え、違うの!?」

「この作品はお猫様のモフモフを讃え、お猫様の賢さを讃え、お猫様の愛らしさを讃えるお猫様ファンタジーなのニャ!」

「うそぉぉぉぉぉおおお!!!!!」

「だからこれでおしまいニャ!」

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長ぐつをくれた猫〜役に立たない猫などいらん!と投げ捨てておいて、本当の遺産がお猫様だと分かったからって今さら戻ってこいニャ?もう遅いのニャ!勇者の武具は真の勇者に上げちゃったニャ!〜 古芭白 あきら @1922428

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