新訳・竹取物語~かぐや姫~

junhon

第1話 世界観には突っ込まないように(笑)

 むか~し昔、竹取りのおじいさんが山で竹をとっていると、一本の竹が金色に光っているのを見つけます。怪しみながらその竹を切ってみると、中には小さな女の子が。お爺さんはその子を家に連れて帰り、かぐや姫と名付けて育てることにしました。

 

 それから僅か三ヶ月ほどでかぐや姫は美しい娘に成長します。そのうわさは広まり、結婚の申し込みが殺到しました。

 

 結婚を申し込んだのは五人の公達きんだち(上流貴族)。かぐや姫は彼らに難題を課します。

 

「この世でもっとも臭い物を持ってきた方と結婚しましょう」


 公達らはそれぞれ各地に散って臭い物を求めました。

 

 最初に帰ってきた公達が持ってきたのは魚の干物。

 

伊豆いず諸島の特産品くさやです」


 かぐや姫はその匂いをクンクン。


「おおぅ……まるで死臭のような腐ったにおい。これは臭い」


 そう言いながらもかぐや姫はうれしそう。その干物を七輪で焼いて美味おいしくいただきます。

 

「待て! わたしの持ってきたアラスカ産キビヤックを試してもらおう」


 次に現れた公達が持っているのは、一見鳥の死体に見えました。食べ方を教わり、かぐや姫は羽根をむしり取った鳥の肛門こうもんに口をつけます。

 

 ズルリュルルルル!

 

 おぞましげな音を立て、ドロドロに腐った鳥の内臓をすすげました。

 

「プハァ! これはさらに臭い! でも美味うまい!」


 ご満悦のかぐや姫は皮を引き裂き肉も食べ、歯で頭蓋骨を割り中身の脳味噌のうみそも美味しくいただきます。

 

「待て待て! この私の南国果実、ドリアンをご賞味あれ!」


 次の公達が持ってきたのはトゲトゲとした皮に覆われた果物くだものです。包丁で割ると腐ったタマネギのようなにおいが。

 

「むぅ……これは甲乙つけがたい。そしてなんとも濃厚な……」


 果実を味わいながらかぐや姫はつぶやきました。


「おっと、この私を忘れてもらっては困る。韓国産ホンオフェだ!」


 続いて現れた公達は手にしたつぼの中からエイの肉を取り出します。それを包丁でさばいてかぐや姫に差し出しました。

 

「くぅううっ、これは目に染みるほどの臭さ! でも美味しい!」


 かぐや姫はアンモニア臭に涙を流しながらホンオフェを平らげました。

 

「くくくっ……真打ちは最後に登場ということだな」


 最後に現れた公達は懐から缶詰を取り出します。そしてそのフタをパカリと開けました。

 

「「ぐはぁ!」」


 その場の一同はあまりの臭さに悶絶もんぜつします。そのにおいはまさに嗅覚への爆弾。

 

 缶詰の中身は塩漬けのニシン、シュールストレミングです。そこから放たれるのは腐った卵とバターに酸っぱさを加えた強烈なものでした。

 

 誰もがその公達の勝利を確信したその時――

 

 見物していた人々の群れをその放つ臭気で退けながら、一人ひとりの男が現れます。

 

 それはきらびやかな衣装に身を包んだ帝でした。

 

 帝は着物をはだけると、両手を挙げて己のワキをあらわにします。

 

 むわぁあああああん!!


 その場にいた全員が死にました(誇張表現です)。

 

 こうして、かぐや姫は帝と結婚して幸せに暮らしましたとさ。

 

「あの子はワシののにおいとか大好きだったからのう」


 お爺さんはつぶやきます。かぐや姫――その名の由来は「嗅ぐや」なのです。

 

 月へ帰る? なんのことですかね?

 

 めでたしめでたし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新訳・竹取物語~かぐや姫~ junhon @junhon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ