優しく少し苦い、魔女と亡き者たちの物語

柔らかな文体から始まる物語は沙那の「消えたい」「誰の記憶からも忘れられて、きれいさっぱりなくなくなりたい」という願いから、ほんのり不穏な空気を纏う。
それはもしかしたら、どこかの誰かも心のうちで思ったかもしれない願い。魔女である彩はその覚悟を確認するために、仕事を手伝ってほしいと伝える。
その中で巡り合う無き者たちとの交流を経て、徐々に明かされていく彩の謎と沙那たちの変化。謎が明かされ、かちりと歯車のように嵌っていく様子は読んでいてとても心地よいものでした。

生きるということ。死ぬということ。苦しくて目を逸らしたくて仕方のないことや尽きない後悔を前にして、どのように向き合っていくのか。それを改めて思い馳せることができる、優しい物語だと感じました。

沙那の願いの行方の結末。彩が抱える贖罪の意味。
ままならない心に惑いながらも懸命に生きていく彼女や亡き人たちの姿を、是非とも見届けていただければと思います。

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