壊れたオルゴール

天洲 町

語るに落ちる

 オルゴール収集が趣味であった日方浩二は古今東西の趣向を凝らした作品を集め、一部屋に飾っていた。宝石が豪華に飾り付けられたもの、一見すると酒瓶にしか見えないもの、全てが木材でできたものなど様々で素人には価値のわからないものも多かった。

 その部屋から廊下に這いずって出た位置で彼の死体は見つかった。

 オルゴールをいじっていたところを窓から忍び込んだ犯人が後頭部を殴りつけ、逃げようとしたところを廊下でとどめをさされている。襲われた拍子に手から落ちて壊れてしまったオルゴールに血がついていて、事件の様相を物語っていた。ショーケースが破られていて、いくつか持ち去られた跡があったため強盗であるのは間違いない。

 容疑者として新聞配達の男が取調べを受けていた。

「では貴方は本当に何も知らないんですね?」

 警部が小さな椅子に座らされた犯人の目の前に手をつき、威圧感を持って問いかける。

「知らないって。いつも通り配達に行ったら窓が開いてたんで変だと思って覗いただけだよ。別に深い仲でもないから声をかけたりしなかったし」

 済ました顔で男は答える。警部は訝しんで質問を続ける。

「ほう、どうして窓が開いているのが変だと?」

 男は面倒臭そうに顔を顰め、さらにのけぞって答える。

「俺が配達に行く時間は大抵誰もが寝てるからな。平屋建てで窓を開けたままの不用心な奴なんか普通居ないのさ。それが窓が開いてカーテンがひらひらしてたら嫌でも目立つ。ちらっとのぞいただけだから割れてたとは気づかなかったけどな」

 ふむ、と溢して警部は男の正面の椅子にかける。

「ではその時死体は見えなかったんですか?」

「その通りだよ。電気も切れて、薄暗かったからな。椅子のそばに壊れたオルゴールが転がってるのが見えたくらいであとは何にも」

 それを聞いてニタリと警部は笑った。

「ほう、オルゴールが見えたんですか」

 少し狼狽えて男が答える。

「な、なんだよ。別におかしなことでもないだろ。あの窓から覗けば誰だってそれが見えた筈だ」

「そうですね、ちらりと覗けば誰もがオルゴールが落ちているのが見えたでしょう」

 男はフッと胸を撫で下ろす。

「失礼ですが、貴方はオルゴールがお好きで?」

「いや全く知らないね」

 その言葉を聞いて確信を持つ。


「では最後にお聞きしましょうか。何故貴方はあれがオルゴールだとご存知なのですか?」

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