追加稿
やっぱり、どうも第一話を読んで、第六話に飛ぶ人がいるみたいですね!
こんな感想がありました。「黎人は綾香の腫瘍を摘出しようとして失敗したのですね。悲しいお話しでした」
ふんぬうう! 飛ばしやがったな!
ああ、なんかちょっと、イライラするなあ! 外で竹刀を振ってきます。
ちなみに、今回の「ひろし」は私の方です。怒っているのは私です。そして、以下の話を第七話として追加します!
第七話(追加稿)
誰も居なくなったカフェテラスに黎人だけが立っていた。静かに目の前の遺体を見つめている。そこへ草薙教授がやって来て黎人の肩を叩いた。
「よくやった。これで彼女は自由だ」
黎人は安堵の表情を浮かべた。
路肩に停まった黒塗りの高級車から綾香が降りてくる。本物の綾香だ。彼女は目に涙を溜めて、こちらへと駆けてきた。
残された問題、それはクローンの方をどうするかという問題だった。
脳移植の手術をしたチームは何を間違えたのか、腫瘍を抱えたオリジナルの綾香の脳をクローンの方にも移植してしまった。その必要は無かったはずだ。だが、やってしまった事は仕方ない。これにより、新たな脳の新綾香と腫瘍がある古い脳の旧綾香が存在することになってしまった。この旧綾香がクローンの体の方であり、その後、性格を変貌させ
研究施設から脱走したクローンの綾香が街の中で綾香として振舞っていては、本物の綾香は社会で活動することが出来ない。だから、本物の綾香は術後のリハビリなどにより元の自分に戻っても研究施設から出られなかったのだ。
一方、腫瘍のある脳を移植されたクローンは性格に変貌をきたし、今では本来の綾香とは全くの別人になっていた。行動は傍若無人を極め、日に日に凶暴になるばかりか、明らかな問題行動も増えていた。これでは本物の綾香の評判を落とし、信頼も失墜せしめ、彼女の社会復帰を困難なものとしてしまうだろう。
勿論そのまま待てば、いずれは以前の綾香のように意識を失い、やがて自然死するのだろうが、黎人にはそれまで事態を放置しておく気には到底なれなかったし、いくらクローンの綾香だとはいえ、不本意に性格を変貌させ苦しんでいる彼女を見ていることもできなかった。それで黎人はクローンの綾香に自分の超能力で死を与えることを決意したのだ。
倫理的に問題があることは黎人にも分かっていた。同じような病で苦しんでいる世の中の人々への偏見を助長しかねない行動であることも理解していた。しかし、黎人にはこれ以上耐えられなかったのだ。暴走するクローンがいることで、いつまでも本物の綾香が施設の中で生活し続けなければならない事が。
今日こうして黎人がクローンを抹殺してくれたので、本物の綾香は自由の身になった。病も完治している。
黎人は自分の胸に飛び込んできた綾香を、両手を広げてしっかりと受け止めた。涙に濡れた頬を愛する人の胸に強く押し付けて、綾香はしがみつくように黎人に抱きつく。黎人も微笑みの上に一筋の雫を滑らせながら、強く綾香を抱きしめた。冬の冷たい風も二人には関係ない。
暖かな光が天から射していた。クリスマスの太陽が二人を照らす。だってそこは、テラス席だから。
了
ひろしの怒り 改淀川大新(旧筆名: 淀川 大 ) @Hiroshi-Yodokawa
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