第5話
「今日は何しようか」
昨日と同じく賽銭箱の前の階段でミコトと並んで涼んでいた零が尋ねる。
「えっと、僕、神様にお礼がしたいなって思って」
零は首をかしげながらミコトの方を見る。
「あ、昨日いじわるされませんようにってお願いしたから」
ああ、と零は納得したように頷いた。
「確かに今日は大和くんたち何もしてこなかったからね」
そう言うと零はミコトに笑いかけた。
「それでね、お礼に何かお供え物をしようと思ってるんだけど何がいいかな」
「うーん」
零はしばらく悩んだ後、拝殿の方を見た。
「おいなりさんだから油揚げ…とか?」
「おいなりさんってみんな油揚げが好きなの?」
ミコトの質問に零は困った顔をする。
「分かんない。もしかしたらお餅かも…」
セミの鳴き声と風に揺れる葉の音だけが境内に響く。
「あっ!」
突然、零が目を輝かせながら立ち上がる。
「何かいい案があったの?」
ミコトが零を見上げる。
零はくるりとミコトの方を向くと階段に置かれたミコトのランドセルを指さす。
「カミサマにお礼は何がいいか直接きいたらいいんだよ」
ミコトはポカンと零の顔を見つめた。
すると零は「ちょっと失礼」と言ってミコトのランドセルの中をガサゴソと漁り始めた。
驚きながらもその様子をじっとうかがっていると、零は「あった!」とランドセルから一枚の紙を取り出しミコトの目の前に広げて見せた。
それを見たミコトも零がこれから何をしようとしているのか分かり目を輝かせる。
「これを使えば僕たちでも簡単にカミサマに質問ができるよ」
零がにっと笑う。
「二人でこっくりさんをしてカミサマにきいてみよう!」
「じ、じゃあ、いくよ」
二人は十円玉の上に指を置く。
「「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。おいでになられたら『はい』へお進みください」」
・・・・・・・・
先ほどまで騒がしく鳴いていたはずのセミの声が聞こえない。
あたりを見回すと木の葉の一枚も動いていない。
突如訪れた周囲の異様な雰囲気にミコトは不安そうにあたりを見まわした。
「ミコトくん…」
零の少しこわばった声にミコトは振り返る。
「見て」
緊張した面持ちで手元を凝視する零の視線をなぞるようにミコトも目線を落とす。
「⁉」
赤い鳥居の上にあったはずの十円玉がいつの間にか『はい』という文字の上に移動している。
二人は驚いて顔を見合わせる。
「じ、じゃあ、いくね」
ミコトは事前に零と決めていた質問を投げかける。
「こっくりさんはここの神社の神様ですか?」
十円玉がゆっくりと『はい』という文字を囲むように一周して止まる。
その様子を見て二人は安堵の笑みを浮かべた。
「なら、次いくね」
零が手元へ視線を戻す。
「昨日の願い事のお礼をしたいのですが、お礼は何がいいですか?」
十円玉は少しの間動かず止まったままだったが、しばらくするとゆっくりと文字の上を動き出した。
二人は十円玉の示す文字を見逃してしまわないよう、その動きに集中する。
『な な ふ し ぎ か ぎ あ つ め』
十円玉の動きが止まる。
「ななふしぎのかぎ?何だろう?」
零が首をかしげる。
「七不思議の鍵!聞いたことある!」
ミコトがパッと顔を上げる。
「知ってるの?」
驚いた様子の零がきらきらと輝いているミコトの目を見つめる。
「うん!七不思議の鍵っていうのはね、僕たちの小学校にある伝説の鍵だよ」
「伝説の鍵?」
「うん、たしか学校の七不思議を全部集めると現れるなんでも願いをかなえてくれる鍵…だったはず」
零はそんな伝説があるのか、と驚いているようだった。
「こっくりさん、ななふしぎのかぎっていうのはその伝説の鍵で合ってますか?」
零が十円玉に向かって尋ねると、十円玉はぐるぐると『はい』という文字を囲むように動き始めた。
「合ってるみたいだね。なら学校の七不思議を集めないといけないってことか」
「そうだね。でも僕たちお化けとか見えないし、どうする?」
ミコトが動きを止めた十円玉から視線を上げる。
「う~ん、おじさんならお化けが見えるからおじさんにお願いする…とか」
「でも学校行事でもないのにおじさんを学校の中に連れて行くのはむりだよ」
ミコトの言葉に零は「そうだよね~」と言うと苦笑した。
二人が悩んでいると再び十円玉が動き出した。
『き つ ね の ま ど み よ』
十円玉が示した文字に二人は首をかしげる。
「きつねの窓?何だろう?」
ミコトが「窓?きつね?」と首をかしげる。
「窓だからどこかの建物のキツネの形の窓なんじゃないかな?」
零の言葉にミコトは首を横に振る。
「キツネの形の窓のある建物なんてこの町にはないよ」
いくら考えてみてもキツネの窓が何なのかさっぱり分からず二人は困ってしまった。
「これは何か分からないからおじさんに聞いてみるよ。何か知ってるかも」
「確かに零くんのおじさん神主さんだし、おいなり様に詳しいかも。お願いしてもいい?」
「もちろん!明日学校で教えるね」
だいぶ時間が経ってしまっていたようで気が付くと空は夕焼け色に染まり、鈴虫の鳴き声がちらちらと聞こえ始めていた。
二人はこっくりさんに無事帰ってもらうと「また明日」と夕暮れの中、家路についた。
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