第4話 (7月14日 晴れ)
どこまでも続いているかのような青い空、どこからともなく聞こえてくる風鈴の音、激しく鳴く蝉の声。
いつもと変わらぬあぜ道を歩くミコトの足取りは少し軽く感じられる。
昨日、零と帰り際にした約束を思い出し歩調が速くなる。
「ミコトく~ん」
遠くで陽炎に揺られる小さな影が見える。
大きく手を振るその影に向かってミコトは駆けだした。
「おはよう。今日も暑いね」
零が両手で顔をパタパタと扇ぎながら微笑む。
「零くんおはよう。毎日暑いね。今日最高気温三十度超えるらしいよ」
「え⁉そんなに暑かったらとけちゃうよ」
二人は顔を見合わせて笑うと学校へ歩き出した。
ガラッ
零が教室の戸を開けるとクラスメイト達がワイワイと近づいてきた。
「おはよう」
「零くん、おはよう」
「零くん道迷わなくてよかった~」
やはり転校生はクラスの人気者になりやすいようで零はあっという間にクラスメイトに囲まれてしまった。
他のクラスの生徒たちも転校生のことが気になるようで廊下からちらちらと教室を覗いている。
一人取り残されてしまったミコトはどうしようかと迷ったが、ずっとその場に立っていても仕方がないと思い自分の席へと向かった。
ふと自分の後ろの席へ目を遣る。
いつもなら朝から嫌がらせをしてくるはずの大和が今日はまだ来ていない。
ミコトはほっと胸をなでおろす。
しかし一年生の頃から遅刻することもなく皆勤賞であったのにどうしたのだろう。
「あれ、姫花ちゃん、大和くん来てないの?」
やっとクラスメイトに解放された零が大和の隣の席の少女に尋ねる。
姫花は零に気が付くと少し上目遣いで可愛らしくにこりと笑った。
「零くん、おはよう。大和は昨日カシラギから帰る時に自転車で田んぼに突っ込んで少し足を痛めたってあいつらから聞いたわ」
そう言うと大和といつも一緒にいる少年たちの方を指さした。
少年たちは姫花から指をさされていることに気が付くと「なんだよ」「指さすなしブ~ス」などと暴言を放ったが姫花に「これだからお子様は困るわ~」と鼻で笑われてしまい悔しそうに顔を真っ赤にしていた。
二時間目の休み時間に大和が登校してきた。
左足には大げさに包帯が巻かれており、手には松葉杖を持っていた。
「大和!」
心配そうに駆け寄る取り巻きの少年たちに大和は「おう!」と元気よく笑う。
どうやら足の骨に少しひびが入ったらしい。
「くねくねも見つからなかったし、けがはするし、完全に行き損じゃね~か」
大和は唇を尖らせながらそう言うと長いため息をついた。
結局その日はけがをした大和に皆の注目が集まり、ミコトは久しぶりに嫌がらせをされることのない平穏な時間を過ごすことができた。
「ねえ、零くん」
「うん?」
零がランドセルのふたを閉めながら返事をする。
「どうしたの?」
「あの…。今日もおいなり神社、行ってもいい?」
ミコトは断られてしまったらどうしようと内心びくびくしながら顔色をうかがうように零を見る。
「もちろん!いいよ!」
零はとても嬉しそうに頷いた。
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