第3話
零の家であるおいなり神社は住宅が密集している場所から少し離れた山の入口付近に建っている大きな楠木が印象的な古い神社である。言い伝えや伝説なども残っているくらい昔からある神社で、しばらく神主さんがいない状態が続いていたが、零のおじさんがこの夏から神主として管理を任されることになったらしい。
二人は神社へと続く坂を上っていく。
空まで届きそうなほど大きな木々がトンネルを作っていて涼しい。
二人は石でできた階段を上り境内へと入る。
境内からは青い空がよく見える。
「お茶持ってくるからちょっと待ってて」
そう言うと零は神社の隣にある自分の家へと走っていった。
ミコトは木で日陰になっている賽銭箱の前の階段に腰掛けて鳥の声や蝉の声、木々が風で揺れる音を聴きながら零を待つことにした。
木々の間を通り抜けて吹いてくる風が心地良い。
「ミコトく~ん」
零が家の方から駆け足で戻ってくる。
「待たせてごめんね。おじちゃん今、外に出てるみたいで…、あ、これ」
そう言うと零は手に持っていたタオルとコップをミコトに渡し、階段に腰掛ける。
「おじちゃんにはナイショだよ」
零はにっと笑うとペットボトルに入ったサイダーをコップに注いでくれた。
ジュースはとても冷えており、炭酸のシュワシュワとした泡が火照った体にしみわたっていく感じがしてとても美味しい。
零は「生き返る~」と言いながら空になったコップにジュースを追加する。
透明なガラスのコップについた水滴が木漏れ日に照らされ、宝石のようにキラキラと光っていた。
ペットボトルのサイダーもすっかり空になり、心地よい風が汗の引いた頬を撫でる。
「よいしょ!」
突然、零が立ち上がった。
「どうしたの?」
まぶしそうに目を細めながら見上げるミコトを見て零はポカンとした顔をする。
「どうしたのって、ここに来た第二の目的、忘れちゃったの?」
「わ、忘れてないよ!」
おしゃべりに夢中になって完全にお参りのことを忘れていたミコトが勢いよく立ち上がる。
その様子を見た零はにやにやとしながらふぅんと言うと階段をおり、くるりと拝殿の方を向く。
慌ててミコトも階段をおり、零の隣に並ぶ。
「ええっと、お参りするときは二礼二拍手一礼…だよね?」
「うん、あってるよ」
零はズボンのポケットから取り出したお金をミコトに差し出す。
「え、いいの?」
「いいの、いいの。だってここ僕の神社だし」
「なら…。ありがとう」
ミコトは零から受け取ったお金を見る。
「あれ?」
お金は五円玉のように中心に穴が開いていたが、明らかにサイズも大きくとても古そうに見える。
「そのお金、昔使われてたんだって。昨日、木の下にある穴の中で見つけたんだ。」
そう言うと零は御神木の方を指さした。
確かに木の根元にランドセルが一つ入りそうなくらいの大きさの穴が開いているのが見える。
「それならこのお金、貴重なものだったりするんじゃない?」
「いや、近所のおじいちゃんがたまに同じのが畑から出てくるって言ってたから違うみたいだよ」
「そうなんだ」
ミコトは自身の手のひらに置かれたお金をまじまじと見ながら、今度帰り道で探してみようと考えた。
「それじゃあ、いくよ」
零がお金を賽銭箱に投げ入れる。
ミコトも同じようにお金を投げ入れる。
カランという木の軽い音が境内に響く。
二人は作法通りにお参りをし、最後に一礼した。
「ちゃんとお願いできた?」
零がミコトの顔を覗き込む。
「うん!そういえば零くんは神様に何をお願いしたの?」
「僕はお願いじゃなくてお礼をしたんだ」
「お礼?何の?」
零が少し恥ずかしそうに視線を逸らす。
「と、友達をくれてありがとうございます…って」
「友達…?」
「ミコトくんのことに決まってるだろ!」
ミコトは目を丸くする。
ふと昨日の放課後のことを思い出した。
「実は僕も神様にお礼をしたんだ」
零が首をかしげる。
「お礼って何の?」
「僕、昨日の放課後、一人でこっくりさんをしたんだ」
それで、と零が興味津々な様子で続きを促す。
「それでこっくりさんに僕にも仲良しの友達はできますかって質問したんだ」
本当にできるなんて思ってなかったけど、とミコトは頬を赤らめる。
「すごい!きっとカミサマが僕たちを友達にしてくれたんだよ!」
零は溢れんばかりの笑顔でミコトの手を握る。
「僕たちずっと一緒だよ」
ミコトも満面の笑みを浮かべ「うん!」と大きく頷いた。
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