6
☆
車の座席を倒して、マットレスをひき、目隠しのカーテンをつけ、電気ランプに明かりを灯す。簡易的な台を出して、買ってきた食材を並べると、うまそうな匂いがした。
「おいしそう」と彼女は向かい合って言った。
『じもとの魅力たっぷりパン』という名前だった。真ん中で開いた大きなコッペパンの底にレタス、鶏肉、焼きそばが一緒に包み込まれている。思い切りかぶりつくと、甘い焼肉だれの香りと共に、外からは見えなかった揚げ餃子が口の中で「ヤッホー」と楽しげに踊っていた。思わず笑みがこぼれる。
「幸せそう、きみ」
「そりゃあね」と僕は笑う。「この、中に何が入っているか分からない感じも楽しくていい」
腹が減っていたのもあって、すぐに食べ終えてしまった。思い切り水を飲んで喉を潤した。
しばらくすると、いいなあ、自分ばっかり、と恨めしそうに響いて静かになった。
台を片して仰向けになる。
ランプの明かりが天井に丸い光の輪を描く。ふと、これは無機質な温かさだと思った。小さい時にやったようにオオカミを作って吠えさせてみたりした。自分の手を使って他のシルエットも創作できないかと考えてみたが、いいアイデアは湧いてこなかった。ロールシャハテストをしているみたいな気持ちになる。ロールシャハテストか…。そういえば、あの精神科の先生は病院へ行くたび、僕に絵を描くよう指示した。精神分析というやつらしかった。
「それって何を作っているつもりなの?」
「なんだと思う?」
意地悪く問い返してみる。
「プレーリードッグ?」
「どこがだよ」
「じゃあこれは?」
「ホットドッグ」
「犬ばっかりだな」
噴き出して笑うと、引き潮のように、声は消えていく。じっと光の輪を見つめていることにも飽きてしまって、明かりを消す。
暗くなると、波の音とまた君のささやき声がした。それはもう空耳だって分かっているのに、僕はそんな彼女とのやり取りに一喜一憂して、あの時みたいに怒ってみたりした。このまま夜が続けばいいのに。
静寂の中、また君に会いたいと思った。
なにもかも嫌になった僕は旅にでた @hiroaki4463
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