第29話 ピケと魚と真人の昼下り!
「まだかにゃ〜まだかにゃ〜」
最初は、尻尾がゆらゆら揺れているだけだったが、秋刀魚が、焼けていくごとに、ピケの体がゆらゆら揺れている。そろそろ、鼻歌でも歌い出すのではないかと思う真人。
「ピケ隊長、秋刀魚が焼けたであります」
真人が、わざと敬礼をするフリをすると、意味もわかっていないが、ピケも真似て敬礼をする。
「ご苦労だったにゃ。早くその魚を渡すんだにゃ」
ピケも、茶番に付き合ってくれる。
真人は、ほろほろで崩れそうな秋刀魚の身を、トングでゆっくりと掴んで皿に乗せる。すると、脂がジュクジュクと音を立てて、おいしそうな匂いが辺りに立ち込める。
「ピケは、このままでいいの?何か味をつける?」
「そのままの、香ばしい匂いを楽しみながら食べたいのにゃ。早く下さいにゃ」
真人は、皿に秋刀魚とフォークを乗せて渡す。だがピケは、フォークを使わずに頭と尻尾を器用に持ってパクッと1番脂の乗った腹を口に含む。
「にゃにゃにゃにゃんだ〜うみゃ〜だにゃ〜今にも崩れそうな柔らかな身を口に入れたら、見た目通りすぐ口の中からなくなったにゃ。それに、甘い脂とパリパリの皮...それと、上等な塩の味だにゃ。幸せだにゃ〜。ん〜尻尾の方まで旨味が詰まってるにゃ。最高だにゃ。まだまだ焼いてほしいにゃ」
凄く秋刀魚が、気に入ったのだろう。見ているだけで幸せな気持ちになるピケに、更に幸せになってもらおうと、酒のつまみで焼こうとしていたアジの開きを七輪の上に乗せる。
その間に、真人は秋刀魚にすだちと醤油をかける。そして、大根おろしを身の上に乗せていただきま〜す。
「うひょ〜これはうまいな。身がジュージューで脂の乗りが抜群にいい。太っているから、旨味もあるし最高だな。それに、醤油とすだちと大根おろしの3連コンボが、後口をさっぱりさせてくれるぜ。とにかくうまい!って涎を垂らしながら顔を近付けてくるなよ」
ピケは、秋刀魚の虜になったのと、未知の食べ方をこれでもかと、うまそうに食べる真人を見て、我慢の限界を迎えてしまったようだ。
「なんだにゃ?その食べ方は?食べさせてくれてもいいにゃよ。ほらほら寄越すにゃ〜。・・・うにゃ〜鼻が鼻が・・・にゃ〜」
真人は、絞ったすだちの果肉の部分をピケの鼻に押し付けたのだ。初めてのすだちの刺激に驚いたのか、涙目になって鼻を押さえるピケ。
「酷いにゃ酷いにゃ...鼻がおかしくなったと思ったにゃ...グスン」
泣いているピケを後目に、真人は気にせず秋刀魚を食べているのだ。そして、アジの開きも、身の部分が焼けたのだろう。裏返して皮を焼いていく。
「うにゃ〜またまたいい匂いのする魚にゃ。綺麗な色にゃ。にゃにゃ...これを食べさせてくれたら、さっきのことは許すにゃよ?」
最初からアジの開きは、ピケに食べて貰おうと焼いていたのにと思う真人。
さっきから、1人盛り上がるピケを見て、おもしろい猫娘だなと思うのであった。
「もう少ししたら焼けるけど、またこのまま食べるのか?」
「うにゃ〜くれるのかにゃ。う〜ん?どうしようかにゃ?う〜ん?やっぱりそのまま食べるにゃ。ゴクリ・・・熱いハフハフ...うみゃ〜だにゃ。ホクホクて脂の乗った身にパリパリした皮...しかも、にゃんでこんな旨味が凄いのにゃ〜」
どうやら、この猫娘は干した魚も好きなようだ。パクパク食べ進めて、綺麗に骨の間の身も食べていた。
「うまかったならよかった。それで、行かなくていいのか?商人なら予定があったんじゃ」
「にゃ?大丈夫にゃ。今から王都に戻る予定だったにゃ。それより、名前を教えてほしいにゃ」
「あ!ごめん。真人って言うからよろしくな」
「マサト〜よろしくにゃ。にゃにゃにゃ」
あれ?っと思う真人。もう食べ終わったし、王都に向けて出発するはずが、馬車をこちらに寄せて、なんと真人の目の前に座り始めたのである。
「ピケは、何故居座っているんだ?」
「にゃ、にゃんのことかにゃ?ここにいたらおいしい魚が食べられ...にゃ!?違うにゃ」
何故か、自分で暴露してしまうピケ。真人は、そんな嘘のつけない性格のピケをかわいく思ってしまう。
「まぁ、いるのはいいけど、金は払ってもらうかな。金のない者食うべからずだ」
働かないではなく金なのである。
おい!今、がめついと思っただろ?金がなきゃ生きていけないんだよ。俺は、愛と金なら金を選ぶ...って誰に言っているんだか...
「金はあるから大丈夫にゃ。にしても、お腹がいっぱいになったら、眠たくなってきたにゃ。おやすみなさいにゃ」
ピケは、そのまま土の上で丸くなって寝始めるのだった。
「ふわぁぁ、確かにこの陽気なら眠たくなるな。俺も洗い物を済ませたら昼寝でもするか」
そう言って、真人も昼寝の為に片付けをするのであった。
異世界屋台経営-料理一本で異世界へ 芽狐 @mekomeron
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